第20話甘噛み

カプッ、と左耳に噛まれた感覚を覚えた俺は思わず悲鳴を上げる。

「ひっ!?あっ、み……宮間、さん……」

俺が悲鳴を上げた刹那に左耳を襲った違和感が離れ、背後に顔を向けると瞬きをして驚いている宮間茜音が立っていた。

「あ……ええっと、いつもみたいに、呼んでくれないんですね……柳葉くん」

「ああっと……まあ、そう……かも。ごめん……えっと——」

「この間は……ごめんなさい。今も……ですよね。寂しいんです、柳葉くんと話せなくなったのが。あの日から避けられてばかりで……寂しいんです、私。胸が、張り裂けそうで……望んでいた、のじゃないんですぅよぉっこんな苦しい痛みはァッ!」

彼女の声は震え、次第に涙声に変わっていきぼろぼろと涙を小刻みに震える両脚の足元に落とした。

胸元で両の掌を重ねて、苦しそうに訴える彼女がいたたまれなくて、視線を逸らすことにとどまらず顔までも逸らした。

確かに彼女を避けている。あの日から、関わることを避けている。

あの日の彼女から受けた衝撃インパクトは払拭できるものではない。

無理な話である。

親しげに名前で、呼び捨てにできていた彼女に対してよそよそしく呼んでしまうことは必然だと思う。

俺は彼女との距離をうまく測れない精神に至っている。

「ごめんなさい、ごめんなさい……ごめ、んなさい——」

壊れて同じ歌詞を延々と繰り返すラジカセのように謝り続ける宮間だった。

幸い、放課後の図書室でカウンターには司書や委員会の生徒の姿はなく、騒ぎ立てる人物は誰一人居なかった。

誰かしらが図書室に足を踏み入れでもしたら、俺は加害者という立場に立たされる。

それだけは、阻止しなければ……阻止せねば。


俺は、俺は……いつも、毎度、不運に見舞われる。被害者という立場がたちまちに加害者という立場にすり替えられる。


嬉しくない甘噛みの感覚は消えずに痕を遺すだけだった。

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私か彼女、どちらが好きかなんて聞かれても 闇野ゆかい @kouyann

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