第3話 アタシも虫の居所が悪かっただけだから
ロザリスの町へ戻りアタシ達の所属しているギルド「グラーナ」へ向かう。
「それじゃあ清算いってくるぜ!」
「私もお供しますよ、報酬が楽しみですわ!」
リーダーのガランドとアザヌは討伐部位を納品した後受付で今回の報酬を受け取りに行く。アザヌはパーティーの会計役をやっているので資金の運用には欠かせない。
「ああ任せたぜ、俺らは酒場で席キープしておくから・・・いくぞマィソーマ」
「ええ」
残ったスラクとアタシはギルドの中の酒場スペースで席を4人分キープしておく。ついでにエール4人前にツマミをオーダーする。
2人を待っている間エールに一口つけているとスラクが椅子ごとアタシのそばに移動してくる。
「なあマィソーマ、そろそろ考えてくれたか?俺と一緒に・・・」
腕は立つけどちょっと自信家のスラクは事あるごとにアタシに言い寄ってくる。みんなが「マイ」呼ばわりする中で彼だけは本名呼びだ。
「ふぅ、悪いけどお断り・・・アタシ達は『仲良しごっこでパーティーやってるんじゃない』って言ったのはアンタでしょ?」
「相変わらずつれねぇ女だな・・・そういうトコがキライになれねぇ俺もバカだけどよ」
「ホメてもらっても何も出ないわよ?」
アタシの腰に手をまわしてくるスラクの手の甲をつねる。痛みに手を引いたスラクはあわてて手を引っ込める。
「痛ってぇな、仕事の後は愛妻へのスキンシップと相場が決まってるのに」
「勝手に決めてるんじゃないわよアンタの愛妻じゃないし!全くもう」
そこへ戻ってきたほくほく顔のガランドとアザヌが加わってくる。
「おっ、お前ら人が報酬もらってきてるのに先にヤリやがってしょうがねぇヤツらだな・・・いよいよAランクに昇格したぞ!」
「スラクさん、女性を口説くのならもっとムードを考えなきゃ・・・それはそうとマイさん、さっきウワサ話が聞こえたんですけど・・・」
「どうしたの?」
ガランドとは反対にアザヌは少し顔をしかめながら話してくる。
「あなたの幼馴染さん・・・ここロザリスの町、いえこの国を出て隣国スティバトの町ゼルベに行ってからGランクの冒険者とパーティーになったそうですわよ?」
「Gランク?一番下のランクはFランクだったじゃないの?」
初めて聞くランクに首をかしげているとガランドが説明してくれる。
「なんだ知らねぇのかマイ、Gランクってのはな・・・元犯罪者のヤツラが出所して与えられるいわく付きランクなんだよ」
デルトが国外に行ったというのもビックリしたけど・・・どうして品行方正な性格のデルトが犯罪者とパーティーを組んでいるの?
見かねたアザヌが詳しく教えてくれる。
「Gランクは最低のランク、クエスト達成報酬も犯罪者取り締まり団体に寄付という形でギルドから天引きされるからFランクよりも手取りは少ないのですわ・・・そんな彼らとわざわざパーティーを組むという事は」
考え込むアザヌにスラクが割り込んでくる。
「へっ、要するにデルトのヤツは弱虫野郎だから他に組んでくれるパーティーがなかったんだろ?Gランクのヤツラも一人ゲット出来たしウチも臆病風吹かすアイツがいなくなってからイケイケどんどこに進んで良い具合だから双方ウィンウィンじゃねぇか!」
どんっ!と音を立ててジョッキを置いたアタシは低い声でつぶやく。
「打ち上げでデルトの話はよして頂戴・・・思い出すだけでも気分が悪いったら」
目の据わっているアタシにメンバー全員がたじろぐ。スラクが苦笑いしながらビンからアタシのジョッキにエールを注ぐ。
「は、ははは・・・わりぃなぁつい口がすべっちまったよ、機嫌直しても一杯いこうぜ?」
「ごめんなさい、聞いただけのウワサ話でマイさんの気分を悪くさせました」
スラクに続いてアザヌまで謝ってくる。参ったな・・・場の空気を冷やしてしまった。
「ふぅ、2人ともゴメン・・・アタシも虫の居所が悪かっただけだから」
アタシが謝った事で更に冷え込む空気、それをガランドがリーダーらしく対処する。
「そうだな、いなくなったヤツの事は俺らにゃ関係ねぇ・・・それじゃ気を取り直していこうじゃねぇか・・・・・我らがリュウコのAランク昇格に乾杯!」
「「「かんぱぁぁい!」」」
Aランク、ようやくここまでこぎ着けたか・・・長い道のりだった。これでシャンゾル王国の騎士団に入団する事が出来る。この国ではAランク以上の冒険者は王国騎士団に入団する事が可能だ。
それにしてもデルトはこの国を出てどういうつながりで元犯罪者のGランクのパーティーに参入したのだろうか?アタシを支えてくれた彼に犯罪者たちとつるむヒマなんてかったハズ。
それともリュウコに・・・アタシに追い出されたショックで自暴自棄になってしまったのだろうか?そうだとするとデルトが悪の道に進んだのはアタシの責任という事になる。こんな事をしている間に彼を連れ戻さなくては!
でも・・・今更そんな事できるワケがない。彼を追い払ってしまったのはアタシなのだから。
だったら尚更アタシがウルカン家の取り返しを諦めるワケにはいかない。格下だけど騎士になって貴族の仲間入りをして力をつける、そしてシャンゾル王国の国王陛下に認められた上で家を取り戻す!
次の日の朝、ギルドに行く皆を引きとめて別の酒場に連れていく。
「おぅ、どうしたマイ?これからクエスト受けてひと稼ぎしようってのによ」
「相談事・・・・・って何かしら?まさかあの幼馴染みの事で」
「止せ、ンなことじゃねぇって・・・言ってくれマィソーマ」
みんなをテーブルに座らせてアタシは立ったまま話し始める。
「このまま冒険者やるのもいいんだけど・・・アタシは王国の騎士団に入ろうと思ってるの、貴方たちも一緒に入団しない?」
ガランドが要領のつかめていない顔で聞いてくる。
「騎士団・・・今までみてぇに自由は利かなくなるってことか?」
「ええ、でもいつ命を失うか分からないモンスター狩りより安定しているわね」
彼女らしく資金繰りの事が気になるアザヌが質問してくる。
「しかし報酬の方は・・・」
「王国はお金払いがいいの、一律だけど定期的に入ってくるわ」
いつも通り単刀直入にズバズバ言うスラク。
「そうだな、そろそろイイ職にありついて俺らも身を固める時が来たってコトだ・・・ガランドにアザヌ、俺とマィソーマのダブルカップル誕生ってこった!」
「バカ言わないで、それとこれとは別!それでどうかな?アタシとしてはみんなに付いてきて欲しいんだけど・・・ほら、アタシが抜けるとリュウコはパーティーとしてやりにくいと思うし・・・」
しばらく考え込んだ末に出したガランドの言葉。
「まぁ、リュウコを解散すんのはリーダーとしちゃあ寂しい気もするけど・・・食い扶持が稼げるってんなら俺はいいぜ?」
「私も安定した収入に憧れてましたわ!その提案には乗りましてよ?」
「俺はマィソーマ一筋だからな、どこまでもついてくぜ!」
意外にもガランドにアザヌとスラクは騎士になる事に依存はないようだ。
「みんな・・・ありがとう!じゃあさっそく王国騎士団の事務所に行きましょ!」
◇◇◇
ギルドグラーナで脱会手続きをした後、王城内の王国騎士団の事務所にて。
受付役の騎士が品定めするような目付きでアタシ達を眺めてから一言。
「Aランクパーティー『リュウコ』、ガランドとアザヌ、スラクにマィソーマ以上4名が騎士団に入団希望か・・・ここは冒険者のように自由は効かないぞ?」
「それはわかってるぜ!どんなクエスト・・・任務でもきやがれってんだ!」
「もぅ、『承知しております』でしょ?口が汚いだけですのでどうかお許しを」
「俺達、頑張りますんで・・・どうかよろしくたのむぜ?じゃなかった、えぇと」
「がさつで不勉強な我々ですが騎士団への入団、どうぞ宜しくお願いします」
予想通りだけど皆言葉使いがなってないわね、アザヌが辛うじて合格点でスラクは及第点以下、ガランドに至ってはまるでダメね。
「ふむ・・・君だけはまとものようだ、それに作法も板についている・・・さしずめ騎士団への入団は君が言いだした事だろう、マィソーマ君」
「ご炯眼、恐れ入ります」
「いいだろう、言い出しっぺの君が仲間達の面倒を見ていくことだ・・・君達の入団を許可する!どんな任務も忠実に従うように!!」
「はっ!ありがとうございます!!」
アタシ達4人は騎士団に入隊する事になった。
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