第13話 後で処罰は覚悟しておきなさい?

 王城の貴族会議から数日後にアザヌの葬儀を終えたところで、王城から使者が来て予想通りの王命を伝えに来た。


「王命を伝えます・・・


 マィソーマ・カウンテス=ウルカンは会議にもかかわらずアーリン・マークィス=ウィンドルとの諍いにより王宮を騒がせた件、貴族とは思えぬ軽はずみな行動である!

 よって本日から一ヵ月の間王都のウルカン邸から退去を命じる、領地にて謹慎するように!!


 以上であります!」


 私の武功と先日のゴタゴタを聞いているためか使者の態度は緊張しているようだ。


「承知しました、即刻退去しましょう・・・行くわよスラク」

「はっ」


 いきなり屋敷から出て行こうとする私達に驚いた使者が慌てて駆け寄ってくる。


「・・・え?もうすぐさま出られるのですか!退去の手続きなどは・・・」


 実は王都屋敷で働いている使用人全員に十分な手当を与えて暇を出していた。先日のウィンドルとのトラブルで間違いなく王都を追い出されると踏んでいたからだ。


「もう王都に未練はありませんので・・・以降は領地でゆっくりと過ごさせてもらいますわ、できれば私とイザコザを起こしたウィンドル卿の処置をお教え下さればありがたいのだけれど」


 私の言葉に反応してスラクがすぐさま使者の手にお小遣いを握らせる。


「はっ・・・ほ、本来は機密でありますが素早い対応をして頂いたウルカン卿に免じて・・・アーリン・ウィンドル卿は使用人の武器持ち込みで王城には6カ月の登城を禁じられる事となりました、王都屋敷の退去も同じ期間です」

「ありがとう、では国王陛下にはよしなにお伝え下さいな」


 ウィンドルの処置を聞いて幾分か溜飲を下げる。クロン・エアドとガルナノの時は有耶無耶にしていた国王陛下だけど今回は喧嘩両成敗としてくれたようね。


 屋敷のものは建物ごと処分したので着のみ着のままで動ける。乗馬で早駆けして半日でウルカン領に着いた。



◇◇◇



 久しぶりに見た領地は・・・荒んでいた。これも10年前のスタンピードが原因なのだろうか。王都の派閥争いなんてしないでもっと早くに来て領地の立て直しをしたかった。


 ウルカン領の屋敷に着くと使用人達が迎え入れてくれたけどどことなく歓迎されていない雰囲気だ。爵位を頂いたにも関わらず領地を放置していたのだから当然だろう。


「スラク・・・今すぐ屋敷に残っている使用人を全員集めてちょうだい」

「・・・・畏まりました」


 屋敷の使用人全員を呼び解雇を命じた。彼らに罪はないので幾分かの退職金と次の就職先が見つかるよう私の名前での紹介状を手渡しておいた。

 またその中には前デューク=エアドから領地経営の代理を依頼されていた執事もいた。彼のおどおどしていた態度が不思議だった。


 すっかり無人となった屋敷。しかし私のそばにはスラクが控えている。


「何をしているのスラク、貴方にも休暇は出したんだから早く屋敷を出なさい」

「お断りします・・・当主様の予想が正しければ犯人どもは私が一人になったところを襲いかかってくるに違いありません・・・当主様のもとが一番安全ですので」


「・・・とんだ勘違いかも知れないわよ?犯人の狙いが私だったらここが一番危ないことになる」

「当主様の執事として・・・いやお前のそばで死ねるのなら本望だよ、マィソーマ」


 そういってすかさず抱きしめてくるスラク、咄嗟に反応できず受け入れてしまう。


「全くもう、貴族に対して不敬ね?後で処罰は覚悟しておきなさい?」

「こんな機会は滅多に無ェ・・・犯人どもを片付けてから当主様をおいしく頂きます」


 そういって私の服を脱がそうとボタンに指をかけるスラクの頬を軽く叩く、そんなに安い女じゃないんだから。



◇◇◇



 私達は屋敷にて犯人を待ち受ける事になる。いつもは使用人達がしてくれる家事全般を2人だけでする事に。屋敷が広い分面倒な事になったものだ。


 食堂で簡素な非常食で作ったつつましい晩御飯を食べる。いつもの料理長が作ったものより遥かに格下のものだけど冒険者時代を思い出す味だ。


 一緒に家事をするスラクは嬉しそうに「新婚みたいでアリだな」と軽口をたたく始末。私は貴族として返り咲いた後は養子をとって一生独身を貫くつもりだったけど。


 腹ごなしがてら屋敷の周りの見回りから帰って来たスラクが一言。


「なぁマィソーマ、あれから6日経ってる・・・風呂に入ってきたらどうだ?」

「そんなのいらないわよ、リュウコの時はクエストに時間がかかって一週間お預けなんて事もあったぐらいだからね」

「俺の事なら心配いらねぇって、1~2時間程度なら何も起きないぜ?何なら久しぶりに一緒に入ってやろうか?」

「お・こ・と・わ・り!入った事もないクセに久しぶりとか言うな!」

「ははは、だったら早く入ってこいよ!その後は俺も入いらせてもらうぜ?」


 バスタブの置いている炊事場の部屋へ行き準備をする。本来は自分の寝室へ持っていくものだが2人しかいない状況では水場の近いこの部屋で済ますと便利だ。


 お湯を張った浴槽に身を沈める・・・立て続けに起こった事件で張り詰めていた気持ちが少しずつゆるんでいく。

 このまま何もしないで休みたいところだけどそうもいかない。今この時だって油断はできないから。


 改めて自分の背中まで伸ばしている髪の長さに驚く。貴族の女子というのは基本ショートカットはせずロングヘアにするそうなので爵位に就いた時から伸ばしている。


 手早くタオルで身体をふき身支度を整える。普段は侍女たちにマッサージやスキンケアをしてもらうところだが今は戦闘中なのでこれで十分。一時間も掛からなかったハズだ。早くスラクのところへ戻ろう。



 食堂に戻るとスラクの姿はない。まさかこんな短時間の間に犯人が現われた?胸騒ぎを抱えつつスラクを探す。


 玄関ホールに向かうとダブルソードを構えたスラクの姿があった。どうやら犯人の一人と向かい合っているようだ。急いでスラクのそばに駆け寄る。


「スラク!そいつが犯人なの?!」


 しかしスラクはおし黙ったままだ。震えながら私の方へ・・・血塗れの顔を向ける。


「・・・マィソーマ、にげ・・・ろ・・・がふっ!」


 崩れ落ちるスラクを抱きかかえる。顔の目や鼻や口から血を噴き出している。一体何をどうしたらこんな事になるの?


 涙に濡れる間もなくスラクを仰向けに寝かせて両手を組ませる。また一人私のために死なせてしまった。


 そんな私を黙ったまま見つめている全身に薄汚いローブを被った男。許せない、ここで決着をつけてやる!

 愛用のパルチザンを構えて鬼力を練る。


「アンタが犯人なのね・・・スラクの仇を討たせてもらうわ!」

「・・・・・・・・・」


 私の激昂にも依然反応を示さないローブの男。動かないつもりなら好都合、私最大の技で仕留めてやる!石床に付き立てたパルチザンを振りかぶる。私の火属性により石床はドロリと溶けている。


「はぁぁぁあああ!ラーヴァ・フロォォォオオオオオオ!」


 溶けた石床は溶岩となって犯人の元へ一直線に突き進む。右か左に避けたタイミングで直接突き刺してやる!


 しかし奴の次の行動は予測しないものだった。


「ラージ・シールド」


 男が右腕を前に構えると私のラーヴァ・フロゥは蒸気を上げてただの土塊となってしまう。こんな事が出来るのは・・・違うわね。敵も必死だからこのぐらいの事は出来るハズ。


 ひるむことなくもう一発ラーヴァ・フロゥを繰り出そうとした瞬間、右腕を振りかぶったローブの男が目の前に迫っていた!


「シールド・バッシュ」

「くぁあっ!・・・」


 私の身体はパルチザンごと撃ちつけられる。鈍器のようなものを右腕に仕込んでいたようだ。かなりの衝撃に気を失いそうになるが辛うじて耐えた。


 でもお陰でラーヴァ・フロゥを使用するタイミングが得られる。高熱の技を至近距離で撃つのはこちらも危ないので滅多にないけど確実に仕留めるには最適だ。


 再度石床から溶岩を作り出して刃先にまとわせる。


「跡形もなく消してやる、ラーヴァ・フロォォォオオオ!」


 さっきは防がれてしまったけど至近距離ならばどんな強力なスキルを使おうとも防ぎきれないハズ!


 またもや右腕を構える男・・・小型の盾?


「・・・ミドル・シールド」


 突然私の目の前に大量の水が吹きつける!この盾は・・・!


  どぱぁぁぁぁぁんっ!!


「がはぁぁあっ!・・・ぁぐ・・・」


 私は5メートルほどふっ飛ばされたようだ。何故か全身が痺れている・・・しっかり握りしめていたハズのパルチザンもない。いや、それよりも!!


「その盾・・・デルト・・・デルトなのね?!」


 男は私の問いかけにより一瞬動きを止める。しかしいつの間にか持っていた私のパルチザンを大きく振りかぶり・・・


  ざくぅぅぅっ!!

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