第3話
もう少しで五歳になろうという日まで成長した。
武術や魔法はやはり教えてもらえなかったので、ひたすら勉学に打ち込んだ。
やはりこの体は前世よりも更に優秀で一度読んだ知識はほぼ間違えることはなかった。
そしてこのダンケルノ公爵家についても教えられた。
ダンケルノ公爵家は『誰にも屈せず、誰よりも強くあれ』という
何者にも屈せず、王家ですらこの家には強く出られないらしい。
この国で何か問題が起こると大抵解決するのがダンケルノ公爵家で、無くてはならない家らしい。
しかしそれほど大きくなると排除に出られるのではないか、と聞くと実際かなり昔に王が他の貴族を率いてダンケルノ公爵家に攻め込んできたことがあったそうだ。
しかし10倍以上の戦力差があるのにも関わらず、こちらの被害が軽微なまま王の側の部隊を半数以上撃破したのだとか。
それに焦った王は即座に降伏し、ダンケルノ公爵家への不可侵条約を結んだのだとか。
更にはそれによって疲弊したこの国を狙って攻めてきた他国の軍もダンケルノ公爵家が撃退したことで、もはやダンケルノ公爵家の権威は誰にも侵すことが出来ないほど強大になった。
それこそ王家が一切口出し出来ないほどに。
それゆえ代々公爵家にあるものは使用人ですら屈強さが求められ、公爵家の者には他に付けいる隙を与えない精強さを要求されるのだとか。
強くなければ存在することすら許されない、それがこの家なのである。
(私にとっては都合がいいが、普通の子供が3歳から勉強漬けではやってられないだろうな……いや、それが普通であると思えばそうでもないのか? それゆえ3歳からするのかもしれんな)
アーノルドが受けている授業の終わり、今日はいつもと違って教育係の者が真剣な表情を浮かべてアーノルドへと話しかけてきた。
「いいですかアーノルド様。5歳になれば教会に行き、神官に潜在能力を見てもらうことになります。そしてよほど悪い結果でなければ、そこでやっと公爵家の者として認められます。それから本格的な後継者争いが始まります」
教育係が言うには、厳密には今はまだ公爵家の人間として認められていないのだと。
そしてこの公爵家では代々後継者争いがおこなわれ、それに勝ち抜いた者が真の強者として公爵の位を継ぐことができるのだとか。
しかしそれを聞いても自分のやることは変わらないので、自分の目標のためにひたすらに勉学に励むだけである。
そして5歳式と呼ばれるそこで初めて自分の母親や父親、他の家族に会えるのだとか。
他の兄弟も同じ母親だと思っていたのだが、それぞれ母親が違うらしい。
他の母親は元々は公爵家と侯爵家の人間らしい。
教育係の者に自分の母親について問うと言葉を濁されてしまった。
おそらく自分の母親は相当身分が低いのだろうということはわかった。
そして5歳になってからしばらくしてついに5歳式当日の日がきた。
その日は朝早くから使用人総出で慌ただしく、私も風呂に入って入念に磨かれた後、今までに着たことがないような豪華な正装を着せられた。
その後、馬車に乗せられ数時間後にやっと神殿に着いたのである。
硬いイスで
そしてすぐに始まるのかと思っていたが、そのまま3時間くらい控え室で待たされた。
おそらくこれも公爵家の人間に相応しいかの試験なのだろう。
私のことを常に監視している人が何人かいる。
一見無表情であるが、時折こちらを評価するような目で見てくるのだ。
昔は他人の視線など気にもしなかっただろうが人生がおかしくなってからは他人の視線ほど怖いものはなかった。
そして人一倍他人の視線には敏感になったのだ。
「アーノルド様、準備が整いましたので講堂の方へお越しください」
神官の1人が控え室の方へ呼びにきた。
「アーノルド坊っちゃま。いつも通りにしていれば大丈夫ですよ」
自分でも気づかない間に震えていたみたいで、赤ん坊の頃からずっと世話をしてくれていた乳母が手を握ってくれた。
「ありがとう」
アーノルドは乳母に、にへらと笑い答えた。
私はもう人を信じないと決めた。
信じられるのは自分だけだと。
だからこそ、こうした好意にさらされたときにうまく笑えているだろうかと不安になる。
人は信じないけど人付き合いがなくなることはないだろう。
そして好感の持てる人物と持てない人物、上に立った時どちらにより仕えたいと思うかなど考えるまでもないだろう。
ゆえに表の顔と裏の顔を使い分ける必要があると考えている。
今は子供の無邪気さと聡明さを見せることで乳母や使用人には、多分好感度が高いと思う。
私は力を手に入れたからといって元上司や上層部のような人間になるつもりはない。
それにもはや昔の自分みたいにもなれないだろう。
私は乳母にお礼を言った後に講堂に向かった。
小さい自分には講堂までの道のりがとても長く、そしてとても大きく見えた。
大人になっても大きいと感じるくらいその道は幅があり、キラキラと光る何かが散りばめられたとても豪華な廊下であった。
(たしかブーティカ教って民に寄り添い質素に暮らしているって話だったけど、これを見る限りそうとは思えないな〜。まぁここだけは豪華にしているとかもありえるだろうけど……)
大きな扉の前まで来ると、数人の騎士とそれに守られるように大人しそうな男の子と傲慢にふんぞりかえっている男の子がいた。
そちらを見ていたからか偉そうな少年がこちらを見下すような視線で睨みつけてきた。
そしてお付きの騎士であろう人物が腰にかけている剣を鳴らし威嚇してくる。
(なるほど。あれが私の異母兄弟かな。あれだけ敵意剥き出しだとむしろわかりやすくていいな。そして5歳の子供に剣で威嚇するなどなんとも器の小さい騎士だ。自分の騎士を持つのならあんなのは絶対ごめんだな。まぁ主人があれならばお似合いではあるかもしれないな)
「それでは揃いましたので、これよりご入場していただきます。騎士の方々はこれより先武器の持ち込みは禁止となりますのでこちらにお預けください」
待機していた神官の1人がそう言った。
「なんだと! これは我が主人から賜った大事な剣である! 預けることなど出来ぬわ! 中で何かあったらどうしてくれる‼︎」
そう怒鳴り声をあげたのは先ほどの威嚇してきた騎士であった。
だが、そう怒鳴られた神官は一切表情を変えることなく淡々と告げる。
「規約ですので例外はございません。従えぬというのであれば控え室の方に案内させていただきます」
「っく! ……フン!」
それを見て騎士は悔しそうな声を上げながら渋々といった感じで武器を預けていた。
(あれがうちの騎士と思うと恥ずかしくなってくるな。自分が公爵になったらまずはその辺の粛清からかな。……ん? あれは公爵家の家紋ではないな。たしか……、ヴィンテール侯爵家の家紋か。ああ、次男の母親の実家か。なるほど。もう既に後継者争いの牽制が始まっているのか)
「レイ様、ザオルグ様、アーノルド様の御入場です‼︎」
神官がそう大声を張り上げた。
私はこの厳かな雰囲気での大声という場違い感を感じつつ、しっかりとした足取りで講堂に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。