第39話 ハノ攻城戦

   油が注がれるのを見たアーデルハイトが

「破城槌を捨てて引け!」と叫ぶと兵士が破城槌から大急ぎで離れた。そして次の瞬間には火矢が放たれて破城槌は凄まじい勢いで煙とともに燃え上がった。

 しばらくして、破城槌の火が収まり煙が消えていくと、そこには丸太で作った坂道ができていた。そして歩兵たちは橋の上、盾で密集陣形を作っていた。だが坂道は城門の上の櫓までは届いていなかった。それを見たラコールの兵士は、敵軍の計算間違いだと思い少しほっとした。するとアーデルハイトが坂道を駆け上っていき槍の柄の部分を丸太にたてて棒高跳びの要領で櫓の屋根まで飛んだ。そしてそのまま門の内側に飛び降り、槍で敵兵を薙ぎ払った。

 ハノの門を入ったところは幅が狭く、敵兵も30人ぐらいしか待機していなかった。だが城壁には無数の穴が開いており、そこから矢が飛んできた。アーデルハイトはそれらを躱しながら敵を次々と蹴散らしていく。この時のアーデルハイトの動きは華麗なもので演武を見ているようだった。そして瞬く間に30人を倒し、城門にかかっている閂を外した。そこに橋の上で密集陣形を組んでいた歩兵が次々と入ってきた。そしてアーデルハイトともに敵に突撃していった。


   敵軍も次々と増援が来て薔薇隊と狭い通路で押し合っていた。ここで突撃の勢いが消えて拮抗するのはアーデルハイトも想定外であった。敵軍と押し合っている間にも敵の矢によって見方が次々と倒れていく。べルティーナ隊も矢を放つが、敵兵が城壁に張り付いているためなかなか数を減らすことができない。(ラコールの城がこんなにも強力だとは)とアーデルハイトの顔に焦りが出てきた。(どうしたらいい、どうしたら早くここを抜けられる)アーデルハイトも敵を蹴散らすが、幅が狭いため一度に戦えるのは実質5人ほどであり、薔薇隊の数的有利を生かせないでいた。(このままではまずい、味方が減らされていく)味方が次々と倒れているのを見てアーデルハイトはなんとか早く突破する方法を考えるが、状況は一向によくならない。

 この時の兵数は薔薇隊2万に対してハノ守備隊は5千ほどであった。野戦で戦ったなら包囲したり騎兵での突撃によって簡単に勝てる兵力差だが、ラコールの攻城戦ではそう簡単にはいかなかった。


   「歩兵密集陣形、盾!」とアーデルハイトが号令すると、歩兵は盾で密集陣形を作り、矢を防いだ。そのうちの兵士が

「隊長!何をする気ですか?」と叫ぶとアーデルハイトが

「僕のかわいい隊員達をこれ以上死なせるわけにはいかないからね。」と言い、敵に一人で突っ込んでいった。密集陣形を見た敵兵がハンドボールぐらいの石を投げ始めた。いくら密集陣形といえども高所から落とされる石に耐えるのは厳しかった。それを見たアーデルハイトは

「我が名はアーデルハイト!薔薇隊の指揮官である。手柄の欲しいものは僕に挑め!」と叫んだ。すると敵の弓兵も歩兵もアーデルハイトを攻撃し始めた。アーデルハイトは矢を避けながら敵を次々と倒していったが、いくらアーデルハイトでも敵の攻撃が集中すれば死ぬ可能性も出てくる。それを見かねて歩兵が陣形を解いて攻撃に加わろうとするが

「命令違反は除隊だ!」とアーデルハイトが叫ぶと隊員たちは従うしかなかった。

 通路で戦い始めて30分が経った頃、さすがにアーデルハイトにも疲労が見えてきて、かすり傷も増えてきた。それを見かねて隊員の歩兵たちが遂に攻撃を再開した。アーデルハイトが

「やめろ!除隊だぞ!」と止めるが隊員たちは止まらず敵に突撃していった。しかもそれだけでなく後方にいたはずのべルティーナ隊の一部も城に入ってきて、矢狭間を射抜いていった。

「なに言い恰好してんの?馬鹿じゃないの?」とべルティーナが起こりながらアーデルハイトのもとに向かってきた。アーデルハイトは

「危ないだろ!下がってるんだ!」と言うとべルティーナは

「うるさい!」と言いながら次々と矢を放っていく。


―――30分後

   薔薇隊の敢闘により、敵兵も徐々に数が減っていきついに敵歩兵を突破したとき、城に白旗が上がった。

 アーデルハイトは捕虜を収容し、敵城の本丸前の広場に兵士を集めた。

「みんなの奮闘により、僕たち薔薇隊はハノを手中に収めることができた。だがかなりの苦戦を強いられたため、多くの死傷者が出た。生き残ったみんなは交代で見張りにつきながら、とりあえずゆっくりと休んでくれ。それと戦闘中の命令無視についてだが、今回はなかったことにしよう。でもまた命令無視をした場合は例外なく除隊してもらうからね。みんな今回はありがとう。解散。」と言い本丸に入っていった。

 アーデルハイトが城の天守まで登り、外を見ると綺麗な満月がはっきりと見えていた。

「これはいいものだ。」と少し月を眺めてから、天守の真ん中で胡坐をかいて無心状態になった。そして約30分後下に降りて行き救護班の手が空いたのを見て傷を診てもらった。

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