第22話

「アーノルド様‼︎お迎えに上がりました‼︎」

 屋敷を出るとコルドーが敬礼をして姿勢良く立っていた。

 昨日の使者の件から1日経って、今日は従騎士級の昇級試験を受けると言うことで本館地区の訓練所まで行くことになっていた。

 この広大な敷地を歩いていくとそこそこ時間がかかるので馬車で30分ほど揺られながら行くことになる。


「それで、何でお前もいる?」

「え〜、弟子の活躍を見に行ったっていいじゃない〜」

 馬車の扉を開くとマードリーが馬車の中で既に座って寛いでいた。

「そ・れ・に私がいるおかげでこんなにのんびりした空間で寛いでいけるのよ?感謝してほしいわ?」

 外見では普通の馬車であるが、馬車の中を見ると屋敷の一部屋くらいの広さがあった。

 ダンケルノの馬車だからそういうものかと思っていたが、どうやらマードリーの魔法によるものらしい。


「相変わらず便利なものだな」

「あなたももう少し訓練すれば出来るようになるわよ。多分ね」

「どれだけ魔法が自由でもイメージ出来ない事は魔法として発動しないのか?」

「ええそうよ」

「イメージってのはどのくらいの精度が必要だ?」

「そうねぇ、例えばこれ」

 そう言ってマードリーは1本の剣を魔法で生み出した。

「持ってみて」

 アーノルドは渡された剣を持った。

 そして何かがいつもの剣と違うことに気づいた。

「どう?」

「・・・上手いこと言えんが、これで戦う気は起きんな」

「そうね。私は剣の構造なんて知らないもの。多分打ち合ったら1発で折れちゃうわよ」

「あくまで見た目だけ再現されているに過ぎないと言うわけか」

「そういうこと。何かを作り出すならその構造を知っていないと現実のものほど精巧には出来ないわ。攻撃魔法なんかも自分が作り出すものについてどれだけ詳しいかで威力が変わるのよ。だからイメージの練習も大事だけどしっかり勉強もしなさいよ」

 そういうことは最初に教えておけ‼︎と思ったが、口に出さずに飲み込んだ。

「・・・マナは特に何も感じないが、エーテルは一度認識したからか身体強化などすると吸い出される感覚がある。どうにかならんか?」

「難しいかもしれないわね・・・・・・。一度認識したものを無いものと考えるのは相当困難を極めるわ。それこそ数年単位で思い込んでやっと出来るかどうか・・・・・・。それをするなら、あなたが最初に言っていた世界から取り込むって考えの方が簡単なんじゃない?実は私もマナが存在しないという考えを知ったとき既にマナを認識していたから今でもマナを媒介して魔法を使っているのよ。まぁほとんど無限に使うことは出来るけど」

「だが・・・」

「マナが存在しないという理論を教えてくれたのは私の師匠なのよ」

「そもそもこの世界の理に支配されていない人間は何人くらいいるんだ?」

「支配されていない人間はいないわよ?マナが存在しない世界というのもこの世界の理だからね」

 ふざけた感じでマードリーはアーノルドに言った。

「言いたいことぐらいわかるであろう」

 アーノルドは少しイラっとした。

「私が知っている限りではこの世界で4人だけね」

「1人は私、そして2人目はさっき言った私の師匠。そして3人目はあなたも良く知っているダンケルノ公爵。そして4人目もあなたと関係がある元ダンケルノ公爵。あなたのおじいさまね。ただこの公爵家の使用人レベルなら誰か他にいてもおかしくはなさそうだけど」

「理から外れたから公爵になるほどの力を手に入れたのか?」

「いいえ、違うわ。少なくともあいつが公爵になるまではそこまで飛び抜けた力は無かったわ」

 アーノルドはマードリーの話ぶりから公爵と知り合いなのだろうと思ったが聞いても良いものか少し逡巡した。

 そのアーノルドの考えに気づいたのかマードリーは苦笑していた。

「ただ学生時代に会ったことがあるだけよ。あいつは騎士学校、私は魔法学校にいたときに両校合同の模擬戦闘で同じチームになったことがあってね。そのときにちょっとね」

「歴代の公爵は全員理から外れた力をもっていたのか?」

「さぁね。そこまでは知らないわよ。ただ私や師匠とは違う強さでもあると思うのよ。だから単に公爵家の秘伝のようなものなのかもしれないわよ。ただ怪しいのは、ダンケルノ公爵家の中でも有名なアリーシャ・ダンケルノ公爵。今の公爵家を作ったと言っても過言ではない歴史上でも類を見ない英傑」

 アリーシャ・ダンケルノ公爵。今から13代前の公爵であり、この公爵家について習う際に決して欠かすことは出来ない稀代の大英傑である。驚くべきことに当時ではありえない女の当主であった。

 しかしそれゆえ他の貴族から煙たがられ嫌がらせを受けていたらしい。

 だがそのことごとくを打ち破り、最終的には王族すらも平伏せさせ今の関係を作ったのであった。

 そして当時は男性よりも女性に絶大な人気を誇っていたという記録が残っており、結婚するときには本気で公爵に惚れている貴族の令嬢に相手の男の方が暗殺されかけたらしい。


(う〜ん、宝○って感じかな?それにしても実際どれくらい強かったのかな?)

 考え込んでいるアーノルドを見たマードリーが少し悲しそうな目でアーノルドに問いかけた。

「あなたは剣術と魔術どちらが好き?」

「ん?・・・・・・好き嫌いで考えたことなどないな。ただ強くなるために必要なものという認識でしかない」

 アーノルドは少し考えてからマードリーの方を向いて答えた。

「しかしなぜそんなことを聞く?」

「あ〜、中等部以降になったら騎士準学校と魔法準学校のどっちに行くのかな〜と思って?」

「なぜ疑問系なんだ・・・・・・」

 この世界では7歳から初等部に3年行くことができ、中等部の3年間は義務教育として行かされ、専門性の高いことを学びたい者のみが高等部に進むこととなる。

 初等部は皆同じことを学ぶのであるが、中等部以降は将来自分の学びたいことを中心にカリキュラムが組まれた学校に行くのが普通であり、騎士準学校、魔法準学校、官僚準学校、商業準学校などさまざまな学校が用意されている。そして中等部を卒業すると、そのまま働く者や高等部に行き、さらに学んでから働く者に分かれる。当然高等部まで行っているほうが優遇されるため高等部の卒業を狙う者のほうが多い。これらの学校は貴族だけでなく平民もまた同じ教室で学ぶことになっている。中等部までは国が学問を学ぶことを推奨しているため誰でも無償で行くことができるが、高等部以降は年間200万ドラほどかかる。とてもではないが平民が数年間も通える金額ではない。この世界の普通に働いている平民1人が年間に稼ぐ額が大体100万ドラ程度である。もし普通に自分の子供を高等部に行かせようと思うと数年間分の給料を貯金しなければならない。なので、高等部に行けるのは貴族か裕福な商家などがほとんどであり、平民が行くには特待生となり学費の援助を狙うしかないのである。


「私は騎士準学校に行くつもりだ」

「あ、・・・・・・そうなんだ」

 少し落ち込んだ様子でマードリーは答えた。

「・・・・・・さっきから何なんだ⁉︎」

 マードリーのいつもと違った様子にアーノルドは少しイラついていた。

「だって〜、なんか私の弟子が魔法以外のことに打ち込んでいるのを見るとヤキモキするっていうか〜」

 マードリーがそう言ってアーノルドに抱きついてきた。

「はぁ〜、めんどくさい奴だな。・・・・・・魔法は学校で学ぶことになんの意味もないだろう。だからお前から学べばいいと思ったから騎士準学校に行くと言ったんだ」

 マードリーは控え目に見てもかなりの美女である。大人の妖艶さを伴ったマードリーに抱きつかれたアーノルドは前世も含めればいい大人であるので気恥ずかしさも感じながら照れていることを悟られないようにそう言い捨てた。

 アーノルドはその後目的地に着くまで上機嫌なマードリーに抱きしめられたままだった。



ーーあとがきーー

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