第4話 でもこの力は一体・・・
僕がパーティー活動を再開して4ヶ月後。
トリニティ・フロントでクエストを請け負いつつアークさんから戦い方のアドバイスを受けている。また今まで使っていなかった盾を使った攻撃技である「シールドバッシュ」も使ったり、時にはアークさんのように無手で戦う方法も教わった。
一方モーリィさん曰く旅の軍資金が着実に貯まっているそうだ。僕が一緒にいるお蔭でGランクのアークさんの印象が変わり、いい仕事を回してもらえるとの事だ。お互いにいい結果になっていてひと安心。
「む・・・デルト君、他にいいのが無ければこのクエストを受けてくれないか?」
珍しくアークさんがクエストに反応している。内容は「モンスターにより壊滅させられた農村の復興」だそうだ。モーリィさんが呟く。
「はぁ、相変わらず農業のことになると必死になるっていうか・・・報酬はまあそこそこだけど、どうする坊や?」
「え?僕が決めちゃっていいんですか?」
「アタイよりか坊やの言う事ならコイツも素直に従うよ」
「そうだな・・・君に任せるよ」
困ったな、僕にそんな決断は出来ないんだけど・・・モーリィさんの言うように報酬は悪くはない、でもモンスター退治ではないので戦闘の経験は積めない。しかしアークさんには戦闘術のお世話になってるから・・・
「分かりました、このクエストを受注してきます」
「ありがとうデルト君!」
「あ~ぁ、坊やがアークの抑え役になってくれると思ってたのに・・・まぁ仕方ないね」
そう文句を言うモーリィさんも言葉とは裏腹に機嫌は悪くなさそうだ。
農業支援なんて初めてだけどがんばろう!
◇◇◇
モンスターに荒らされた畑を耕し直す。
「はぁはぁ・・・こ、これはちょっと」
「まったくだらしないねぇ、まだ1時間も経ってないじゃないか!これじゃどこかのボンボンだよ」
同じく鍬を振っていても息一つ切らせていないモーリィさんの叱咤が耳を撃つ。正直今までこんな重労働はやった事は無かった。冒険者になってからはクエストやって生活費を稼いでいたからなぁ。農業がここまでキツいものだとは知らなかった。
「デルト君、力を入れすぎだ・・・それじゃ疲れて当たり前だよ」
こんな時もアークさんは丁寧に鍬の振り方を教えてくれる。戦闘もできて農業もできるこの人って一体何者?
「もう少しがんばってみるか・・・はぁっ!」
「ほら、その調子だよ!気合入れな!」
「よし、いくぞ・・・ロォド!」
貯水池の水がアークさんのスキル・ロォドによって掘った溝に流し込まれる。そのまま上手く水が流れていく。
「はぁ、何とありがてぇこった」
「これでわざわざ水くみに行かなくても良くなった」
「アンタは神様だよぉ」
村の人達がアークさんを褒めたたえている。
何でもこの村ではこのため池にしか水がないため畑の水撒きをするにはこの場所まで水をくみに来る必要があったらしい。
事情を聞いたアークさんは村の地図を見せてもらい、畑や道の邪魔にならない場所に水路にするための溝を掘った。これで村の畑全てに水が届くようになったとの事。
もちろんこんな用水路の制作はクエストにはなかったけど村人達の困っている様を見かねたアークさんが自らした事だ。僕もほっておくわけにはいかなかったので溝掘りを手伝わせてもらった。
モーリィさんは「タダ働きはゴメンだ」といって休んでいたけど。
「む、あそこにも畑があったか・・・デルト君、君のロォドで水路を作ってくれないか?」
「僕の水属性スキルじゃアークさんのように細かい操作は出来ませんよ、発した瞬間に弾けてしまうので」
先程溝に流し込む前に僕も貯水池の水をコントロールしようとしたけど、鬼力を込めるだけで水が跡形もなく弾けてしまう。アークさんや他の水属性の冒険者のように自在にコントロールが出来ない。
アークさんは鍬で溝の横に2箇所の傷をつけた。
「問題ない、2つの真ん中を狙って直接ロォドを放つんだ・・・私の計算が正しければ恐らく」
自信はないけどやってみるか。幸い横に流れている水路には水はたっぷりあるし。
「いきますっ!ロォォォォォド!!」
鬼力をこめてロォドを放つ。
ドォォオオオオオ・・・!
「な、こ・・・これは!」
何と僕の放ったロォドは地面を削りながら一直線に向かっていく。その様子はマィソーマお嬢様のラーヴァ・フロゥによく似ている??
「よし、そこまでだ!ロォドを止めてくれ!!」
言われるままにスキルを止める。見事に畑の近くにまで一本の水路が出来上がっていた。アークさんが僕の肩に手を置いて語り掛けてくる。
「これが君の力だよデルト君、これなら溝を作る手間が省ける」
「え、で、でもこの力は一体・・・」
「そう、間違いなくデルト君の力だよ!君の属性は」
「おぉーい!昼メシが出来たよ!さっさとしないとおまんま取り上げだからねぇ!!」
モーリィさんの声が飛んでくる。水路工事を手伝わなかった代わりにゴハンを作ってくれたのか。
「いきましょう、早くしないと冗談抜きでゴハン無しになってしまいます!」
「本当だな、行こう!」
クエストを終了した翌日、宿屋の一室にて。
「僕には水属性だけじゃなくて・・・電属性も?」
「ああ、そうとしか考えられない・・・同じ水属性を扱う私にはわかる、君の水は『弾く水』なんだ、水と電撃の衝撃を兼ね備えた言わば『爆水』というものか」
アークさんから突然の指摘をされて驚く。
「
まさか自分の属性が複合属性だったなんて。
今日僕が使ったロォドは地面を穿ち水路を作っていった。そのまま使うとラージ・シールドのように横に放射してしまう水を地面に当てれば電撃の衝撃が土を抉る。そのまま水流を放出していくと水路が出来上がる理屈だ。
アークさんは「水」と「土」を合わせた「氷」を扱えるそうな。信じられない事だけど先日のクエストではモンスターを氷の刃で切りまくっていた。
ちなみにマィソーマお嬢様は火属性で地面を熱して溶岩を操るスキルを使っていた。もっともアレは地面の土を利用した攻撃なので、どこでも氷を形成できるアークさんのような複合属性とは違うようだ。
本人曰く、「愛する者から受けた一太刀が自分を強くする」との事らしい?
だったら僕もマィソーマお嬢様にわざと攻撃してもらえればもっと強くなれるかも。
「ってまたバカな事考えてんじゃないだろうねデルト坊や!アークのマネなんかしたら命がいくつあっても足りないんだから!!コイツは頭のネジが何本か外れてるんだよ!」
「・・・失敬な、私は至って常識的だよ」
毎回まいかい僕の心を正確に読んでくるモーリィさんは単体の火属性だ。戦闘も十分にこなすけどアークさんほどの凄まじさはない。
アークさんのヤバイところは自分の戦闘力が異常だと気づいていない事なんだ。
「だったら僕は水じゃなくて電撃を起こせるようにならないと・・・」
「いや、そのまま水を扱うべきだ・・・ヘタに水を捨てて電属性に切り替えようにもそう簡単にできるものじゃない。だったら君が得意な弾く水『爆水』のまま経験を積んでいった方が上達の近道になるんじゃないかな?」
そうか、今まで水ばかり扱ってきた僕がいきなり電撃を扱うなんて器用な事が出来るワケがない。だったらこれまで通り『弾く水』で勝負した方がいい。
「なるほど、それでやってみます」
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