第10話 正々堂々戦いましょう!
1ヵ月後。王都のニコライ・マークィス=ガルナノの屋敷。
「ウルカン卿、屋敷の制圧および警備兵の配置完了しました!」
「御苦労、憲兵隊は指示があるまで待機してちょうだい?」
「はっ!!」
私の指示に従い引き下がる憲兵隊。
「そろそろマークィス=ガルナノが兵を引き連れて戻ってくる頃よ?みんな準備はいいかしら?」
先祖代々から伝わる真紅の鎧を身につけてパルチザンを振り上げる。
「いつでも行けますぜ当主様!久しぶりに腕が鳴りやがる!」
モーニングスターを握りしめながらいきり立っているガランド。腕の動きを制限されない肩当てのない軽装備だ。
「まぁ汚い言葉使い・・・でも今日は見逃してあげますわ」
カギヅメの手入れを入念にしているアザヌ。その身を包んでいるのは出身ギルドのあるロザリスの町の道具屋にあった最高級の胸当てだ。
「かつては冒険者で憲兵隊の我々にこんな活躍の舞台を頂けて感謝致します、ご当主様」
ダブルソードを持っている時も貴族言葉を崩さないスラク。彼は冒険者時代の使い慣れた装備を身につけている。
「相手は軍部を掌握した大勢だけどこの屋敷の力を借りれば少数で撃退できる・・・今日こそ貴方達の力を発揮する時よ!」
「「「おおおおおぅっ!!!」」」
自分の率いる派閥の勢力を減少させていたニコライ・マークィス=ガルナノは、これより3日前に突如として王城に乗り込み軍部を掌握した。
有事でない現在では元将軍といえども勝手に王城の軍隊を動かす事は反逆行為だ。にもかかわらずこんな暴挙を犯す、マークィス=ガルナノにはもはや後がないのだろう。
そのまま軍隊を動かしてクーデターを起こし王城を完全掌握した。王城にいた王族や貴族は軟禁されているとの事。
現在王族ごと捕らわれている宰相デューク=エアドから密命と前もって対策を受けていた私はガランド・アザヌ・スラクの3名に加えて憲兵隊のコネを使って30名の隊士を借りてきた。
そして現在マークィス=ガルナノの屋敷を掌握した。抵抗する警備兵や使用人はことごとく殺害、逃げ出していたガルナノの家族も身柄を捕えてこの屋敷に連れてきている。
数時間後、王城からの軍隊が屋敷を包囲した。その数はざっと見ただけでも300名はいるようだ。軍隊の中から使者がやってくる。
「ガルナノ将軍からのご伝言を伝えます、
『こちらは王国軍隊である、貴君らの恥知らずな行いは見逃せない・・・よってただちに武装解除し投降される事を命ずる、従わない場合は王国軍を持って貴君らを屋敷もろとも全滅する事とする』
以上です、ご返答を!!」
まだ若手の兵士だろうか。敵を前に緊張はしているもののどこか私達を見下したかのような表情だ。
「けっ、武装解除で投降しても従わなくてもおっ死んぢまうんじゃねぇか?」
「我々の行動を恥知らずとは・・・勝手にクーデターを起こしたのはどちら様なのですかしら?」
「・・・使者ごと斬り捨てましょう、ご当主様!」
ダブルソードを構え怒りがこもったスラクを見た兵士は後ずさりしている。やっぱりまだまだ若手ね。軍隊の兵士の質も高くはないようだ。
「やめなさいスラク、彼には私達の言葉を伝えてもらわないと・・・いえ、私が直接彼に同行して返事を伝えてくるわね・・・さぁ貴方、私を案内なさい」
「は?そ、それはつまりウルカン卿だけが投降なさると・・・」
「答える必要はありません、早く案内なさい!」
私の剣幕に恐れをなして軍にもどる兵士と後を追う私。
軍勢のいる門前まで来ると一部隊が私の前で槍を突き出している。使者を引き入れた兵団長が私に警告する。
「そこでお止まりを!投降されるのなら武装解除が先で」
「兵団長に私どもの意向を直接伝えます、
『これは元将軍らしくもないお取引、屋敷を返して欲しくば実力で来られる事を・・・我らに撤退の文字はない』
間違いなくお伝え下さい」
「なっ・・・こ、この軍勢を相手に退かないと・・・」
「我々はガルナノ卿のクーデターに対して立ち上がった義勇兵です!その使命は逆賊から国を守ること・・・正々堂々戦いましょう!ラァァァヴァ・ウェェェェイヴ!」
口上の後パルチザンを斜めに構え地面に突き刺し半円を描く。広範囲のラーヴァ・フロゥであるラーヴァ・ウェイヴを放つ。
「「「ぐぁ、て・・・撤退ぃぃぃ!!」」」
私の攻撃に慌てて逃げ出す兵士達。作戦通りだけど国の軍隊にしては弱腰ね。
第一段階の攻撃を放った直後素早く屋敷に戻る。
「みんな!屋敷の中には憲兵が30人いるけどここには私達4人しかいない・・・やれるわね?」
「もちろんでさぁ!弱っちいのがいても邪魔になるだけだっ!」
「騎士団も軍隊も我々元冒険者のレベルには敵いませんわ!」
「当主様に歯向かうものは全て敵・・・皆殺しです!!」
屋敷を囲んでいる塀が大軍を寄せ付けないようになっている。ガルナノの立場からすると家族の捕らわれている屋敷を壊す訳には行かず、少数ずつ進軍するしかない。それ故に我々4人で敵を仕留める作戦だ。
憲兵隊の兵30名は屋敷内での警備についている。捕えたガルナノの家族達の逃亡を防ぐため、そして我々のスキをついて屋敷に敵兵が侵入した場合に迎撃してもらうためだ。
これを考えたのは宰相のデューク=エアド、敵対貴族とは言えガルナノの家族を人質にしてまでの作戦には不快感があるものの効果的な作戦だと認めなければならない。
2時間後、300の敵兵は200人程の死傷者を残して悉く退却した。宰相の作戦通り私達の少数精鋭で対応する事が出来た。
冒険者時代からの戦法、私のラーヴァ・フロゥで敵兵の足並みを崩し、ガランドのウィンドミルにて敵を動けなくする。その後アザヌとスラクの接近戦に持ち込めば仕留められない敵はいなかった。
「ふぅ、みんなお疲れ様・・・ただちに王城にいるエアド閣下に敵軍の撤退を知らせなきゃいけないんだけど・・・」
屋敷の籠城戦が終わればすぐ報告をするように言われている。しかし皆疲れているので無理は言えないし、普通の兵士では敵兵に見つかれば役目を遂行することは出来ないだろう。
私の提案に答えたのはガランドだった。
「なら俺が行くぜ、俺だったら敵兵に見つかっても返り討ちだ!」
なるほど、アザヌもスラクも彼より弱くはないけど謎の範囲攻撃ウィンドミルを使えるのはガランドだけ、ならば一対多数戦の得意な彼が適任か。
「じゃあガランド、疲れているところを悪いけど・・・お願いするわね」
「よっしゃ!ボーナスは弾んでくれよ?ちょっくら行ってくるぜ!じゃあなっ!!」
「ちょ、ちょっとガランドさん!もう当主様に何て言葉使いを・・・」
「っ、あの野郎・・・私が至らないばかりに申し訳ありません、帰ったら説教してやる」
「いいのよアザヌにスラク、今は有事だから多少の無礼は咎めない・・・むしろ自分から名乗り出てくれたのはありがたいわね」
その後、私達がガルナノ邸で300人の軍隊を相手取っている間にデューク=エアドが私兵を王城に引き込みガルナノと彼に従う兵達を追い払ったとの通達が来た。
知らせを受けた私達はガルナノの家族達を王城に連行した。処罰はガルナノ本人が連行された時に決定するそうだがクーデターを起こした罪状は決して軽くはないだろう。
全てをやり終えた私達は王都のウルカン屋敷に向かい休息する。エアドから「警備隊長君を少しの間お借りしたい」との事でガランドは彼に同行し、続けてガルナノ一派の掃討作戦を行うようだ。ガランドが帰ってきたらボーナスを渡さないと。
しかしそれから一週間後に帰ってきたガランドは・・・二目と見れない姿で事切れていた。
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