第2話 こんな戦術があるのか・・・!!
その晩、女性一人に部屋を貸した僕も宿屋には居られないので眼帯の人・アークハイドさんと野宿をする事になった。
本当は僕が別の部屋を2人分取ろうとしたけどアークハイドさんは自分の都合が悪いのか頑なに断る。僕も採取クエストを手伝ってもらった手前、彼を野宿させて自分だけ部屋で寝るのも気が引けたためだ。
ゼルベの町から少しだけ離れた岩場。ここならモンスターもほとんど寄ってこないので安全だ。
アークハイドさんのものと自前のテントを2つ張ってから晩御飯の準備をする。町の屋台で買ってきた食材を並べる。
「いや、迷惑を掛けておいてこんな良い夕食をもらうワケには」
「アークハイドさんが目標数以上に薬草採ってくれた分なので気にしないでください、僕も野宿させもらうんだし」
「そうか・・・ここは素直に頂こう」
2人で晩御飯を食べながら話す。アークハイドさんは何でもイラザス鉱山で収監されていた元囚人だったとの事。それが刑期を終えたので晴れて出所したのだとか。こんな穏やかな性格の人がどんな罪を犯したと言うのだろうか。全く想像できない。
しかし出所した元囚人には足枷が付けられているらしい。見せてもらった彼の持つギルドカードは「Gランク」との表記。
最下級のFランク以下のGとは元犯罪者を示すものだとか。ギルドでは最低限の恩恵しか受けられないし町の中での扱いも悪いらしい。
パーティー仲間がいる場合は仲間のランクをアテにして行動できるようだけど、そのお仲間・Eランクのモーリィさんが病気で動けないので町に入らず薬草を探していたようだ。
「デルト君はソロで活動しているのか?失礼だが見たところ・・・」
「あはは、バレちゃいましたか・・・実は3ヶ月前にパーティーを追放されちゃいまして」
僕はアークハイドさんに「リュウコ」での話をする。連携が取れずクエストに失敗した事や水属性なのにコントロールが上手くない事なども包み隠さず話す。
「なるほど・・・もしやデルト君は力の使い方を間違えているのかも知れない」
「?」
「いや、実際に見てみないと分からないんだがどうもデルト君が弱いとは思えない・・・君から感じる鬼力は一人前の冒険者以上のものだ」
「な、何ですって?」
僕が一人前の冒険者以上?確かに「リュウコ」のリーダー・ガランドからは防御だけは一人前だと言われたこともあったけど。
「明日モーリィの様子を見てからデルト君のスキルを見せてもらえないか?ひょっとすれば良いアドバイスができるかも知れない」
「本当ですか!いやでも・・・初対面の方にそこまでしてもらうのは」
「ははっ、さっきまでの私と同じセリフだな・・・むしろモーリィを救ってくれた事のお礼にしては割に合わないだろうが・・・どうか手伝わせてくれないか?」
スキルの使い方を学べばリュウコに、お嬢様のところに戻る事が出来る・・・いやそれは出来ない。でも戦い方を学んでおいて損はないハズだ。
「じゃあ、お願いしますアークハイドさん!」
◇◇◇
翌日モーリィさんの様子を見るため宿屋に行く。
「モーリィ、大丈夫か・・・ぐはぁぁぁっ!」
慌ててノックもせずに入ったアークハイドさんが彼女に殴られてた。アークハイドさんを連れて一度外に出てからノックをして改めて部屋に入り直す。
モーリィさんは目は少しツリ目で長い髪を一つ結びにした女性だった。もうすっかり健康そうだ。
「アンタが部屋を貸してくれた坊やか、ありがとうよ・・・すっかり迷惑かけちまったね?」
モーリィさんは男勝りな喋り方だけど素直な人だ。この人と話しているとお嬢様といた頃を思い出す・・・ダメだ、あの人の事はもう忘れないと。
病気がぶり返すと大変なのでモーリィさんにはもう一日僕の部屋を使ってもらう事にした。
「僕達は町外れの草原に行ってアークハイドさんに特訓付けてもらいますので・・・ここに食料を置いていきますから遠慮しないで食べて下さい」
「ああ、何から何までお世話様だね?それよりもアークと特訓か・・・あんまり坊やにムチャさせるんじゃないよ!」
「余計な心配だよ、そろそろ行こうかデルト君」
「はい、それじゃモーリィさんもごゆっくり」
昨日野宿していた場所からかなり離れた草原でアークハイドさんと模擬戦闘を行う。何と彼は武器無しでスキルを使用できるようだ。
「さぁ、私の攻撃を防いでみたまえ・・・ロォド!」
アークハイドさんの手から放たれる大量の水。小盾のカエトラを構えて鬼力を集中する。
「ぅぐ・・・ラージ・シールド!」
僕のカエトラから勢いのある水が放射線上に噴き出す。面積の少ない小盾だけど噴き出す水で防御する範囲を広げる僕のスキルだ。
アークハイドさんの攻撃はかなり強いけど僕のラージ・シールドだって負けない!
攻撃を防ぎ切った僕は一瞬アークさんを見失う。一体どこへ??
「隙ありだ、デルト君」
「い、いつの間に??」
何と背後からアークハイドさんの手刀が僕の首筋に突き立てられていた。彼が本気なら僕の首は落とされていたという事か。
「やっぱり僕ができるのは防御だけか・・・」
「そう悲観する事はない、私のロォドを防ぎ切る鬼力はやはり本物だ・・・後は戦い方を学べば」
gigigi・・・GiiiiIiIIIIIi!!
アークハイドさんの話を遮るように茂みからゴブリンが出てきた。その数は何と20体余り・・・ヤバイ、逃げないと!!
「む、丁度いい機会だ・・・デルト君、私の動きを見ててくれ」
そう言ってゴブリンに近づくアークハイドさん。一気にゴブリン達に四方を囲まれてしまった。早く助けないと!!
しかしゴブリンがアークハイドさん目掛けて襲い掛かった瞬間。
「アッパーロォォォド!!」
「GiyaAAAAAAAAH!!」
アークハイドさんの下から突き上げた拳とともに大量の水が壁となってゴブリン達を一気にふっ飛ばす。すごい!こんな戦術があるのか・・・!!
「要は相手が襲ってきた瞬間を狙うカウンター技なんだが・・・君は一度に鬼力を膨大に使いすぎるんだ、君の力だと相手が触れる瞬間のみスキルを発動するだけで敵をふっ飛ばす事が出来るハズだ」
アークハイドさんのスキルに恐れをなした残りのゴブリン達が僕の方に向ってくる・・・僕には攻撃の瞬間なんて見極められないけど鬼力の込めない盾で受ければ。
ガンっ!!
ゴブリンの棍棒を盾で受けとめる。次の瞬間。
「くぅぅぅっ・・・ラージ・シールドぉ!!」
「Ga?Gihiiiiiiii!!」
僕のラージシールドがゴブリンを大空高くふっ飛ばした!やった、盾役の僕でもモンスターを仕留められる!!飛ばされたゴブリンが落ちてくる。
あれ・・・??目の前がまっ暗になって・・・
ぼぐぅっ!!
「お、おい大丈夫かデルト君っ!?」
僕の意識もふっ飛んだ。
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