第27話 親王とは……?

 雲一つない快晴で頬を撫でる風は温かい。


 山の中を駆け回ればじんわりと汗が滲む程度で暑すぎることもなく、調度良い気温と言える。


 予定通りに狩猟大会が開催され、雪平は和泉と初季と共に山に入り、獲物を探している最中である。


 参加者は思った以上に多く、弓に自信のあることで知られる貴族や武官も多く参加していて、熾烈な戦いになることが予想された。


「絶好調ですね、宮様」

「そなたがな」


 正確には『そなた、ら』である。


「兄上、これ以上大きな獲物は狙わないでよ。荷物になる」

「猪を仕留めたお前に言われたくないぞ」


 雪平の三歩後ろを歩く和泉と初季は山に入って早々、狐やら猪やら鹿やらを仕留めている。


 手荷物が多くなり過ぎて一度は山を降りたほどだ。


 山を降りた所には誰がどれだけ獲物を持ってくるのかを見物するため、牛車がずらりと並んでいた。


 獲った獲物はその場で捌かれ、肉汁にして参加者や見物客に振舞われる。

 新鮮な肉を目当てに見物に来る者も多い。


 三人は少し休んでから再び山に入った。


 前半は和泉と初季が獲物を見つける度に雪平が弓を構える前に仕留めてしまい、全く出番がないままだった。


 今度こそは、と意気込み山に入ったものの、人の気配に敏感な獣達は警戒して身を隠してしまい、さっぱり見つからなくなってしまった。


 それならば空を飛ぶ山鳥でも仕留めようかと思えば、見つけた側から後ろにいる二人が弓を構えていて自分の出番が全くない。 


「そろそろ降りた方が良いかもしれませんね」

「そうだね、日が傾き始めた」


 和泉の言葉に初季が頷く。


「なかなかの取れ高だね」


 初季は満足そうに言う。


「お前達はとことん私に気を遣うことをしないな」


 雪平の取れ高といえば、この二人は親王である私に花を持たせるということをする気は一切ないということだ。


 そしてこの二人は雪平がどれだけこの状況が不満で態度で示していても全くこちらを気遣う気配がない。


 普通もっと気を遣うものだろう。

 自分はこれでも親王なのだが?

 この二人は自分にもっと敬意を払い、気遣うべき身分の者なのでは?


 しかし、この二人には関係ないらしい。

 そう思うと親王という身分や立場が大して価値のあるものではないように思えてくる。


「何言ってるんです? ほら、参りましょう。肉汁が待ってます」


「お腹空きましたね。肉の他には何は入ってるのか。宮様は肉汁には何の野菜が合うと思います? 俺は大根と葱です」


 私はそなたらの友達か何かなのか?


 あまりにも気安く話しかけて来る二人に雪平は無礼を叱りたい気持ちを通り越して溜息をつく。


 この二人に敬意を示せと言っても無理だと悟る。


 今更畏まる二人は正直不気味であるし、どうにもこの距離感に居心地が良くなっている自分がいる。


「はぁ。戻るぞ」


 この日に備えて慌てて弓の練習をした時間を返して欲しい。


 特に自分をなめている生意気な初季には親王としての威厳を見せつけてやりたかったというのに。


 雪平は諦めの溜息をつき、三人は山を下り始めた。



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