第18話
「それじゃあ時間もないから早速始めましょうか」
今日は実技をする時間はないということで外ではなく学習室のほうに移動しマードリーの講義が始まった。
「じゃあまずは約束通りアーノルド君の潜在能力を教えてあげましょう」
あの神官のように頭に手を翳すのかと思ったがそんなことはなく、マードリーは1枚の折り畳まれた紙を生み出してそれを渡された。
「・・・・・・その紙は魔法で生み出したのか?」
「ええ、そうよ?便利でしょ?」
「ああ、そうだな」
アーノルドの頭の中では、紙代の節約になるな〜、と前世の貧乏性が顔を出していただけなのであるが、マードリーはアーノルドが魔法に興味を持ってくれたと輝かんばかりの満面の笑みでこちらを見ていた。
アーノルドはマードリーの痛いほどの視線を無視して渡された紙を見た。
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名前:アーノルド・ダンケルノ
性別:男
レベル:2/821
HP G/S MP G/SSS EP F/SSS
力 G/SS 体力 F/A
知力 D/SS 精神 E/SS
敏捷 G/SS 器用 G/A
火 G/A 水 G/SS
風 G/S 土 G/SS
光 G/B 闇 F/SSS
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「一応それぞれの項目をざっと解説していくわね。レベルというのは生命としての格を表すものよ。レベルが高い方が同じ能力値であってもより優れた能力になるわ。だからみんな必死にレベルを上げようとするわ。ただ、あくまで格が上がるだけでレベルが高いからといって強くなるわけではないわ。そうね・・・・・・例えるなら、どれだけ剣の素振りをしようが実戦で強くなるわけではないのと同じようなものね。」
「そのレベルというのはどうやって上がる?」
「生命力を摂取することによって上がるわ」
「?」
アーノルドは生命力というものがよくわからず首を傾げた。
「要は生命体を殺せばいいのよ。人でもモンスターでも。格が高い生命体を殺すほどレベルも上がりやすくなるわ。それとレベルが高くなればなるほど全然レベルは上がらないわよ。例を挙げるなら今の私がそこいらのドラゴンを1体倒したところで1レベルも上がらないわ」
「お前はいま何レベルなんだ?」
「フフフ、それは秘密よ。基本的に他者にレベルを教えることはないわ。レベルというのはたしかに高いだけじゃ意味がないけどある程度レベルが高い人にとってはその人の実力とそう変わらないわ。この世界の大体の潜在レベルの平均値ってどれくらいかわかるかしら?」
アーノルドは、お前は私の潜在値を見れるくせに、と思ったが一応紙を折りたたんで渡してきていたのでその辺は配慮しているのだろうと思い口を噤んだ。
「400くらいか?」
アーノルドは自分の他の潜在値の最大が明らかに平均より高いので、おそらくレベルも平均よりは高いと思い自分の半分くらいを適当に答えた。
「いいえ、150もないくらいよ。平民は大体100レベルくらい、貴族でも200レベルくらいが平均と言われているのよ。500もあれば英雄、勇者の器であり、それが平民ならば国が奴隷にしてでも手に入れようとするでしょうね」
「お前は貴族なのか?」
アーノルドは周辺国家の貴族の名簿は既に覚えているが、マードリーが名乗っていたレイラークという貴族を見たことはなかった。そしてマードリーの実力と口ぶりから貴族の平均レベルなど大幅に超えているだろうことは想像できた。少なくとも英雄や勇者の領域には足を踏み入れているだろうと。そして、平民ならばどうやって国から逃れたのか気になった。
「フフフ、力のあるものには国も手出ししてこないのよ?」
マードリーはアーノルドの裏の意味を読み取って遠回しに平民であると言ってきた。
「お前のレイラークってのは?」
この世界の平民は本来姓を持たない。ならばそのレイラークとはどこからきたものか聞かずにはいられなかった。
「私の魔法の師匠の姓よ。旅立つ時にもらったの」
マードリーは誇らしげにそう言った。
「お前の師匠は貴族なのか?」
「いいえ?たしか平民だと言っていたけど・・・・・・」
アーノルドは没落貴族の可能性などを考えた。しかしこのマードリーが敬意を見せこれほどの実力をつけさせた者を国が手放すとも考えられず、アーノルドは思考の海に陥りかけていたがマードリーの一声で現実に戻ってきた。
「今は私のことなんてどうでもいいのよ。さぁ次行くわよ。次はHPね。これはまぁ耐久力だと思っておけばいいわ。でもどれだけ高かろうが当たりどころが悪ければ死ぬわ。で、次にMPとEPね。世間一般ではマナとエーテルがどれだけ貯めれるかを表しているものよ。高ければ高いほどいいわ。でもどれもそうだけど高いからといって中身が伴わなければ勝てないから慢心してはダメよ。貴族の中には高いだけで傲慢になって全く努力をしないなんてやつも一定数いるからそんなのになっちゃダメよ!次に力。これは攻撃力の威力に関わるものね。同じ技を放ったとしても力が強い方が威力が高くなるわ。体力はまぁその名の通り持久力を表しているわ。これはAもあれば十分よ。知力は頭のかしこさや技に対する理解度などが上がると言われているわ。精神は平たく言えば痛み耐性ね。あとは精神の乱れにも強くなるから、強い人ほどこれが高かったりするわね。敏捷はその名の通り素早さを表しているわ。器用は手先の器用さを表しているわね。剣術だと小手先の技に影響したり、魔術だと技を自由に作るのに影響するわね。あとはそれぞれの魔法属性への適性よ。・・・・・・ここまでが、大体教会や学校で教えられることよ」
「さっきからいやに他人行儀な言い方をしているな。お前の考えは違うと言うことか?」
「ええ、そうよ。まずはMPとEPね。こんなもの意味のないものよ」
マードリーは吐き捨てるかのように言った。
「?・・・どういうことだ?」
マードリーのいきなりの全否定にアーノルドの頭はついていくことができなかった。
「マナやエーテルがどこから生み出されているか知ってる?」
「いや・・・。だが時間と共に自然回復するものだということは聞いた」
「そうね。でもなぜ時間と共に回復するのかしら?体内にある架空の器官が生成しているのかしら?」
「・・・答えはまだわかっていないと聞いたが?」
「いいえ、答えは出ているわ。ただ教会が自分達の都合の悪いことだから事実を伏せているに過ぎないのよ。あなたはエーテルについて習っているときに騎士の子にできるだけ大きな臓器を想像するようにと言われていたわね?何故だったかしら?」
「・・・小さい臓器を想定すると貯めておける絶対量が少なくなるから、だと言っていたな」
「そうよ。でもそれはおかしいと思わない?」
アーノルドはそう言われて首を捻った。
(おかしい?・・・何がおかしいんだ?こういうときは一度全てリセットして分かっている事実から考えるんだ。そもそもエーテルとは何だ?・・・少なくとも前世にはなかったものだ。この世界特有のもの。そしてどこから生み出されているのかわからないもの。オーラというもので見えているようには思えるが実体のない概念的なものだ。そしてエーテルを扱うにはイメージが大切となる・・・。そして小さい容器を想定すればエーテルは少なくなる傾向があり、大きな容器を想定すればエーテルは多くなる傾向にある)
「わからないかしら?」
「ちょっと黙ってろ!」
アーノルドは頭に手を当てさらに深く考え始めた。
(一度整理しよう。エーテルは概念であり、イメージによって変動するものである。そしてあいつはマナやエーテルの最大蓄積量の潜在能力を意味のないものと言った。意味がないとはどういうことだ?GであろうがSSSであろうが同じであると?概念・・・っ!?概念でありイメージでどうとでもなるということは・・・)
「そもそもの前提が間違っているのか・・・」
「続けて?」
「マナやエーテルを体内で貯めているという想定自体が間違っているんだ。体内にはどうしても体積の限界がある。だから貯めれるマナやエーテルに最大値というものが出来てしまう。ということは・・・マナやエーテルの偏りというのは最大値に対してそいつが心のうちで望んでいる比率だということか?それに想像によって最大蓄積量が変わるのならあの潜在値には何の意味があるんだ?(ボソッ)」
後半は自分で自問するように小さな声で言っていたため、マードリーにも聞こえていなかった。
「そうだとしたら、どうしたらいいと思う?」
アーノルドはマードリーを一度見て再び考える姿勢に入った。
「そうだな・・・・・・、そもそも貯める器を外に設定する」
「どんな風に?」
「この世界そのものが器だと考えればいいんじゃないか?」
「回復方法は?」
「・・・・・・呼吸だな」
「具体的には?」
「呼吸をするたびに補給するイメージだな」
「たしかにそれでもほぼ際限なく戦うことは出来るでしょう」
マードリーはよく出来ましたといわんばかりにアーノルドの頭を撫でながら言った。
「でもね、まだまだ自由になれるわよ?」
アーノルドはここでまだマナやエーテルを体に取り込んで技を出そうという発想をしていることに気がついた。
「・・・・・・そもそも呼吸などで補給するのではなく空気中にあるものをそのまま使えばいいのか⁈」
「まぁそれでもほとんど困らず戦うことが出来るわね」
一つの先入観を打ち破ったことにより、これだ!、とアーノルドは思っていた。それゆえまだ違うと言われたことで気分が落ち込んでしまった。
「・・・・・・なんだ?これよりいい方法があるのか?」
「先入観というものは本当に怖いものなのよ。自分では消せているつもりでもその考えに縛られているの。そしてその縛りが多ければ多いほど人間はどんどん弱体化していくの。自由な人ほど強いのよ?」
ニヤっと挑発するかのようにマードリーは笑った。
「・・・・・・ちょっと待て」
アーノルドは答えを聞くことを拒否し再び考える姿勢に入ろうとした。
「今日はもう時間がないからここまでね。明日までの宿題にしておくわ」
アーノルドは返事も、返っていくマードリーを見送りもせず、夕食の時間も入浴中もひたすら答えを考え続けていたのであった。
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