第14話 帰り道

 初季達が陰陽寮を出る頃には空は茜色から瑠璃色に変わっていた。

 昼間よりも冷たい空気を肌に受けながら初季と春臣は大内裏の敷地内を歩いている。


 この人……無口だな……。


 隣りを歩く春臣を盗み見る。

 その口は不機嫌に引き結ばれていて、話し掛けても会話が続かない。


 口を訊きたくない程嫌だって事か……。


 ならば話かけまい、と初季は思った。

 父親である雅近も無口な方でこの感じには慣れているのであまり気にならない。


「雪平親王の魔を退けたというのは本当なのか?」


 無言を貫いていた春臣が言う。

 初めて春臣の方から話し掛けられたので初季は驚いた。


「ただの偶然です……何だか騒がれているようですが、陰陽寮に属する皆さまと比べれば及びもつきませんよ」


 これを機に自分の力など大したのもではない事を伝えておこう。


「だから私を目の敵にする必要はありませんよ。お飾りの能無しだと罵って下さっても構いません。私なんかが陰陽寮に出入りするのは気に入らないかも知りませんが、私も早く家に帰りたいのです。この件が片付くまでご容赦下さい」


 すると春臣は足を止めて初季を見て言う。


「一体、何の話だ?」


 怪訝そうに言う春臣に初季は首を傾げた。


「私の事が気に入らないんじゃないですか?」

「誰がそんな事を言った? もしや、誰かにそんな風に言われたのか?」

「え? ……言われてませんけど」


「言いそうな輩は想像出来るが……。もし、そのような事を言う輩がいたら遠慮せずに言うと良い。力になる」


 真剣な表情で言う春臣に初季はぱちぱちと大きく瞬きをする。


 私の勘違い……?


 協力的な発言をする春臣を誤解していたのかも知れない。


「あ、ありがとうございます」


 春臣は満足そうに頷き、再び歩き出す。


 横にいる春臣を盗み見ると先程より表情が柔らかい気がする。


 敵意があるって訳じゃなさそう。


 そんな風に思いながら初季は春臣と共に雪平の御殿を目指した。



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