第1話 時間にはまだ余裕はあります
3ヶ月後、シャンゾル王国の隣国・自由都市スティバトの町ゼルベ。
「はぁ、とりあえずポーションの材料は取れたか・・・ギルドに戻るかな?」
Bランクパーティー「リュウコ」を追い出された僕はギルドのあったロザリスの町から、いや国からも出た。あのままギルドに居座っていたら元メンバー達と顔を合わせる事になるからだ。
そしてソロプレイヤーとなり採取クエストに勤しんでいる。僕一人のランクはEに過ぎず上位クエストなんてとても出来るモノじゃない。
それに盾役の僕を仲間に入れてくれるパーティーは存在しない。もっとも仮に誘ってくれたとしても行く気はない。情けないけど「リュウコ」からの追放のダメージはデカい。
でもお金は稼げないけど一人ってのは気が楽だ。以前はパーティー内で浮いていたようだし。僕は本当に戦闘に向いていないのかも知れない。
そう言えばランクを問わない依頼に「流れの冒険者の身元引受人」なるものがあったけど・・・報酬が悪くないけど色々怪しさ満点だ、近寄るまい。
この世界では「
僕の持つ属性は水。しかしスキルの発動の仕方が悪いのか上手くコントロールできない。他の水属性を持つ冒険者は水を上手く扱いこなしているけど、僕の水は相手の攻撃をはじく事だけ・・・だから武器よりも盾で攻撃をはじいて防御する方が合っている。
3ヶ月前に追い出されたBランクパーティーのリュウコ。
リーダーのガランドは鎖鉄球のモーニングスターの名手。
女性メンバーのアザヌは「カギヅメ」なる珍しい接近戦用の武器の使い手。
スラクは両端に刃が付いているダブルソードを駆使する。
そしてマィソーマお嬢様は穂先のデカい槍・パルチザンで敵を屠る。
誰もが攻撃中心の最強メンバーで構成されている。防御なんか必要ないと言わんばかりに。
しかし戦闘の様子をそばで見ていた僕は知っている。彼らの高い攻撃力は時には味方すら傷つけかねない。高い実力が仇となって事前の計画もなく行き当たりばったりの戦闘が続いている。いずれ限界がくるだろう。
ふと失敗したビッグアリゲイター討伐クエストを思い出す。
お嬢様はクエスト前にワニ型モンスターのアリゲイターを前衛の僕達が引きつけ、合図と共に撤退しお嬢様の必殺技「ラーヴァ・フロゥ」をぶつける作戦を立てていた。
「くっ、足が動かしにくい?」
「ブーツに水が沁み込んで汚いですわっ!」
「お前ら、速く下がれ!マィソーマの攻撃がくるぞ!!」
しかしながらアリゲイターの生息地は水辺、つまり足元が悪く移動がし辛い場所だった。引き付けている間にガランド・アザヌ・スラクの両足が地面に沈んでいるのが分かる。このままではアリゲイターの隙を狙って瞬時に撤退するのは不可能だ。
「みんないくわよ!ラーヴァ・フロォォォオオオ!」
僕にとって正直この3人がどうなろうと知ったことじゃない。でもマィソーマお嬢様を仲間殺しにはしたくなかったのでラーヴァ・フロゥの軌道を変えることにした。
「ラージシールド!」
僕の防御スキルでお嬢様の攻撃を相殺した。お陰で3人とも傷一つなかったが討伐対象である繁殖能力を持つ個体まで逃がしてしまいクエスト失敗になってしまった。
「てめぇ!せっかくの作戦が台無しじゃねぇか!」
「Aランク昇格まであと一歩だったんですわよ!!」
「いつまでもマィソーマが庇ってくれるって勘違いしてんじゃねぇのか!?」
「・・・・・・」
酒場で皆から失敗を詰められる始末。あのままだと自分達もラーヴァ・フロゥの巻き添えを食っていた事には気が付いてないようだった。そしてその場にいたお嬢様も僕をフォローする事はなかった。
覚悟はしていたけど僕の行動が理解されないのは辛い。何を言っても言い訳になるだろうから僕はただただ謝罪するだけだった。
この件がキッカケとなってパーティーから追放されてしまったのは事実。良かれと思ってしたことが全部仇になるのは残念だけどこれが現実か。
何よりお嬢様がAランク昇格にこだわっている理由は知っている。僕達はそのために冒険者になったと言っても過言ではない。
この国ではAランクの冒険者は騎士として王国騎士団に入団する事が出来る。マィソーマお嬢様は騎士となって貴族の仲間入りをしてご自分の出自を証明するのが目的だ。
その目的を知っているだけに僕も我を立てずにパーティーを後にした。あの3人ならお嬢様を助けてくれるだろうけど全員教養が足りないので不安だ。
がさがさ・・・
過去を振り返っていると草むらをかき分ける物音がした。咄嗟に僕は小盾カエトラを構える。草むらから現れたのは人間一人を背負っている男だ。
「はぁはぁ・・・驚かせてすまない、こちらに敵意はない」
男の冒険者は長髪で右目に眼帯をかけたみすぼらしい身なりだった。彼が背負っているのは女の冒険者のようだ。思わず問いかけてしまう。
「その人・・・ケガでもしてるんですか?」
「いや、2日前から病気にかかってしまって・・・医者に見せたいところなんだが私の身分では難しくてね・・・」
医者にみせるのに身分が関係している?彼らは犯罪者か何かだろうか?しかし敵意もなく苦しんでいる人を見過ごせるハズもなく。
「・・・良かったら僕の採った薬草をポーションにして飲ませて上げて下さい」
そう言って採取した薬草を差し出す。眼帯の男は驚いているようだ。
「これは君の請け負ったクエストに必要なものでは・・・」
「時間にはまだ余裕はあります、遠慮せずに使ってください」
彼はしばらく考え込んでから返答する。
「すまない、言葉に甘えさせてもらう」
そう言って男は背負っていた女の人を草むらの上に横たわらせる。そして荷物から道具を取り出し僕の渡した薬草をすり潰す。彼の手際の良さに関心して見てしまう。
さっきまで薬草だった液体をそのまま空きビンに流し込み・・・小一時間も掛からない内にポーション一本を完成させてしまった。そのまま女の人に飲ませている。
「はぁはぁ・・・」
女の人の表情が少し和らいだ気がした。とは言えまだまだ安静が必要そうだ。
「とりあえず最悪の事態は免れた・・・礼を言わせてくれ」
「どう致しましてです・・・失礼ですが今日はどちらか宿屋にでも泊まるつもりなんですか?」
「それが出来れば上々なのだが・・・さっきも言った通り私では色々とトラブルに巻き込まれそうだからな」
「さすがに病人にテント張って野宿というのは考えものです、その人だけでも僕の泊ってる部屋に休ませてはどうでしょうか?」
「・・・初対面の君にそこまでしてもらう訳には」
「別に貴方たちに恩を着せたいんじゃないんです、僕も今から薬草を余分に採らなきゃならなくなったし」
「それは・・・何とも申し訳ない、分かった・・・彼女を運んだ後私も君の仕事を手伝わせてもらおう」
そう言って宿屋に行き女の人を僕の部屋のベッドに寝かせる。
その後夕方ごろには眼帯の人が手伝ってくれたお陰で目標以上の数の薬草を採取出来た。
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