第4話
講堂に入るとそれなりの人数がいた。
この中に自分の母親と父親がいるのだろうけど、正直これまで会ったことがない母親と父親などどうでもよかったので特に探すことはなかった。
そしてザオルグの後について講堂を進み、祭壇の手前で3人が横並びに並び跪いた。
「それではこれより神眼の儀を執り行います! 本日神の敬虔な僕となる者達に祝福があらんことを!」
司祭らしき人がそう声を張り上げると、3人の前にそれぞれ1人の神官が近づいてきた。
その神官を見ると、こちらに対して嫌悪感のある視線を向け、口元が薄く笑っており前世の元上司が私を馬鹿にするように見ていた目にそっくりだった。
(こいつ! 敵の手の者か!)
咄嗟に声を上げようとしたが、それよりも前に神官が動く。
「目を閉じ、頭を下げてください」
そう言い、頭を抑えられたのだ。
そして何故か声が出なくなっていた。
(ッグ! こいつ!)
それから頭の上がほんのり暖かくなり眩い光が起こった。
それからしばらくして押さえつけられていた手がどかされる。
「神眼の儀、恙なく完了いたしました」
私の前にいる神官が皆に向かってそう告げた。
そしてこちらに嫌な笑みを向けて、その神官がいつの間にか持っていた紙に視線を向ける。
「っ!」
その神官は持っている紙を見て目を少し見開き驚愕の声を上げかけ、あわてて平静を取り繕っていた。
そして私に忌々しげな目を向け一枚の紙を渡して去っていった。
他の2人の神官も終わったようで司教の元に戻っていった。
そして私は渡された紙を見る。
そこに書いてあったのは、自分の潜在能力とでもいえるもの。
======================
名前:アーノルド
性別:男
レベル:1/10
HP G/G MP G/E EP G/E
力 G/F 体力 G/G
知力 $/F 精神 G/F
敏捷 G/G 器用 G/G
火 G/G 水 G/F
風 G/G 土 G/F
光 G/G 闇 G/E
======================
(クソ! やられた‼︎ あの神官を買収してやがったのか!)
この世界で潜在能力の平均は平民でE〜D、貴族でC〜Bである。
1番高いものでも平民の平均があるかといったアーノルドの結果は明らかに貴族としては落ちこぼれと判断されるだろう。
そしてアーノルドの知力からいって潜在能力がF止まりというのは考えづらい。
実際、$というのは現時点でFを超えているため生じた文字化けだった。
しかし、これはすべて5歳になるまでにその知力の高さを露見させたが故に仕掛けられたのである。
このときのアーノルドの目は血走って殺意のこもった目をしていた。
下唇を思いっきり噛んでいるので血が出ていたがアーノルドは見物人達とは反対方向を向いており、更に下を向いていたのでそれに気づく者はいなかった。
(今から不正だと喚くか? ……いや、それだと前世と同じだ。それに今喚いても結果通りにならなかった子供の癇癪にしか見えないだろう……。クソ! 本当に私は無力だ‼︎ 子供だから仕方ない? そんなものは甘えだろう! これまでの2年間で色々なことを学んできた。そして人の悪意は前世で嫌と言うほど体験してきたのだ。後継者争いが始まるということも聞いていた。今回のような妨害も想定できたはずだ‼︎ これは私の無力さが招いたことだ。そしてまだどこかで人の善意というものを信じていたのだろう……。もはやこの世界で敵に容赦はいらない。敵だと判断したなら確実に排除するということを心に刻め! だがそうは言っても今は力がない。力のない者の理想論など世迷言でしかない。自分の我を通すために誰にも屈することのない圧倒的な力を! 力を手に入れる‼︎ そしてまずはお前だ! 神官! 顔は覚えたぞ‼︎)
もはやそこには先程までの可愛らしい顔はなくただただ怒りに震え、5歳児には相応しくない憎悪に燃える表情があった。
貴族の令嬢が見れば失神してしまうだろう悪魔の表情をして神官を睨んでいたアーノルドは突然真顔に戻った。
幸いだったのは観客席からは見えず、司教や神官もアーノルドを見ていなかったためその一瞬の変化を見られていなかった。
もし見られていたらそれこそ悪魔がついていると悪魔払いされたかもしれないほど、表情が一変していた。
(取り繕え。取り繕え。取り繕え。牙を剥くその時まで警戒されずに着実に力をつけ敵を排除する。これ以上警戒されるのは得策ではない。今はしてやられた姿を見せるしかないだろう。あとはどっちに買収されたかだな……。どっちも敵であることには変わりないが、汚いことには汚いことを、正々堂々には正々堂々と! もう躊躇はしない。この世界では、いやこの世界でも躊躇した方が喰われるだけだ)
内心ではどす黒い感情が渦巻いており、もはや司教の言っている言葉など全く聞いていなかった。
そして公爵に結果を渡すときが来た。
「それでは神眼の儀の結果をお渡しします」
司教がそう言い、神官が父親と母親3人に紙を渡しにいった。
公爵はその紙を確認した後、その紙を魔法で燃やした。
「3人の子供達よ、こちらを向け」
とても冷徹な声で父親と思わしき人物がそう言葉を発した。
そしてそちらを向いて初めて父親と母親3人の顔を見た。
(あいつか)
1人の女がこちらを侮蔑のようなまた勝ち誇ったような目で見てきていた。
おそらくあの神官を買収したのもあの女だろう。
(あいつが敵だな)
そう心に刻み込んだ。
「それでは裁定を言い渡す。この3人の子供を公爵家の人間として認める」
「な‼︎」
その瞬間思わず声を上げたのは先程こちらを見ていた女だった。
おそらくあの女は私の潜在能力を最低値にすることによって、公爵家から追放する計画だったのだろうが、今までの授業で伝え聞いたあの男ならばそのような小細工を見抜けぬわけがない。
少なくとも私はそう信じたからこそ、そこに焦りはなかった。
むしろ焦ったのはそれに対する対処が全く出来ていなかったからである。
『してやられた』。
公爵家の人間としてはあってはならないことである。
何者にも屈せず、弱みを見せるなど論外である。
5歳児の子供にまでそれを求めるのなら私はアウトだっただろう……、もしくはまだ正式に公爵家の人間ではなかったので見逃されたのかもしれないが、それならばわざわざ公爵家の人間にする必要もないだろうが……。
(とりあえず一命は取り留めた。これからは気を引き締めなければ。今から5年。5年の間に力をつける‼︎)
アーノルドはそう心に誓った。
アーノルドがそんなことを考えていると、心の底から震えるような重厚なる声が響いてくる。
「なんだ。何か文句があるのか」
その男は射殺さんばかりの眼光で冷たく女に言い放った。
「い、いえ。ございません」
その女は震える声でそう答えた。
男はもはやその女に興味がなくなったのか再びこちらを見て、口を開く。
「我が公爵家に弱者はいらん。何者にも屈せぬ者だけが真の公爵家の者であり公爵になれる資格ある者だと心に刻め!」
アーノルドは自分の心臓を射抜かれたかのように錯覚し、息が荒くなっていた。
(こ、言葉だけで殺されそうだ)
あれは全員に向けた言葉だろうが、まるで私への訓戒のように思えた。
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