第34話 黒狼隊の反撃

   ヴァイスハイトの焦った様子を見て、ハルトリーゲルが

「反対側にも陣を張ったっつうことは、敵が挟撃してくるかもってことだろ?それならどうにかなるだろ。」と言いリッターも

「別に慢心しているわけではないが、私は黒狼隊の実力なら勝てる見込みは十分にあると思う。」とハルトリーゲルと意見が同じだった。それを聞いてもヴァイスハイトの焦った様子が変わらないのを見てアドルフが

「それだけじゃないんだな?」と聞いた。

「ああ。私も挟撃なら勝てる自信はある。だが、まだ確定したわけではないが敵の狙いは兵糧攻めの可能性がある。」とヴァイスハイトが答えた。それを聞いた隊長たち全員の顔色が悪くなった。するとファルケがテントを訪ねてきて

「陸のほうからも敵軍1万ぐらい来たぜ。」と報告した。それを聞いてヴァイスハイトは

「このことはまだ隊員たちには言わないでおこう。とりあえずそれぞれ配置についてくれ。」と指示を出し、隊長たちもそれぞれ自分の隊に戻っていった。

 敵は海と陸両方にいるが、どちらも弓の射程外である。陸の方には騎兵も見えていた。だがどちらも一向に攻めてくる気配がない。この様子を見た隊長たちはヴァイスハイトの言っていたことが頭によぎり冷や汗を流していた。


   敵の狙いは予想通り兵糧攻めであった。海からは船で、陸からは騎兵で黒狼隊に圧力をかけ続け、食料が尽きて弱体化したところを海側と陸側から挟撃し、一気に撃滅するのが狙いだった。ヴァイスハイトはこの狙いを見抜いていたが、ラコール軍からすれば、ばれようがばれまいが関係なかった。もしも食料がなくなる前に戦おうとしても、ラコール軍は騎兵を中心に編成されており移動用の荷車も準備しているためすぐに撤退ができる。対して黒狼隊は敵を追撃したとしてもどの都市にも入れないため、ただ無駄に体力を消耗するだけである。黒狼隊にとってこの状況はいまだかつてない危機的な状況であった。いくら精鋭ぞろいの部隊と言えども人間である。食料がなくては次第に弱っていき、最後には死が待っている。


   まずアドルフは隊長達を集め、作戦会議を開いた。ヴァイスハイトは、敵が姿を見せてから、様子を伺っていた1時間ほどの間、作戦を考えていた。その作戦を隊長たちに伝えると全員賛成し、アドルフによって作戦が決定された。そして会議を終えると、戦闘指揮所にアドルフが上がった。

「全員そのままの配置で聞いてくれ!今黒狼隊は、見ての通り敵軍によって海と陸から挟まれている。これは敵軍による兵糧攻めだと見ている。正直に言おう!俺たちは危機的状況に置かれている。だんだん苦しい状況になっていくだろう。戦う前に死ぬ者も出ることを覚悟している。だが!必ず勝機はある!そして俺たちはかならずその勝機を掴んでみせる!そのために全員俺を信じて耐え抜いてくれ。そしたら俺たちは必ず勝てると俺が保証する。黒狼隊の実力を敵に見せつけるぞ!俺は黒狼隊を信じてる。」とアドルフが言い終えると黒狼隊から歓声が上がり、その熱量は凄まじいものだった。

 もともと黒狼隊の士気が高いこともあって、士気が下がることをふさげたが、食料問題はまだ解決していない。現時点で黒狼隊の食糧は1週間分である。水は海から確保できるが、敵の船が常にいるために漁をすることができない。おそらく黒狼隊がぎりぎり戦えるのは、食料がなくなってから1週間程度だろう。


―――翌日

   敵軍はやはり価値らを監視したまま動きを見せない。黒狼隊は自分たちから仕掛けることができないためじっと耐え続けるしかなかった。だがアドルフが指揮所に上がって、隊員たちを交代で訓練させた。この状況で訓練をするとなると兵士から苦情が飛んできそうなものだが、アドルフは敵にばれないように隊員全員に作戦を伝えていたため、隊員も素直に従ってくれた。

 敵軍はこの動きを見て、気でも狂ったのかとあまり気にはしなかった。

 黒狼隊の訓練はその翌日も翌々日も続き毎日繰り返した。そして1週間が過ぎた。こっから黒狼隊は食事をとることができなくなる。それでも訓練は毎日続けた。

 食料がなくなってから訓練を続けて4日が経った頃、さすがに隊員たちも疲労が見えてきた。アドルフにもすこし焦りが見えていた。だが幸いまだ敵に目立った動きがみられない。そして空が少しずつ暗くなってきたころ、陸のほうから喊声が聞こえてきた。アドルフとヴァイスハイトが指揮所に上がってみ声のほうを見ると土煙が見えた。それを見たアドルフが

「来てくれたか!」と喜んだ。


   そしてすぐにヴァイスハイトが

「陸側歩兵、槍衾!」と指示を出すと黒狼隊は素早く陣形を変更した。すると敵の騎兵が一斉に突撃してきた。だが敵の騎兵の突撃は纏まったものではなく、まばらに突撃してきた。そして黒狼隊と騎兵がドーンと勢いよくぶつかる。

 槍衾は盾と槍を持った歩兵を横に並べて守りを固めるもので、騎兵突撃に対して極めて有効な陣形である。黒狼隊によって馬がこけたり騎手が槍で貫かれたりして、前線が止まり完全に勢いがなくなった。するとリッターが

「突撃!」と叫びながら騎兵に突っ込んでいった。騎兵は歩兵に対して強力な攻撃が行えるが、それは突撃したときの話である。勢いがなくなった騎兵は動きが鈍くなり、歩兵との優劣が逆転する。リッター隊が前の騎兵を次々に切っていくと、それに呼応してファルケが

「放て!」と号令をかけるとファルケ隊の放った矢が後方の騎兵に降り注いだ。

 この状況で黒狼隊の勝利はほとんど確実なものになった。だがさらに敵騎兵の後ろから、白い鎧の騎兵が突撃してきた。クリスタ軍の旗が見えた、白金隊である。今度はしっかりと纏まった強力な突撃である。敵騎兵は前は黒狼隊に、後ろからは白金隊の突撃される形となった。これにより一瞬にして敵軍は総崩れ、敗退した。それに合わせて敵の艦隊も撤退していった。

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