うめく島
ツヨシ
第1話
浜から少し先。
距離にして一キロもないだろう。
子供の頃から見慣れた小さな島。
しかし地元の漁師は誰一人近づこうとしない。
近づいてはいけない島。
昔からそう言われてきた。
何度か不幸なことがあったと聞いたが、その内容までは知らない。
しかし僕は小さい頃から思っていた。
あの庭付き一戸建てを建てたらいっぱいになりそうな小さな島が、怖くて近寄れないだなんて、ばかばかしいにもほどがある。
そう思っていたが、子供ではなかなか島には近づけない。
海辺で育ったにもかかわらず、僕は泳ぎがあまり得意ではなかったからだ。
突然、天機が訪れた。
中学の時、釣りが趣味の友人が小遣いを貯めて、ボートを買ったのだ。
かなり中古の手漕ぎボートだが、乗っても沈んだりはしない。
「今度の日曜日に、ボートを貸してくれ」
そう言うと、快く貸してくれた。
日曜日、早朝からボートに乗り込む。
目的はあの島だ。
オールを使い慣れているわけではないが、島までそう遠くはない。
そのうちに着くだろうとボートを漕ぎだした。
幸い体力には自信がある。
漕いでいると、ゆっくりだが島に近づいているのがわかる。
そのまま漕ぎ続け、もう島まで手が届きそうな距離に来た時だ。
突然に声がした。
はっきりと。
低くうめくような声。
それは島から聞こえてきた。
どう聞いても人が、男が苦しみもだえている声にしか聞こえない。
――ひえっ!
僕は慌ててボートを漕ぎ、島から離れた。
途中、島から結構離れたと思った時、再びあの声が聞こえてきた。
すぐ耳元で。
全身がぞわぞわしたが、死ぬ気でボートをこぎ続け、浜にたどり着いた。
すると声は聞こえなくなっていた。
「昨日、海でボートを漕いだんだろう。楽しかったか」
そう聞く友人に僕は言った。
「楽しかったよ」
と。
終
うめく島 ツヨシ @kunkunkonkon
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