第40話 ハノ防衛戦

   アーデルハイトは傷の手当てが終わると、城壁の櫓を見て回り自分もべルティーナと交代で休息をとった。

 そして翌朝、べルティーナが指揮をしていた時に隊員が駆けてきて

「北側に敵軍!数およそ3万!」と報告してきた。それを聞いたべルティーナは

「総員戦闘配置!」と号令を掛け隊員にアーデルハイトを起こしに行かせた。そしてアーデルハイトが本丸から降りてきて、本丸の指揮所に到着した。

「詳細を聞かせてくれるかな?」とアーデルハイトが聞くと隊員が

「現在敵軍はハノを包囲中、包囲完了はこちらの戦闘配置完了とほぼ同時だと思われます。敵編成は騎兵6千、兵科不明の歩兵2万4千ほどだと思われます。」と答えた。

「ありがとう」とアーデルハイトが隊員に礼を言うとべルティーナに

「こちら側は騎兵2千、歩兵2千、弓兵8千ぐらいだよね。歩兵と騎兵を城門に配置して、弓兵は城壁の穴から援護でどうかな?」と聞くとべルティーナは

「それでいいと思うわ。変に奇策を使っても私たちはこの城での戦いに不慣れだからね。」と答えた。そして敵味方双方の戦闘準備が整った。

 だが敵はなかなか攻めてこなかった。ハノの海岸には敵軍の艦艇が常に交代で見張りをしていた。この展開はアーデルハイトもべルティーナも予想はしていた。ラコール軍のとった行動は兵糧攻めであった。ハノを海と陸から包囲し、薔薇隊が消耗してきたところで降伏勧告をしてくることが予想できた。


   ハノが包囲されてから1週間、アーデルハイトとべルティーナは打開策を考え続けていた。だが1万2千で約3万の敵を破る策はなかなか考えつかなかった。野戦で戦うにしても歩兵の数が少なすぎた。隊長達も早く包囲を打ち破りたかったが、状況は最悪であった。食料自体は1カ月は持つが、包囲されている恐怖と食料が減っていく恐怖で兵士の精神が弱っていく。これでは敵が攻めてきたときにまともに戦うことができなくなる。アーデルハイトもべルティーナも考えるのに必死で指揮所は静まり返っていた。


   すると指揮所に伝令が駆けこんできた。

「北側の森に騎兵約1千、クリスタ軍の旗と黒色の旗を掲げています。」

この報告を受けアーデルハイトとべルティーナが急いで北側の櫓に向かった。櫓の窓を除くと、報告通りの騎兵がいた。するとその隊から

「俺の名はアドルフ!ラコール軍に告ぐ、今すぐこの場から撤退しろ!撤退する動きが見られない場合、俺たち黒狼隊が全力で暴れる!」と大声が響いた。それを聞いたアーデルハイトが

「黒狼隊だ!クリスタから救援が来た!」と叫び、伝令にそのことをすべての兵士に伝えさせた。士気が落ちていた薔薇隊も、この報告を聞いて士気を取り戻した。そしてアーデルハイトが

「アーデルハイト隊、乗馬して城門に集合。」と言い騎兵が門の前に集まった。そして

「開門!」と言うと門が開き橋を渡って突撃陣形を作った。するとラコール軍はアドルフの警告に従って撤退し始めていた。そしてラコール軍が撤退して行くのを見届けると、黒狼隊がこちらにやってきて

「よくハノを落としたな。かなり数は少ないがこれからは俺たちも一緒に戦う。」とアドルフがアーデルハイトを励ました。


   城内に黒狼隊を案内し、アドルフを本丸に呼んだ。そこでアドルフは

「何度見てもこの国の城はいいな。」と城の中を眺めた。そして

「城外の市民はどうした?」と聞くとアーデルハイトが

「ハノから離れさせたよ。」と答えた。するとべルティーナが

「ついてすぐで悪いけど、今後について話し合うわよ。まずなんで黒狼隊が救援に来たの?」と聞くとアドルフが

「薔薇隊がクリスタを出て数日後に、なんかずっと海が気になってな。でも輸送船が新しくできた5隻しかなくてとりあえず俺の隊だけ向かうことにしたんだ。今回の作戦に薔薇隊を推薦したのは俺だからな」と話し

「今度は今の状況について聞かせてくれ。」と聞いた。アーデルハイトがアドルフに現状の説明をした。そしてハノの北にある、西からサチ、カロ、ネシの存在について話した。

「僕たち薔薇隊がハノを落としてから斥候を出したら、三つとも山の上にあったよ。」とアーデルハイトが話すとアドルフが

「この国は俺たちの言う各隊が城を持ってる。ハノを落とした時、敵兵は何人ぐらいだったんだ、その中に敵の隊長はいたか?」と聞くとアーデルハイトが

「敵兵は5千ぐらいで、隊長らしき人はいなかったよ。」と答えた。

 ハノを包囲していた敵数を薔薇隊は3万ほどだと予想していたが、実際は2万5千ほどで、敵は3隊均等に分かれて進軍してきていたため見張りが3部隊で3万だと勘違いしていた。だがアドルフは包囲中の敵を見て3万より少ないことに気づいていた。これは場数を踏んできたアドルフの観察眼によるものだった。

 アドルフが

「じゃあ多分さっき引いてったうちの1部隊がハノの城主だな。多分自分の領地を取り戻そうとしたんだな。もしかしたら元ハノの城主が三つのどれかの城にいるかもしれねえ。それが分かり次第攻めるか、賭けになるがとりあえず攻めるかどっちにする?」と聞いた。アーデルハイトは

「もしも攻めた城にいたとしたら兵数は1万5千ってところだね。こちら側は黒狼隊を入れて1万4千ほど、西のサチを落として首都との補給を断つか、無難に兵力が薄い城がわかってから攻撃するか。僕は前者がいいと思う。」と答え、べルティーナのほうを見ると

「私に異存はないわ。」とべルティーナが答えるとアドルフが

「了解。その辺の話は明日だ。とりあえず今日は休め、見張りは黒狼隊でやる。」と言い本丸を出ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る