第2話 ・・・もう終わってるわ

 3ヵ月後。国境の山脈にある岩場にて。

 丘の上にワィヴァーンの群れが休息していた。その数はざっと30数体ほど。


「・・・居やがったぜ、あそこだ」

「これで目標数達成ですわね?」

「よし、頼むぜマィソーマ・・・しくじってもちゃんとフォローしてやるからよ」

「誰に向って言ってるの?みんないくわよ・・・ラーヴァフロォォオオオオ!!」


 アタシの愛用の武器-穂先のデカい槍・パルチザン-から溶岩が噴き出しワィヴァーンの群れに一直線に向かう。


「Keeeeeeehhhhh!」


 3体ほどのワィヴァーンを仕留めたものの大半はその大きな翼を使って上空に逃げる。アタシの繰り出す大技「ラーヴァ・フロゥ」で敵の足並みを乱す作戦は上々だ。


 この世界では「七鬼学セプテム」という、人体の生命エネルギーである「鬼力きりょく」を扱う技術がある。その力は光・電・火・風・水・土・念の7種類の属性を元にしたスキルがある。


 ラーヴァ・フロゥとは文字通り溶岩の奔流。通常火属性の攻撃である「火炎」は殺傷能力が高いものの、自然現象の起こす空気の流れ次第では相手に命中せず逸れてしまう事もある。


 そこで地面に突き刺したパルチザンにて熱を発生させ溶岩を作り出す。それを相手に命中させるのがこの技の特徴だ。


 もちろん火炎と違い地面に沿った攻撃しか出来ないが、自然の風に左右される事は少ない上に溶岩は「火と土」で出来ているため2つの属性攻撃となる。

 なので単体の属性での防御は難しく対象となった敵は右か左かに避けるしかない。



「よっしゃあ、ここは俺に任せろや!ウィンドミルゥゥゥゥ!」


 ガランドは刺付き鉄球のモーニングスターを振り回す。名前の通り風車のような動きだけど上空のワィヴァーンには到底届かない間合い、しかし。


「Kiiiyaaaaaaaa!!!」


 何故か遥か遠くにいるハズのワィヴァーンが全部地上に落ちる。これで逃がすことなく討伐できるけど未だに良く分からない原理だ。

 多分彼の属性の「風」の持ち味を活かした技なんだろうけど、冒険者同士による「お互いの技の正体はノータッチ」の暗黙ルールがあるから聞くに聞けない。



「今楽にしてあげますわね・・・ガードキャンセル!!」


「KeeahhhHHHHH!!!」


 アザヌが果敢にも倒れているワィヴァーンの懐に潜り込み「カギヅメ」という珍しい接近戦用の武器で着実にとどめをさす。パーティーの中では一番射程の短い武器だけど、彼女の電属性が原因なのか相手の防御力を無視した攻撃を繰り出す。ドラゴン種のワィヴァーンが持つ硬い鱗であろうと問題はないようだ。


 しかし余力の残っていたワィヴァーンは再び上空へ逃げてしまう。



「はっ、ようやく俺の出番だな・・・真空波ぁぁぁぁぁぁあああ!」


 土属性のスラクが両端に刃が付いているダブルソードを地面に突き刺した上で斬り上げる。それだけで高く飛んでいるワィヴァーンの翼が切り裂かれてまた地上に墜落する。彼の技もガランドの技もホントにどうなっているのかよく分からない。


 しかしスラクはガランドと違い、事あるごとに戦果を自慢しては「俺とひと晩過ごしてくれたら技の秘密を教えてやるぜ?」と言い寄ってくるので敢えて聞いてやらない。


 飛ぶ力を失ったワィヴァーン達は悪あがきをして翼を前足代わりにして猛獣のように襲いかかってくる。スピードこそ地上のモンスター達とは比べ物にならないけど怪力があるので油断は出来ない。スラクは向かってくるワィヴァーンを斬りまくる。


「くそが!四枚おろし!!・・・・・な、あぶねぇ!後ろだマィソー」

「・・・もう終わってるわ」


 アタシの背後から迫ってきていた3体のワィヴァーンの首がずるり、と落ちた。スラクのダブルソードも強力だけど間合いだけならアタシのパルチザンの方が上だ。


「はは、マィソーマはスキがねぇな!これじゃ専属ナイトにもなれねぇじゃねぇか!」

「お生憎様、アタシにそんなものは要らないわよ?」

「お前ら、イチャついてねぇで手伝えよ!こっちは全部地面に叩きつけてやったんだぜ?」

「早くしないとまた飛び上がってしまいますわ!」


 そうやって地上に落ちているワィヴァーンを全員で各個撃破する。誰もが攻撃中心の最強メンバーで構成されている。防御なんか必要ない。


 一方先日追放したデルトはこの攻撃的なメンバーには合わない防御型の戦士だった。選んだ装備も武器ではなく小盾のカエトラでアタシとは真逆の水属性。


 彼は別段臆病な性格ではなく時には無謀にも前に出ようとする事もあるタイプ。でもアタシと彼の力が属性上相殺して攻撃が失敗に終わる事も多々あった。


―――


 例えばデルトの追放のきっかけとなったクエスト、水辺でのビッグアリゲイター駆除の際の事だ。アタシ以外のメンバーが全員前衛に出てアリゲイターを足止めしている。


 アタシは事前にメンバー全員に「合図するからラーヴァ・フロゥを繰り出すので撤退して」くれるように通達しておいたのだけど、いいタイミングで放ったラーヴァ・フロゥを彼のスキル「ラージ・シールド」で軌道を変えられてしまった。


 そのアクシデントによりアリゲイター達が一目散に逃げてしまう。その中には討伐対象だった繁殖能力を持つ個体もいたので完全にクエスト失敗となった。


「てめぇ!せっかくの作戦が台無しじゃねぇか!」

「Aランク昇格まであと一歩だったんですわよ!!」

「いつまでもマィソーマが庇ってくれるって勘違いしてんじゃねぇのか!?」


「・・・・・・みんな、申し訳ない」


 その後メンバーから詰め寄られるデルトは何も言い返さずただ謝るだけ。アタシも自分の作戦を邪魔したデルトを庇う気にはなれなかった。


―――


 そうしてメンバーからデルトは協調性がないと判断されアタシも庇いきれず追放となった。しかしこれ以上仲間から爪はじきにされる姿を見なくて良かったのかも知れない。



「よっしゃ、ワィヴァーン200体討伐!クエスト終了だぜ!」

「これでようやくAランクになれますわね?」

「ふん、俺達の実力なら当然!だよなマィソーマ?」

「ええ、そうね・・・魔石と討伐部位のしっぽを切り取ってギルドに戻りましょ!」


 その後立て続けにワィヴァーンの群れや巣に近づき目標数を討伐できた。このクエストだけでざっと一週間は掛かってしまった。


「はぁ、意外としぶとかったっつーか・・・あれ?スラク、お前腕から血がでてるぞ?」


 スラクの右腕から血が流れている。ワィヴァーンの攻撃を受けた時に傷ついたか。


「あ?そういや・・・ってかガランドだって肩にワィヴァーンの爪が刺さってるぞ?参ったな、ポーションは使いきっちまったし・・・」


 ガランドの服も肩の部分に血がにじんでいる。モーニングスターで吹き飛ばしたワィヴァーンの爪が運悪く刺さったようだ。


「あら、ホントですわ・・・マイさん、あなたポーションはご都合できないかしら?」

「悪いけど私も全部使っちゃったわ」


 始末の悪い事に私も結構手傷を負わされたのでもうポーションがない。


「仕方ありませんわね・・・お2人とも、今日は私のポーションを融通いたしますわ・・・帰ったら特別料金3倍価格ですことよ!」

「げぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・そりゃねぇよ!」

「横暴だぞ!マィソーマからも何とか言ってやってくれよ!!」

「ガランドもスラクも前はそんな傷受けなかったじゃない、腕が鈍ってるんじゃないの?まぁアタシも人の事言えないけど」


 以前はクエスト中に怪我をするなんてなかったのに、気が付けば小さなかすり傷をあちこち負っている。まあほっといても2~3日で勝手に治る程度だけど。

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