第36話 国境開放交渉
初めに男が話し出した。
「名乗るのが遅れてすまない。私の名はトリスタンと言う。」それを聞いてゲミュートも
「わしの名はゲミュートと申す。」と答えた。
「今回は何用で来られたのかな?」とトリスタンが聞くと
「クリスタとサボジオの国境を開放してもらいに来た。」とゲミュートが答えた。するとトリスタンが
「先の戦争と国王の暗殺だけでは飽き足らず、まだ我が国から土地を奪うと申すか!」と怒鳴り返した。民衆もトリスタンにつられて罵声を浴びかける。するとゲミュートが
「先の戦争では、クリスタ、サボジオ両国に多くの死者が出た。特にサボジオ側の被害が多かったと思う。だが、カイザーの暗殺にクリスタは一切かかわっていないことを誓う。」と答えた。
「嘘をつくな!実際に王宮からクリスタの兵士が出てきたのを発見した人間がいるんだ。」とトリスタンは怒鳴り返す。するとゲミュートが
「さっきから気になっていたんじゃが、そなたは何故サボジオの代表を務めている?前の役職を聞いても?」と聞くとトリスタンは
「私は国王陛下の側近であった。いつでも陛下のお側で護衛もかねて寄り添っていた。」と答えた。続けてゲミュートが
「サボジオの王宮に努めとる人間は全員殺されたと聞いたが?」と聞くとトリスタンが
「あの時陛下は何となく事態を察しておられ、私を別の都市へ視察におくっておられたのだ。」と答えた。ゲミュートが
「そうか。だがおかしいのう。カイザーと講和会議をしたとき、側にいたのはそなたではなかったと思うが。」と言うとトリスタンは
「あの時は陛下が私の素性がばれないように変装させてくれていたのだ。」と答えた。するとゲミュートが
「今のは嘘じゃ。カイザーと講和会議をしたとき、王宮に入ってきたのはカイザー一人だけじゃ。」と答えた。するとトリスタンは
「き、貴様こそ偽物だろ!そのような汚い手を何度も使いおって!」と怒鳴り返した。
「まあ落ち着かれよ。国民の代表者が民衆がみてる前で取り乱すでない。」とゲミュートは落ち着いて言った。だがトリスタンは
「黙れ!そもそも貴様が国王陛下の何を知っている!私のほうが貴様より国王陛下をより理解している!」と怒鳴るとゲミュートが懐から紙を出して
「サボジオ国民よ、今わしが持っているのはカイザーとの講和会議で結んだ条約文である。この中に文字の読める者はおるか?」と聞いた。すると話を聞いていた男が手を挙げた。ゲミュートは彼を呼び、読み上げるように頼んだ。その条約の内容は、サボジオ国民に危害を加えたものは極刑に処す、クリスタ軍はサボジオが軍の編成を禁止されている半年の間主力部隊をもって防衛に協力するなど、ゲミュートとカイザーが講和会議で話した内容が書かれていた。それを聞いているうちに民衆もトリスタンの言っていることに疑念を抱き始めた。そして条約を読み終わるとゲミュートが話し出した。
「サボジオ国王カイザーは、誠に国民を大切に思っている人間であった。わしが言いたいことがあるかと聞くと、カイザーは国民に手を出すなと真っ先に言った。そしてサボジオが占領した国でもカイザーの評判がいいのを見ても、いい国王であったのはわしでもわかった。」途中からゲミュートの声が震えだした。
「わしはカイザーとの仲を深め、この大陸を繁栄させようと夢見ていた。だがそれも今は叶わぬ。わしは...カイザーとなら...この大陸で飢えることもなく戦争も...起きない世界を作れると思っておった。カイザーは...真の国王であった。」
ゲミュートが話し終えると民衆も涙を流していた。そして民衆の一人が
「クリスタと協力するべきじゃないか?」と言うとその言葉は一気に広がり、それは民衆の意見となった。
「この男に騙されるな!こいつの言葉は全部デタラメだ!」とトリスタンが大声で言うが、民衆には響いていないのが分かった。するとトリスタンが腰の剣に手をかけるとブリッツがその手を切り落とした。
「国王陛下の御前であるぞ。」と言い剣をトリスタンの首に当てた。
「やめよ、民衆の前じゃ。じゃがありがとうブリッツよ。」とゲミュートがブリッツに剣をしまうよう促した。だが次の瞬間トリスタンは首に当てられた剣で自ら首を切った。ブリッツがすぐに
「救護班!」と叫び、近衛隊の救護班が駆け付けたが、すでにトリスタンは死んでいた。
その後近衛隊でその場を片付けると、ゲミュートがザボギアの国民を集めて話をした。
「此度の国境開放についてみなの協力に深く感謝する。これからサボジオの新しい王となるものを国民で決めてくれ。また軍が編成できるまではクリスタが全力で守ると誓う。」と民衆に向けて言った。
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