第17話
アーノルドはコルドーとの訓練が終わってから書斎に戻ってきた。
「クレマン、この後は魔法の訓練の時間だったよな?」
アーノルドの記憶が正しければ。コルドーの訓練のあとは初めての魔法の講義であるはずであったが、約束の時間になっても魔法の教師が来る気配が全くなかった。
「はい、アーノルド様。しかしまだ来られていないようです。今メイドの1人を使いにやっておりますので少々お待ちください。お待たせして申し訳ございません」
「構わん。お前のせいではないだろう。俺はそのような理不尽なことで怒るような人物ではない」
アーノルドは前世で理不尽なことを経験してきただけに、人一倍理不尽に対しては並々ならぬ嫌悪感がある。
そのためアーノルドの雰囲気は怒っていると思えるようなものとなっていた。
「失礼いたしました」
そのとき書斎の扉がノックされる音がした。
「入れ」
「失礼いたします」
1人のメイド、ミナが入ってきた。
クレマンに耳打ちをし1枚の書類を渡して、クレマンの後ろに控えるように下がった。
「アーノルド様、魔法の教師についての情報が入りました。予定していた教師に横槍が入ったそうで、これから代わりの教師がこちらに向かってくるそうです」
「そうか。すぐ来るのか?」
(あの女がまた何か裏で手を回したのか?魔法教師が敵に回ると厄介だな・・・・・・)
強くなるために教師の存在はかなり大きい。そこを押さえられると強くなるまでにかかる時間と労力がかなり増えてしまう。
「おそらくは」
「じゃあ、外に出ておくか」
待っている時間も勿体無いので外で剣術の鍛錬をし、ついでに主人が外で待っているという状況を作りだすことで、教師の態度次第ではそのまま送り返すつもりであった。
「いいえ、その必要はないわ」
突然どこからか女性の声が聞こえてきたかと思ったら机の前が光り輝いて、そこに長身の美しい魔女のような格好をした女性が立っていた。
「アーノルド様‼︎」
すぐさま、クレマンとミナが臨戦態勢に入り、クレマンは目にも止まらぬ速さで書斎のイスに座っていたアーノルドを抱えて避難させた。
「緊急につき失礼いたしました」
クレマンはそう言って私を降ろした。
書斎には不穏な雰囲気が満ちていたが、クレマンとメイドの視線など気にせず飄々とした様子でその女性はアーノルドだけを見ていた。
ミナがアーノルドを守れる位置にジリジリと移動してきて、今にもクレマンが飛び掛からん勢いだった。
「クレマン、ミナ、下がれ」
「ですが」
「2度言わせるな」
「は」
そうしていつでも守れる位置ではあるが言われた通りにクレマンとメイドは下がった。
(敵意はないが・・・)
「それでお前は何者だ?突然侵入してくるとは無礼ではないか?」
「あら、ごめんなさい?私の名前はマードリー・レイラークよ。あなたの魔法の教師になるために来たの。よろしくね、若き幼主様」
蠱惑的な笑みを浮かべてそう言った。
「マードリー・レイラークですと!?」
いつも冷静なクレマンが珍しく叫んだ。
クレマンに横目で視線を飛ばすと取り乱したのが恥ずかしかったのか姿勢を正し、咳払いを1回して話し始めた。
「マードリー・レイラークは世界に4人しかいない
「『
「この世界の魔法はブーティカ教によって決められた魔法のみを扱うことが許されております。これは大昔に自由に魔法を使い悪さをしていた人間をブーティカ教の神ラーマー様が封印したことに由来し、自由に魔法が使えるようになった人間は堕落し神に罰せられるという教えでございます。レイラーク様はその教えに真っ向から立ち向かい自由に魔法を使っているため、世界を混沌に陥れようとする生まれながらに罪を持った人間であると教会が判断し破門なされたことで付けられた二つ名のことでございます」
「あんなもの教会の腐った連中がこの世界を自分の思い通りにするためだけに作ったホラ話じゃない。そんなものに私が従わなきゃいけない理由なんてないわ」
ブーティカ教の嫌悪感からかマードリーは顔をしかませていた。
「
「魔術師の中でも最も高い階級のことでございます」
(ということはこの女が魔術師のトップクラスの1人ということか)
「公爵は自由に魔法を使わないのか?」
「表向きは。ただ教会も公爵様が自由に魔法を使っていることに気づいておりますが、教会ごときに手を出せる相手ではございませんので赦免されております」
「それもムカつくのよね〜。私なら敵に回してもいいと思われているみたいで」
「それで?元々は違う教師が来る予定だったらしいが、どうしてお前が来たんだ?」
「う〜ん、君も教会の被害者かな〜と思ったから・・・・・・」
「この私が被害者だと?」
ギロっとマードリーを睨みつけた。
たしかにあの神官には煮湯を飲まされたかもしれないが、このまま終わらせる気はない。
あの神官には必ずやその代償を払わしてやる。
故に私は被害者で終わるつもりはない。
「あら、ごめんなさい?でもあの神官を許しておくつもりはないんでしょ?」
「当然だ。・・・・・・ん?お前はあの場に居たのか?」
破門されたマードリーがあの場に居るはずがないのだが・・・・・・
「いいえ?あの場にはいなかったわよ?でも知ってるのよ」
マードリーは妖艶な笑みを浮かべながら意味深にそう言った。
「それで?」
「元々来る予定だった教師はあのおばさんの息のかかった人間だったのよ。せっかくの才能を埋もれさせるのはもったいないじゃない?だから私が直接育ててあげようかと思って」
(あのおばさん・・・・・・。あの女のことか?おばさんというような歳でもないと思うが・・・・・・。だがそれよりも)
元々来る教師があの女の手の内の者だったというのならそれはそれでまた話が変わってくる。そういった事態が起こらないようにクレマンに直接教師の手配を頼んだのだ。クレマンに怪しいところは無かったが、無条件で信用するわけにはいかなくなってきた。
(今はクレマンのことを考えても仕方ない。とりあえずは目の前の女だな)
「それで私を教会を潰すための戦力にしようというわけか?」
「いいえ?そんなことはどうでもいいわ。いざとなったら私1人でも出来るもの。私が望むのは魔法の発展よ。あなたにはその可能性が垣間見えた。だから私が導いてあげようかと思ってね」
教会のことなど心底どうでも良さそうな感じで話した後、真剣な表情でアーノルドを見てきた。
「ずっと私を監視していたというわけか?」
「ずっとではないわよ?ただ面白そうな逸材がいたから少し覗き見していただけよ」
マードリーは悪びれる様子もなく堂々と言い放った。
(だが、世界最高レベルの魔術師に教えを乞える機会などそうそうないだろう。この機会を逃すべきではないな)
「私の魔法の才がわかるのか?」
「ええ。わかるわよ?私の講義を受けるっていうなら教えてあげてもいいわよ?」
「アーノルド様」
クレマンがアーノルドに向けてダメだという無言の視線を送っていた。
流石に素性の知れぬ者を安易にアーノルドに近づけるわけにはいかないのだろう。
「クレマンよ。すまぬが、此度は私の我儘を通させてもらう」
「あら、じゃあ私が先生でいいってことね?」
「ああ、だがまだ仮扱いだがな」
クレマンに視線を送って、本当にマードリー・レイラーク本人であるかも含めて調べよ、という命を下した。
クレマンも心得ていたのか即座に力強く頷き返してきた。
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