第23話

 本館地区の訓練場に着いたアーノルドは抱きついているマードリーを引き剥がしなんとか馬車の外に出た。

 馬車を出たアーノルドが見たのは離れとは比較にならないほど大きな土地であった。

 辺り一面に訓練をしている騎士達がおり、その向こう側に公爵が住んでいるらしい巨大なお城が見えている。

 ここから見ても離れより大きく見える城なのに聞けばこの場所から馬車で移動しても30分はかかるのだとか。


(間近で見れば一体どれ程の大きさなのか・・・・・・。だがあれが私が将来住む城となるのか・・・・・・)


「失礼いたします、アーノルド様」

 アーノルドが城の方を見て将来について考えているとコルドーが話しかけてきた。


「本日昇級試験を担当する試験官をご紹介してもよろしいでしょうか?」

「ああ」

 アーノルドが許可すると4人の騎士がアーノルドの前まで来て跪いた。

「左から順にアーノルド様にご挨拶せよ」

大騎士級マスターのロマニエスと申します‼︎」

騎士級ナイトのライザックと申します‼︎」

騎士級ナイトのバフォリーと申します‼︎」

「え、従騎士級エスクワイアのパラクと申します‼︎」

 4人がそれぞれ大声でアーノルドに対して自己紹介をした。

「ロマニエス、ライザック、バフォリーが試験の立会人を務めます。そして本日アーノルド様の従騎士級エスクワイア昇級試験のお相手を務めるのがパラクとなります」

 アーノルドは改めて4人を見た。

 ロマニエスは30代くらいのがっしりとした体型の男、ライザックとバフォリーは20代くらいの整った容姿の男達、パラクはまだ13〜15歳くらいのまだまだ他の騎士に比べたら体の線が細い男であった。

「アーノルド様の体格を考慮しまして、最も体格の近いパラクを選ばせていただきました。パラクは10歳で従騎士級エスクワイアになった、騎士の中でも有望株として注目を集めている者です」

 コルドーがそう説明すると、パラクは緊張しているのか背筋をピンと伸ばし表情を強張らせた。

「試験の内容は、アーノルド様とパラクによる1対1での模擬戦闘となります。勝敗は試験の合否に関係ございません。見るのは従騎士級エスクワイアに相応しい力を持っているかどうかです。ただし、あくまで見るのは剣術の力となるので魔法の使用は禁止いたします。何か質問はございますか?」

「素手での格闘はありなのか?」

「はい、ありでございます。実際の戦闘においても咄嗟に素手での牽制などは多くございます。そのようなことも出来なければ真に剣術士とは言えないので試験での使用も可能となっております」

 アーノルドはまだそのようなことが出来るほどの修練を積んでいないが、相手がやってくる可能性があるのならそれを頭に入れておかないと不意を突かれてしまうだろう。


(出来ることの説明はなく、禁止事項の説明だけなのはそれも含めて試験というわけか?)

「魔法以外のあらゆることがありなんだな?」

「はい、ありでございます。また、試験における不慮の事故に対しては・・・・・・」

「ああ、一切を不問とする。たとえ試験によって怪我を負わされようがそれに対して何らかの処罰を与えることはしない」

 パラクの方を見てはっきりと断言した。

「は、はい‼︎全力で挑ませてもらう所存でございます‼︎」

 ガッチガチに緊張した様子でパラクはそう答えた。


 お互いの顔合わせを終えたアーノルドとコルドー達は訓練場の一角に移動した。

(見物人が多いな・・・・・・。まぁ当然か。こいつらは自らの主人を見定めなければならんのだ。こんな絶好の機会をふいにするはずもないか。不甲斐ない結果を見せればそれこそ私の味方につこうなどという者はいなくなるだろう。いくつか不快な視線もあるが・・・・・・。流石にこれだけの人数の前で仕掛けては来ぬと思うが、用心はしておかねばな)


 もちろんアーノルドが娼婦の子だから、ザオルグ陣営の者だから、という理由もあるのだが、不快な視線の大半はアーノルドがこの従騎士級エスクワイア昇級試験を受けることに対する不満の感情が多い。

 そもそも従騎士級エスクワイアに至れるのは剣士としての訓練を積んで少なくとも5年、大体は10〜20年はかかるのである。パラクは7歳から訓練を始め僅か3年で従騎士級エスクワイアとなったが、それでもかなり異例の出来事であり、それを面白く思わない者も当然いた。もちろんヘタをすれば自分の首が飛ぶため任務で何か嫌がらせをするといったことはないが、それでも訓練中に嫌がらせを受けることはあるのだ。

 そして、たかだか2週間程度訓練しただけのアーノルドが従騎士級の昇級試験に挑むのである。

 同じようなことを見たばかりの騎士達にとっては、また貴族による八百長か、と疑うのも無理はないだろう。

 それが騎士達の厳しい視線の正体であり、パラクのような若輩が試験官に選ばれた表向きの理由でもあった。誰も八百長に参加などしたくないというのが本音である。

 それゆえ不甲斐ない結果など関係なく初めからマイナス寄りの感情となっている者の方が多いのである。

 もちろん中には色眼鏡で判断などせず、実際に見てから判断しようとするような者もいるが、人間とはやはり印象に左右されてしまうのである。


 かなり広い場所でアーノルドとパラクは向かい合っていた。

 その場所を取り囲むようにたくさんの騎士達がおり、中には空中であぐらをかきながら観戦しようとしている者もいた。

 試験官の2人が近づいてきてアーノルドとパラクに話しかけた。

「これより、試験において武器による不正が起こらないようにアーノルド様にどちらか1本の剣を選んでいただき、残りの剣をパラクが使うものとします。また今回は両者同じ剣を使うため、万が一のために刃を潰しております。しかし刃を潰しているからといって斬れないわけではございませんのでご注意ください」

 昇級試験では自らの武器を用いることも当然可能ではあるが、現在アーノルドはまだ自分専用の武器を持っていないので騎士に支給される武器を使っている。ある程度実力のある者ならば寸止めをすることができるが従騎士級エスクワイアレベルでは事故が起こる可能性もあるため刃を潰しているのである。

 そしてアーノルドには当然後継者争いによって公爵家内部に敵がいることは自明である。それゆえ、もちろん今日使う剣は試験官達が厳重に管理していたのだが、アーノルドにとっては信用できるものではないだろうという配慮により、先にアーノルドに選んでもらうことによって剣に細工をしていることはないということを示したのであった。

「礼を言う」

 アーノルドもその配慮に気づき試験官に礼を言い1本の剣を選んだ。

「アーノルド様、ご武運を」

 そしてパラクにも剣が渡され試験官が下がっていった。

 特に合図などはなくお互いの準備が整ったとなれば自然と試験は開始となるのである。

 アーノルドとパラクはお互いに構えて向かい合った。

 先ほどまで緊張でガチガチになっていた少年の姿はなく、そこには1人の騎士の顔つきをした戦士が佇んでいた。

 アーノルドとパラクが向かい合うと、先ほどまでザワザワとしていた訓練場が一瞬で静寂に包まれた。




ーーあとがきーー

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