第5話 承知いたしました領主様

 2ヵ月後、ギルド「ラジム」のクエスト掲示板にて。モーリィさんと貼られた依頼書を物色している。


「デルト坊や、この依頼はどうだい?アンタにピッタリじゃないか??」

「!・・・これは・・・この場所は!!」


 目撃した情報で100匹はいる豚のような顔をした人型モンスターのオーク退治。場所は・・・シャンゾル王国ウルカン領。この名前を再び見ることになるとは。


 モーリィさんの返事を待つことなく受付でクエストの受諾を済ませる。



 僕の父ラート・ミナズは先代領主ソーマイト・アール=ウルカン様の執事だった。僕の母リューノ・カデンはマィソーマお嬢様の乳母でありお嬢様とは乳姉弟だった。


 小さい頃は仲良く暮らしていたけど、今から9年前にウルカン領は大量のモンスターが発生するスタンピードに襲われた。


 領主様ご夫妻と僕の両親、戦える大人達全員はモンスターと戦い全員が帰らぬ人となり、生き残ったのは凄腕冒険者ライオネットの2人に助けられた僕とお嬢様だけだった。



「マィソーマ・ウルカン?そんなのは知らん!我がウルカンを騙る愚か者め!!さっさと出て行かないと憲兵隊に突きだすぞ!」

「あらやだ、こんなみすぼらしい子達なんて知りませんよ!冒険者まで一緒になって・・・困りますわね?」

「さっさと出てけ!ここは僕達のウチだぞっ!!」


 ウルカン家の大人達全てを失った後屋敷にはご領主様の縁戚者にあたるロジャー・ウルカンが居座っていた。スタンピードの訃報を聞きつけて駆けつけた時にはご領主ご夫妻は亡くなっていたのでシャンゾル国王様から爵位と領地を譲り受けたらしい。


 本来マィソーマお嬢様が次期当主になるハズなのに新領主となったロジャーはお嬢様の存在を認めず屋敷から閉め出した。

 残念ながらお嬢様には身分を証明するものはなく追い出されるしかなかった。社交界にて貴族達の前にでるデビュタント前だったので、王族や他の貴族への伝手もなかった僕達には国王様に訴えることすら出来ない。

 またロジャーの領地に避難していた非戦闘の領民達も新領主には逆らえないため僕達の味方にはなってくれなかった。

 何もできない悔しさに潰れそうになりながら、


「僕は・・・冒険者になる!強くなってお嬢様を守るんだ!!」

「ぼ・・・ぼうけんしゃ?」


 空元気にも僕はそう叫んだ。ご領主様達を失い家にも帰れず悲しんでいたお嬢様を励ますためだ。お嬢様も僕の決意に応じてくれた。

 腐っているヒマなんてない!僕は力を付けて・・・お嬢様を守る!


 その後ウルカンの領地から少し離れた「ロザリス」に来た。ギルド・グラーナで冒険者の手続きをする。幸いな事にこのギルドは新人教育に力を入れているので僕もお嬢様も無理なく冒険者への道を進むことが出来た。


 それから今に至るまで9年間2人で冒険者をやって実力をあげてきた。

 僕はお嬢様のためならどんなにツラく強いモンスターが相手のクエストでもやってきたつもりだった。



 シャンゾル王国のウルカン領地のクエストに向かう道中にて。


「坊や、どうしたんだい?やっぱりこの依頼受けない方が良かったんじゃ・・・」

「・・・何か因縁でもあるのか?」


 モーリィさんとアークさんが気にかけてくれている。そんなに顔に出ていたのか。これはマズい、クエストでは今の領主ロジャーと対面する事になるから。


「す、すみません!大丈夫です、むしろ願ったり叶ったりというか・・・気合入れていきましょう!!」


 さすがにアークさん達を巻き込んでロジャーに危害を加えるワケにはいかない。今回のクエストは現領主の様子を観察するのが優先だ。




2日目、ウルカン領地。


「いくぞ!スパークルロォォォォォド!!!」

「Bugooooogoogooooooooooo!!」


 僕のスキル、スパークルロォドが地面を削りながらオーク達を叩きつけていく。


 100匹のオーク退治、実際は154匹と割り増しだったが手早くクエストを完了できた。


 あれからロォドを練習してきたお陰でマィソーマお嬢様のラーヴァ・フロウのように地面を走る攻撃が出来るようになった。そして僕のロォドは電属性が付加されているためか掠っただけでも電撃を与えて相手を動作不能に出来るようだ。


 今回は僕の戦闘訓練という事でアークさんもモーリィさんも基本手出しはしなかったが、お陰で一対多数戦での自信がついた。討伐数以上の魔石も取れてモーリィさんもご機嫌だ。



◇◇◇



 クエスト達成の報告をウルカン屋敷にて行う。


 ロビーの離れた場所に領主ロジャーとその奥方がいる。両人ともしかめっ面をしていてこちらを歓迎していない事がよく分かる。

 久しぶりに見たコイツらが何事もなくピンピンしているのを見ていると憎しみがこみ上げてくる。


「あらやだ、ずいぶんと身すぼらしい者達だわね・・・早く引き取ってもらえないかしら?」

「バーバラ、静かに・・・よくやってくれた、冒険者の諸君・・・報酬はギルドにて用意してあるからさっさと帰って受け取ってくれたまえ」


 ロジャーは手を払いながら面倒臭そうに言い放つ。こんなヤツがマィソーマお嬢様や前ご領主ソーマイト様の縁戚とは信じられない。傲慢な物の言いようにモーリィさんだけでなく物静かなアークさんまでが不快感を示していた。


 屋敷の執事から領主のサインが入った書類を受け取り、2人に代わり僕が代表してあいさつをする。


「承知いたしました領主様・・・それでは失礼致します、皆さん行きましょう」


 踵を返して引き下がる僕、2人とも黙って付いてきてくれる。今は何もできないけどいつかはお嬢様のために領地を取り返してやる。



 エントランスに向かう途中で腕を組んでいる若い男性が僕達の行く手を阻むように立っている。彼は確か・・・あの時にいたロジャーの息子か。今は憎しみを堪えて通り過ぎるしかない。


「失礼、横を通ります・・・ぐぁっ!」


 距離を開けて通ったところをいきなり殴られた。もっとも鍛えられた僕には左程威力を感じなかったけど。


「お前誰に口利いてやがんだ?俺はアール=ウルカン令息キース・ウルカンだ、冒険者ごときが偉そうに挨拶しやがって・・・それよりアンタだアンタ!」


 ロジャーの息子がそう言って指を指したのは・・・モーリィさん?


「???」

「薄汚ねぇ冒険者にしちゃなかなか美人じゃねぇか、帰る前に相手してやるよ」


 こいつ、モーリィさんになんて事を!しかしモーリィさんは息子に手を差し出す。


「それはありがたい事で・・・それではお手を」

「おぅ、なかなかキレイな手ぇしてやがるじゃね・・・・・あぢぢぢぢ!!」


 彼女の手に触れた瞬間、奴はみっともなく騒ぎ立てる。火属性のスキルを使用したのか。


「あらあら、アタイの熱烈な歓迎は熱すぎたのかしら?ごきげんよう、おぼっちゃま」

「テメェ!この俺にこんな事をしておいてタダで済むと・・・足が動かねぇ!!」


 モーリィさんに掴みかかろうとしたロジャーの息子の足が地面に縫い付けられたように止まる。冷気を醸し出しているアークさんが静かに呟く。


「・・・モーリィ、そこまでだ・・・デルト君、平気だな?もう行こう」


 こうして僕たちは無事にウルカン屋敷を後にした。

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