第38話 ラコール上陸開始

   会議が終わってから3日後、アーデルハイトとべルティーナはトラオムを訪ねた。扉をノックすると

「入っていいよー。」と返事がありアーデルハイトが扉を開けると、部屋は本や書類の山で散らかっていた。

「上陸作戦のそうだんかな?」とトラオムが聞くとアーデルハイトが

「そうだね。」と返した。トラオムが

「まあ座りなよ。なんか飲み物用意するよ。」と書類の山をかき分けて椅子を出した。

「やだ!こんなところにいたら気がおかしくなるわ。」とべルティーナが怒鳴るとトラオムは

「えー。でも他の部屋に行くの面倒じゃん。」と嫌そうな顔をしたがべルティーナは

「ほら会議室行くわよ。アーデルハイトも素直に座ってんじゃないの。」と言い二人の腕をつかんで部屋を出た。そして会議室に入り、使用人に茶を用意させた。

「あんたいつもよりクマすごいわよ。そんなんで頭回るのかしら。」とべルティーナが不機嫌そうに言うと

「大丈夫だよ。作戦のこと考えてたら寝れなくてねー。」と答えるとアーデルハイトが

「もしかして前の会議から寝てないの?」と聞くとトラオムは

「うん。まあ自分でもしっかり寝たほうが頭の回転が良くなるのはわかってるんだけどね。」と返し、

「じゃ、話始めようか。二人が悩んでるのは航路のこと?」と聞くとアーデルハイトが

「なんでわかったんだい?まだ僕たちはなにも話してないよ。」と驚いた。トラオムは

「今回の作戦なら航路で悩むかな~って思って少し僕の方でも考えといたよ。」と言いながら地図を広げた。

「ラコール軍には強力な海軍があって、多分ラコール近海の監視は厳重だと思う。ちなみに上陸後の動きはどう考えてるの?」と聞くとアーデルハイトが

「今のところは、ラコール南東の海岸に上陸してからカロなどの都市を通過してハノを一気に落とそうと思ってる。」と答えるとトラオムが

「やっぱそうかー、かなり危険な作戦だね。でも他に方法も考えたけど全部危ないことには変わりないから君たちがいいならそれでいいと思うよ。」と言うとアーデルハイトはその作戦に決めた。

「じゃあその動きで行くとしたら航路は、かなり遠回りで過酷な道のりになるけどキロイから出て東から回り込んでいくのが一番発見されにくいと思う。上陸は夜を狙ってね。」とトラオムは地図を指さしながら説明した。

 キロイという都市はクリスタのある大陸の南東にある大陸最南端の港湾都市である。もしもこの都市からアーデルハイトが上陸地点としているところに行くとしたら、最低でも1カ月はかかる。しかも2万人の兵士を運ぶとしたら大規模な船団になるため1カ月半ほどかかる。

 トラオムの案を聞いてアーデルハイトが

「僕はそれで行こうと思うけど、べルティーナはそれでいいかい?」と聞くとべルティーナは

「あんたが隊長なんだからそれに従うわよ。」と答えた。アーデルハイトはべルティーナにニコっと笑顔を見せると

「薔薇隊はトラオムさんの案を採用することにするよ。」と決定した。

「かなり厳しい作戦になるけど頑張ってね。こっちからもできる限り支援はするから。」とトラオムが言うとアーデルハイトとべルティーナが礼をして帰っていった。


   そして薔薇隊を乗せる船団の準備ができた1か月後、ついに薔薇隊がキロイから出撃し、ラコール上陸作戦が発動された。

 船団は前の黒狼隊による上陸作戦で、ほとんどが燃やされてしまったため圧倒的に不足していたが、サボジオにあった船と大陸すべての港湾都市で船を造り何とか2万人を乗せられる規模まで回復させていた。出撃する船の数はかなりぎりぎりだったため、クリスタには軍で使える船が一隻も無くなった。


   薔薇隊が出撃して1か月半後、100隻の大船団だったが運よく上陸地点の海岸に霧が出ており、夜闇と霧に紛れて無血上陸することに成功した。船から馬や物資などの兵站を降ろし、船乗りに船をクリスタに返すように指示を出すと、すぐにハノに向けて南下した。薔薇隊はできるだけ全速力の強行軍で夜明けには、ハノを視界に捉えた。この時、ラコール軍は薔薇隊の上陸にまだ気づいておらず、ハノの城門も空いていて門番が立っているだけだった。

 だが薔薇隊がいる森から城まで距離があるため、門が空いている隙に攻め込むのは不可能だった。そのためアーデルハイトは包囲戦に持ち込んだ。薔薇隊が森から出ると案の定敵は門を閉ざして籠城した。薔薇隊の包囲が完了すると、一人使者を送って敵側に降伏するように促した。もちろん敵はそう簡単には降伏しなかった。アーデルハイトとしては敵の増援が来る前に落としたかったが、ラコールの城の構造はクリスタと大きく違っていたため、攻め方に困っていた。


   ラコールにある城は、戦国時代の日本の城のような見た目で、クリスタと違って城壁の周りに堀があり、そこに水が溜まっていて攻められるのは門のある場所だけとなっていた。クリスタやその大陸の都市なら全方位からはしごなどを使って登っていくことができたが、こちらではそのような攻め方ができない。アーデルハイトも事前にアドルフからそのことを聞いていたが、対策ができないまま今に至る。


   城を包囲する前、アーデルハイトは薔薇隊に随伴していた工兵を森に待機させ破城槌を作らせていた。クリスタの工兵は優秀だったため、翌日には完成するはずと、敵を包囲して待機した。

 翌日、薔薇隊の隊員数人が森に向かい破城槌を押してきた。それと丸太も10数本も持ってきた。そしてアーデルハイトが

「全体前進!」と号令をかけると、破城槌、丸太、歩兵、弓兵の順で城門に向かって前進した。アーデルハイトは歩兵の先頭、べルティーナが弓兵の先頭で指揮を執っていた。そして城門につながる橋の前まで来ると丸太を持った兵士から後ろが停止し

「放て!」というべルティーナの号令で弓隊が矢を放った。そのなかを破城槌が進んでいき門の前までたどり着き、城門を攻撃し始めた。すると門の天井の部分が開いてそこから油が流されてきた。

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