第15話 幕間

 アーノルドが倒れた夜、離れの屋敷の使用人のある部屋にて1人の男が休んでいた。

 その男がいる部屋の扉を叩く音がした。


「どうぞ〜」

 扉を開けたのは1人の女であった。

「あれ珍しいね、君が僕を訪ねてくるなんて」

「話がある。上がらせてもらうぞ」

「何の話かな?」

「とぼけるな。分かっているだろう、昼間のことだ」

「ん〜、アーノルド様のことかな?でもなんで僕のところに?」

 相手を小馬鹿にするような飄々とした仕草でその男は返答した。

「お前があの娘に魔法を掛けたことは分かっている。何故あのようなことをした。返答次第ではお前の首を切らねばならん」

 その男は所謂公爵の手の者であった。

 公爵家の手の内の者は普通の使用人達の任務である忠誠を誓う相手を見定めるだけでなく、公爵としての適性も見定めなけでばならない。

 それゆえ誰かに忠誠を誓おうと思うまではクレマンなどの一部の例外を除いて中立の立場から見守る必要がある。

 あのメイドの娘を利用してアーノルドに対して私情で悪意のある嫌がらせをしたのならば、それは公爵への背信行為に等しい。

「・・・・・・それとも既に見限ったのか?」

 だが、女はこの男のことが常にいけすかないやつであるとは思っているが、それでも公爵に対する反逆をするとも思えなかった。それゆえ、無いとは思うがもう自らが仕える主人を見つけたのかと聞いた。

「いいや、僕はまだ中立さ。いや、むしろアーノルド様よりと言ってもいい」

 飄々とした男は三日月型に歪んだ笑顔でそう言った。


「あの行為が味方だと?あれはアーノルド様が望む展開とは断じて違うと思うが・・・・・・」

「ん〜、そう言われると言い訳のしようもないけれど、僕が使った魔法は少し自分に正直になるだけの魔法だったんだよ?それがまさかあそこまで暴走するとは思わなかったよ。アーノルド様は少しの間、罰を与えず見逃すつもりだったらしいけど、それじゃあダメだ。一度罰を与え、毅然とした態度を取っておかないと。一度も罰がなかったのならそれは主人がやってもいいと許可したに等しい。にもかからわず何の忠告もなしにいきなりその行為を罰すれば下にいるものはどの行いがやっても良いことで、どれがやってはいけないことか判断できず無能な部下か指示待ち人間の部下しかいなくなる。だから今回ちょっとラインを超えてもらって罰してもらうつもりだったんだけど・・・。まさかあそこまでの馬鹿がいるとは思わなかったよね」

 男はカラカラと笑った。

「笑い事ではないわ!」

「でも結果的にはよかったんじゃない?そのおかげでアーノルド様の成長も早まったんだし。それにダンケルノとしての資質も見れたわけだし」

「それは結果論でしかないわ。・・・・・・このことは公爵様にも報告しておくぞ」

「ご勝手に」

 そう言うと女は荒々しく部屋を出て行った。

「あ〜、成長が楽しみだな〜。僕も遠征に連れて行ってくれないかな〜」

 男は部屋の中で1人今後のことを考え、耐えきれないように薄気味悪い笑いをこぼしていた。




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