プロローグ 僕は自由になってしまった
僕は冒険者デルト、Bランクパーティー「リュウコ」の水属性で敵の攻撃を受けきる盾役だ。
宿屋の一室でパーティーメンバー全員から問い詰められている。
「僕は・・・追放されるのか?」
パーティーリーダーのガランドは面倒臭そうに言う。
「けっ、大層な言い方しやがる・・・要はテメェがいたら足手まといになるってこった」
ガランドはトレーニングマニアで「強大な敵には更なる力を」がモットー。選ぶクエストも難易度の高いものばかりの上に作戦も何もあったものじゃない。慎重策を提案する僕とは度々衝突もしていた。
女性メンバーのアザヌが前回の事をほじくり返す。
「貴方のせいで先日のBランククエストは失敗したんですわよ?そのご自覚はあるんですか?!」
パーティーの財布係を管轄している彼女とも意見が合わない。無駄な経費を抑えるのは理解できるけどクエスト攻略に必要な備品の質まで下げようとしてくる。
そのくせ月に一度の自分のご褒美にはパーティーの運営費用まで使っている事を知っているだけに許し難い。
「俺達は仲良しごっこでパーティーやってるんじゃない、そこントコロは分かっているハズだ」
軽口叩きのスラクは密かにマィに気があるようで、以前から彼女と2人でパーティーを組んでいた僕を明らさまに毛嫌いしている。仲良しでパーティーやってないとか言っといて私情をはさんでいるのはどっちなんだ。
「それは・・・分かってる!でも・・・戦闘の役に立たなくても雑用でいいから」
普段の態度はともかく正論を突き付けられて否定はできない・・・でも僕だってマィのために頑張りたいんだ!
「リーダー・・・・デルトにはアタシから言っておくから」
「ちっ、早く追い出せよマイ!」
「あ、ちょっとマィ・・・」
マィは強引に僕の手を引いて宿屋の裏に連れ出す。
「デルト、ごめん・・・幼馴染だからってアンタを無理矢理引っ張ってきたアタシが言える事じゃないけど・・・もういいの」
「ま、マィ・・・」
「これ以上アンタがBランクの『リュウコ』にいると危険な目に合う・・・それがイヤだからこうして言ってるの、お願いだから・・・出て行って」
前髪をきちっと揃えたミディアムヘアで猫のような目の彼女は冒険者マィソーマ、Bランクパーティー「リュウコ」の火属性のパワーファイターで敵の足並みを乱す切り込み隊長だ。僕達は幼い頃から姉弟同然に育ってきた。
「・・・なんでだよ!マィの領地が壊されて奪われたあの日・・・一緒にやって行こうって約束したじゃないか!!」
自分の言葉でその光景がよみがえる。壊された防壁にモンスターと人間達の死体・・・忘れたくても忘れられない過去だ。
「約束、そうよ!あの日の事は死んだって忘れない!だから冒険者になって『リュウコ』に入って腕を上げてきた・・・でもアンタはぜんぜん強くなって無い!」
「・・・・・・・」
マィの告げる事実に一言も反論できない。盾役というのは敵の攻撃を防ぐのが役目。僕は積極的にモンスターを討伐する攻撃よりもマィ達の支援を優先してしまう。
「領地を取り戻すのに必要なのは・・・圧倒的な戦力なの!これからアタシの道には戦いばっかり・・・アンタは優し過ぎるのよ!!」
マィの叫び声に愕然としてしまう。僕のやって来たことは無駄だったのか。
しばらくした後、力の入らないまま呟く。
「そうか・・・所詮僕はお荷物という事か、僕はマィを守るために頑張ってきたけど・・・マィには必要なかったんだね」
「・・・・・・・・」
僕の吐いた言葉にマィが何故か無言になってしまう。
「分かった、マィの最後の頼みを聞かないワケにはいかない・・・僕は出ていくよ、それじゃお元気で・・・マィソーマお嬢様」
別れの挨拶と共に今までずっと呼ばなかった彼女の本名「マィソーマ」で呼ぶ。
お嬢様への敬語無しは彼女から頼まれた事で、「マィ」呼ばわりはお嬢様の本名を呼び捨て出来ない僕が決めた事・・・そのお願いももう聞く必要はない。
「うん・・・アナタも気をつけて」
後ろを振り返ることなく去っていく僕。マィソーマお嬢様は僕をもちろん追いかけたりはしない。
辺りの風景がぼやけてくる。こんなところで泣いてなんかいられない!
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「デルト、私達がいない時はお前がマィソーマお嬢様を守るんだ!いいな?」
「うん!分かってるよ、父さん!」
「ははは、ラートは厳しいな!でもマィソーマは強いけど本当は誰よりも君を頼ってるんだ・・・迷惑を掛けるけど娘を守ってやってくれ、デルト」
「領主様、迷惑だなんて・・・でもお嬢様は僕が守ってみせます!」
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不意に思い出される亡くなった父さんとご領主様との思い出・・・お嬢様から切り捨てられたとはいえ僕はこの約束を破る事になってしまった。
出よう、このロザリスの町を・・・いや、この国からも出て行こう。ここにいればまたリュウコのメンバー達と顔を合わせる事になるし、お嬢様を守る必要がなければこの町に定住する理由は無い。
・・・僕は自由になってしまったんだ。
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