第6話 どうか道中お気をつけて!
ウルカン屋敷からかなり離れた街道にて休憩する。僕は助けてくれた2人に謝罪する。
「すみません、僕が代表をさせてもらってたのに迷惑掛けてしまって」
「坊やが謝る事じゃないさ、悪いのはあのボンボンだからね?」
「全く不快な気分にさせられる領地だ、当主も奥方もその息子もだが・・・農地が放りっぱなしにされている」
アークさんが辺りを見渡す。そのほとんどが荒れ地となっている。元々ウルカン領は特産品もなく畑も育ちにくい。先代のご領主様は質素倹約して領民の負担を減らしていたけど、現当主のロジャーは何も対策をしていないようだった。
「広大な土地だが川が無いので水回りが悪い上に貯水池も作られていない・・・水路でも作れば畑にまんべんなく水を渡せるんだが・・・やろうとすればかなりの大工事になるだろうな」
突然語られるアークさんの農業知識・・・貴族家で何不自由なく暮らしていた僕には真新しい事ばかりだ。
そういえば前にやった農業支援のクエストでもアークさんが自分から畑に使う水路を作っていた事を思い出す。このウルカン領にもアレが必要なのか。
「もし水路さえ作れば・・・ここは豊かになれるんですか?」
「ああ、でもそれは第一段階に過ぎない・・・その次は土の成分とこの辺の気候を調べてどんな作物が育つのかを考えなきゃならない、そこまでやってようやく種植えという所だろう・・・実際に収穫が出来て領地が潤うには最低でも5~6年はかかるな」
アークさんの意見はいちいち最もな事ばかりだが気の遠くなる話だ。本気で領地改革に乗り出すなら命を削る、いや領地に骨を埋める覚悟が必要だ。
「へぇ、さすがは元農村出身だねぇ?」
「村では女手が足りない時は開墾作業も手伝った事もあったからな・・・彼女は元気にしているだろうか」
そう言ったアークさんの目は遠くを見つめている。故郷に恋人でも残してきたのだろうか?
「はっ、その彼女サンを探すために付き合ってるこっちの身にもなって欲しいモンだ・・・大体アンタの本当の目的はその彼女を引っ張り回してる男の方だろ?」
「・・・自分の力が彼に通じるか試してみたいだけさ」
「はぁぁ・・・男が男のケツを追っかけるって聞くけど厄介なヤツに見込まれたモンだねぇ、その荷物持ちってのも!デルト坊やはこんな大人になるんじゃないよ!」
何気なく凄い事を言ってるけど首を突っ込まない方が良さそうな話だ。それよりも。
「荷物持ち・・・昔助けてもらった2人組の冒険者の人も荷物持ちだったなぁ、ルーブルさんとウィルマさんは元気かな?」
その時遠くを見ていたアークさんの顔が険しくなる。突然僕の両肩を掴んできた。
「何だと!一体いつの話だ!!彼のそばにはウィルマはいたのか!彼女は元気だったのか!それより今までなぜ黙っていたんだ!!」
「え?ちょ・・・ちょっと」
すごい剣幕になったアークさんにたじろいでしまう。見かねたモーリィさんが間に割って入ってくれる。
「ちょいと待ちな!探し人の情報聞いて焦るのは分かるけど必死過ぎだよ!ほら、坊やがビビって話が聞けないじゃないか!」
「・・・す、すまないデルト君・・・やっと手がかりを見つけたと思ってつい」
「いえ、ちょっとびっくりしただけです・・・じゃお話ししますね?」
そういって9年前のスタンピードでの出来事について話す。
「ルーブルさんと一緒にいたのはウィルマさんだったけど女の人じゃなかったと思います、だって髪も短くて自分のコトを『ボク』って言ってましたから」
「・・・間違いない!ウィルマだ・・・それで彼らはどこに行くと言っていたんだ?」
まさか僕達を助けてくれた2人の冒険者がアークさんの知り合いだったなんて、世間は狭いモンだって言葉があったなぁ。
というかウィルマさんって女性だったのか。言われてみれば声の高い人だったな。それによくマィソーマお嬢様の面倒を見てくれてたし。
「僕達も冒険者になるのに必死だったから聞いてないです・・・ただギルドの人達のウワサ話では荷物持ちの人が『学校に行く』とかって話でした・・・お2人は貴族とのトラブルで急に町を出て行ったので」
あの時ルーブルさん達はすでに大人だったような気がする。そんな人達が今更学校に行って何を勉強する気なんだろう?
「学校、がっこう・・・そうか、彼らが行くとすればあそこしかない!モーリィ、すぐにここから出発するぞ!行先は向こうの大陸だ!!」
さっきまでの剣幕が消えて晴れやかな顔になったアークさん、普段は物静かなだけにここまで表情の変わる人だとは想像もつかない。
しかしモーリィさんの冷たい一言が。
「却下」
「な、何を言っているんだ!せっかく彼らの行き先が判明したのに!!」
「アンタ、今日の報酬も受け取らず宿に置いてる金も荷物も持たないでまた死にかけ野宿の旅をやるつもりかい?!いい加減学習しな!」
「・・・・・・」
モーリィさんの正論におし黙るアークさん。どんな時だってお金は必要だ。それを忘れるほど探しているルーブルさんとウィルマさんとはどんな関係だったんだろう?
ギルドから報酬を受け取った三日後。
アークさん達が再び旅を始める事になり僕はトリニティ・フロントから脱退する事になった。
なおこのクエストの依頼主たるクライツ殿下にアークさん達がこの町を出る予定を伝えると、すぐさま隣国にあるギルドへの紹介状を書いてくれた。シャンゾル王国王太子殿下のお墨つきなら誰も文句は言えない。これで国を出ても問題なくクエストが受けられるそうで安心だ。
これもアークさんの謹厳実直な行動や成果があっての事。文句を言いつつも彼と一緒にいるモーリィさんもしっかりサポートしている。あえて道を踏み外すような事がない限り路頭に迷う事はないだろう。
「すまない、君への戦闘指導が中途半端になってしまった・・・だが」
「大丈夫です、アークさんには基本を教えてもらいましたから・・・後は何とか一人でやってみます!」
スキルの発動方法・戦闘方法・僕の属性の正体とアークさんから教わった事は山のようにある。今後はこれをどう消化して自分のモノにするかが問題だ。
「悪いねデルト坊や、アタイもこんな物騒なヤツを放っておけないんだ・・・ただ坊やに恩返しが出来なかったのが残念かな?」
「お互い様ですよ、モーリィさんにもずいぶん助けてもらいましたから!」
彼女からもケガの応急手当の方法や簡単な自炊のやり方など生活に必要なものを教えてもらった。どれもソロで冒険者をやっていくには必要な技術だ。
「デルト君、世話になったな・・・後一つ言っておきたい事がある、中年男のお節介だと聞き流してくれていいんだが」
「何ですか?」
「君は自分を追放したパーティー・・・いやその中の一人の事が諦めきれず忘れられないように思う、どう行動するかは君の自由だ・・・しかし自分が欲しいものは簡単に諦めない事だ」
やはりアークさんには見抜かれていたようだ。2人にはマィソーマお嬢様の事は一言も言ってないのに。
「ホントに余計なお世話するねぇアンタも!デルト坊や、コイツの話は半分程度に聞いときな!普通の人間がヤる事じゃないからね!・・・それじゃ行ってくるよ、また元気な顔を見せておくれ!」
「はい、お2人にはお世話になりました!どうか道中お気をつけて!」
僕は2人に手を振り続ける、その姿が見えなくなるまで。
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