第4話 熱烈たるラブレターね、読んでみる?
王国騎士団での新人研修は様々だ。
早朝、王城の周囲で警備を兼ねたランニング。
「ほっと、毎朝20キロメートルぐれぇのランニングだな!楽勝だぜ!!」
「ぜぇぜぇ・・・こ、これを毎朝やらなければならないとは」
「かはっ・・・き、昨日の酒が祟ってきやがったか」
「ふぅ・・・2人ともだらしないわよ、夜中に飲むのはほどほどになさい?」
ガランドは趣味が筋力トレーニングなのでこの程度のランニングは文字通り朝飯前だ。アザヌとスラクは良くも悪くもグルメでお酒も大好きだから普段の生活の不節制さが見えてくる。
アタシもお酒を飲めない事はないけど酔えない方だから嗜む程度。規則正しい生活には相応しいわね。
◇
戦闘訓練にて。手渡されるのは訓練用のフルーレのみでスキルは使用禁止だ。
「うっ・・・何か頼りねェなこのフルーレってヤツは、モーニングスターならどんな相手でもブチのめせるのに」
「もぅガランドさんってば・・・訓練で相手をブチのめしてどうするんですか、私はカギヅメよりも長い間合いですから扱い易いですわね」
「くそ、これじゃ四枚おろしが使えねェ・・・マィソーマだってパルチザンより短いじゃねぇか」
「お生憎様、色んな間合いの勉強はしてきたわ・・・ギルドの新人時代からね?」
ギルド・グラーナは古巣のギルド。新人時代といってもこの4人の中では一番幼い頃から入っていたので先輩達から色んな武器を持たされた経験がある。あの時はただの新人イジメかと思ったけどこうして見ると奥深い勉強だったと思う。
お陰で訓練試合でも負け知らずだった。
◇
マナー講座。先輩騎士達の監視している中で目の前の昼食を作法通りで完食する事。
「げぇ~・・・音立てんで食べろとかムチャだぜ・・・がぶっ」
『ガランド兵、大声の私語ならびに咀嚼音でマイナス30点』
「ダメですわよ、静かに食べなくては・・・こうやって静かに・・・肉が切れませんわ!」
『アザヌ兵、フォークとナイフの使い方でマイナス20点』
「お前らだらしねぇな、マィソーマの食べっぷりを見ろよ!何もかも完璧だぜ!」
『スラク兵、大声の私語でマイナス25点』
『マィソーマ兵、減点無しで100点!』
昼食を食べ終えた私はナプキンで口元を拭きながら席を立つ。
「人の事見てるより自分の事に集中した方がいいわよスラク、時間内に食べ終わらないと夕食もマナー講座になるからね・・・お先に」
『ガランド、アザヌ、スラク・・・以下3名は夕食もマナー講座決定!ていうかテメェら、食事中に大声でダベってんじゃねぇよ!!』
「ぅ、うそだろぉ~?」
「か、勘弁してくださいまし~」
「くそっ、次は俺だって!!」
アタシは元々貴族生まれだ。幼いころから叩き込まれた貴族マナーが役立ったという事かしら?冒険者の時は所作が綺麗すぎると不思議がられてたけど。
◇◇◇
半年後。憲兵隊執務室にて。
上役の王国騎士団団長が辞令の書かれた紙をもって述べる。
「騎士マィソーマ・ガイタス、貴君を王国憲兵隊第8部隊隊長の職に任ずる・・・職務をしっかり果たすように!」
「はっ!力不足ではありますが誠心誠意で任務に努めます!!」
王国騎士団に入団して早くも憲兵隊の部隊を任される事となった私。戦闘力の他に言葉使いやマナーが評価されたのだとか。
王国の治安維持を職務とする憲兵隊ともなると、冒険者とは違い役人や貴族達と交流する場面も多く騎士団以上に礼儀作法を求められる。確かにいち冒険者では貴族社会のマナーには疎い部分があるからね。
冒険者の時は周りと溶け込むため蓮っ葉な言葉遣いをしていたけど、小さい頃からマナー教育を受けていた私なら難しい話じゃなかった。
「おぅマイ・・・じゃなかった、ガイタス隊長!仲間が早くも出世たぁ俺らも鼻が高ぇぜ!」
「もぅガランドさんったら・・・そんな言葉使いだから先を越されちゃうんですわよ?」
「まったくだ、だから俺達はガイタス隊長で敬語やマナーの練習をさせてもらおうじゃねぇか!いいですよね隊長?」
「はぁぁ~、ホメられてるんだかナメられてるんだか・・・いいわよ好きになさい!」
「「「はっ!!!」」」
見事な敬礼を返す3人。調子がいいんだから・・・とは言え直属の部下にガランド・アザヌ・スラクを付けてもらった事は大変にありがたい。この3人がいれば何でも出来る気がする。
もっとも騎士団もこの3人の扱いには手を焼いていたから体の良い厄介払いのような気もするけど。
◇◇◇
憲兵隊第8部隊として活動している最中、私宛に一通の手紙が届く。自分の執務室で手紙を確認する。
『憲兵隊第8部隊マィソーマ・ガイタス隊長殿
此度の隊長の就任、誠に目出度い事。ついては当家別館にてささやかな茶会を用意
しているので不躾ながら是非参加して頂きたい。日は一週間後にて。
クロン・デューク=エアド』
一読して頭の中で様々な推測が飛び交う。手紙を届けにきたスラクの顔が落ち着かない。
「隊長、まさかと思いますが・・・殿方からのお誘いでは?」
「ええ・・・熱烈たるラブレターね、読んでみる?」
言葉は丁寧なものの私から奪い取って手紙を必死に読むスラク。こんなにつれなくしてるのにまだ私の事を諦めてくれないみたい。申し訳ないとは思うけど復讐を秘めている今の私には彼の想いに答えることは出来ない。
読んでいる内に先ほどまでとは別の意味で深刻な顔になっていた。
「クロン・エアド・・・こんな大物から好かれていたとは」
「そうね、公爵位を持つクロン・エアド・・・王家の次に権力を持つ彼が一介の憲兵隊隊長の私に何の用かしら?」
ともあれ上位貴族からのお達しにはよほどの事がない限り必ず応えなければならない。
「スラク、一週間後のお茶会に付き合ってちょうだい」
「承知しました!隊長はお貴族マナーを知り尽くしているんでしょう?エスコートの指導と練習には付き合ってもらいますよ?」
「・・・わかってるわよ、もう」
嬉しそうにはしゃぐスラク。まったく子供ね。
一週間後のクロン・デューク=エアド家別館にて。
エントランスで待っていた私達にクロン・エアドが姿を見せる。七三分けの髪形で年配ながら、引き締まった身体つきから鍛錬を怠ってはいないようだ。
「ほぅ、待ち人が来たと思えば・・・どこぞのご令嬢かと勘違いしたよ!」
「エアド閣下、本日はお招き頂き深く感謝しております」
カーテシーにて挨拶を返す。小さい頃から受けていたマナー教育がこんな時に役立つとは思ってもみなかった。
今日の私は貸衣装ながらライトイエローで装飾の少ない地味なドレスを着用している。横にいるスラクも黒のスーツで身を固めている。これなら誰の目にも憲兵隊との密会には見えないだろう。
「み、身に余る光栄にて・・・ござりまする」
スラクがぎこちなく挨拶する。マナーとしては及第点以下だけど時間がないから仕方ないわね。これからはガランドとアザヌにも少しずつ身につけてもらおう。
「ははは、そう固くなってもらっては困るよ護衛君・・・なぁマィソーマ・ウルカン令嬢?」
!!本名を名指しされた私に衝撃が走る!スラクの目が険しくなる。
「何故その名を・・・」
「わが情報網を見くびってもらっては困る、貴族社会にはモンスターはいなくとも常に戦いがあるのだよ・・・今日来てもらった要件を言おう、君達憲兵隊第8部隊は私の手足となって欲しい」
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