第11話

 クレマンと一緒に入ってきたメイドは薄暗い青髪のメイドで見覚えはなかった。


(初めて見るメイドか?昨日の出迎えで見た記憶がない)


「アーノルド様。こちらが本日この屋敷の案内を務めるメイリスでございます」


「ご紹介に与りました、メイリスと申します。本日アーノルド様の案内役を務めるさせていただきます。本日はどうぞよろしくお願いいたします」


 メイリスはそう言って礼をした。


「ああ。クレマン」


 アーノルドはメイリスに一言返事をすると、手を出しクレマンに昨日頼んだ物を催促した。


「は、こちらが使用人一覧のリストでございます」


 クレマンが恭しく書類の束を渡してきた。


「それじゃああとは頼んだぞ。行くぞ」


 メイリスを連れ添って書斎を出た後、屋敷の玄関の入り口まで来た。


 全く表情を変えずに黙々と後ろに付き従っていたメイリスを見る。


 その瞳には私を映しているが、全く私のことなど見ていないかのような視線であった。


 今までに見たこともない視線に内心たじろいだアーノルドであったが表情には出さなかった。


「メイリス。お前は荒事は得意か?」


「……人並み程度には得意であると言えます」


「最悪の場合頼ることになるかもしれん。その時は頼んだ。だが殺しはするな」


「かしこまりました」


「それじゃあ案内を頼んだ」


「は、それではご案内を開始いたします」


 まずは人が100人くらいは入れる玄関に入り、真正面には螺旋階段があり、その横には大きな扉があった。


 そこを入るとパーティー会場になっており700坪弱の広さがあるのだとか。


 玄関から入って左側の廊下に行くと客間があり、角を曲がると客人が滞在しているときにくつろげるリビングがそれぞれ数部屋用意されており、滞在している人によってそれぞれランクの違った部屋に案内されるらしい。


 また客人が来たときに使う食堂もあった。


 奥の方に行くと客人が滞在中に自由に使える床面積430㎡くらいある第一書庫室があり、一応2階の第二書庫室と階段で繋がっているが屋敷の者しか開けることは出来なくなっている。


 そして屋敷の奥の廊下には大きな扉があり、そこから先は基本的に使用人の働くスペースとなっており客人が誤ってそのスペースに入らないように扉が設置されている。


 その扉を通るとすぐ左側が使用人の休憩スペースとなっていた。


 メイリスに、入ってみますか、と問われたが流石に使用人の休憩室に主人が入るのはまずいと思ったのでメイリスに、入って中にいる人だけ確認してこい、とだけ言ってすぐに移動した。


 右側はパーティーホールの裏側となっておりそこから使用人がパーティーの際に出入りしたり待機しておく場所であるらしい。


 そして地下室への入り口もそちらにあり、食料や更に下には地下牢などがある。


「この屋敷はどれくらいの広さがある?」


「庭園などを含めた土地面積は約30000坪、このお屋敷の敷地面積は約2000坪ほどとなっております」


 その後調理場、学習室、ピアノが置いてある娯楽室などを案内された。


 そして突き当たりには東屋に出れる通路があるが、そちらは後ほど行くことにし、玄関から見て右側の通路に来た。


 そこには今日の朝食にも来た食堂があり、突き当たりには出っ張り部分があり庭園を見ながら休めるようにテーブルとイスが置いてあった。


 また母上がお茶会などを開くときにはこの右側の部屋を基本的に使うのだとか。


 2階は基本的にこの屋敷の主人の居住スペースであり、居間や寝室、浴室、風呂を上がってから受けるマッサージ室、書斎などがあり、書斎の横には簡単な軽食が食べられる部屋や自身の寝室があった。


 また母上の寝室や客人が来て泊まる際の寝室も2階にあった。


 また書庫は1階にあったものとは比べ物にならないくらい大きく2150㎡くらいあるらしい。


 元々5歳まで暮らしていたところに比べて蔵書数が格段に違うので読書には困らないだろう。


 この屋敷の廊下にも2階に上がる階段はいくつかあるが、奥にある一つの階段以外は使用人が使うことがないらしい。


 そして3階は使用人の居住スペースとなっているらしいが、そこまで見に行くのは憚られたので一旦区切りとし書斎に戻ってきた。


 屋敷がかなり大きいため歩いて見て回るのも一苦労であった。


 そしてここからが本題である。


「案内ご苦労であった」


「とんでもございません」


「それでは早速であるが、今からこのリストにある名前を読み上げていくので先ほどの案内の最中に見た者がいればどこで見たかと外見の特徴を言ってくれ。いけるな?」


「かしこまりました」


 特に表情を変えることなく淡々とメイリスにアーノルドは内心1番考えが読めなくて困惑していた。


「では、まずエイリーン・ガルフォード」


「第二居間室にて窓拭きをしていた赤毛の女性です」


「次、レイリン・ハーモット」


「食堂前の通路ですれ違った3人のメイドの内、顔にそばかすがあり三つ編みの髪をしていた茶髪の女性です」


「次、ナフィー・オーヴィング」


 そのやりとりを繰り返し今日こちらを見ていた視線や立ち振る舞いからそれぞれの使用人に点数をつけ、どいつがどの陣営に属していてどの使用人を味方につけるかなどを分析した。


 だが今日は会えなかった使用人もおり全体の8割ほどが埋まった状態であった。


「ご苦労であった。まだ昼まで時間があるから庭園を案内してくれ」


 庭園はかなり広いため残り時間で全て回ることは不可能であるが、近くにある東屋や温室、花壇などは見ておきたかった。

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