第31話 両軍、動き出す
それぞれの隊が都市に到着し、黒狼隊も少し準備に手間取ったが準備が整い船を出した。船は衝角がついている戦闘用ではなく輸送用だったが、2万人を運ぶとなるとその数は100隻にもなった。これはクリスタの輸送船の7割程度の数である。その大船団でパーラまで移動するのはラコール軍が哨戒をしていた場合、高確率で見るかる行動だった。だが黒狼隊はそのような危険な任務でも従った。
実際に航海していると幸運にも全くラコール軍に見つかることはなく、パーラ付近の海岸に辿り着けた。そして船から荷物を降ろしているとファルケが
「敵襲!」と叫び陸のほうを見てみると大勢の騎兵が走ってきていた。アドルフが
「各自で身を守れ!」と命令しヴァイスハイトのもとへ行って剣を抜き、兵士たちもすぐに何人かで固まった。ファルケはその兵士の縦の後ろから騎兵を射抜いていくが、その後ろから大量の矢が飛んできた。兵士たちは盾を頭上に構えたが、その矢はさらに後ろに飛んでいきそれを見たヴァイスハイトが
「しまった!やつらの狙いは船だ。」と気付くと矢には火が付いており次々と船に刺さり燃えていった。すると敵は引いていった。黒狼隊はまだ船から物資を降ろせていなかったが、船がすべて燃やされてしまった。この状況にはさすがのヴァイスハイトもかなり焦ったようで、とりあえず野戦陣地を構築し隊長たちと相談を始めた。初めにアドルフが
「こちら側の被害は船とそこに積んどいた荷物と馬もほとんどやられた。ファルケが倒した奴の中に生存者がいないか調べたが、自害したやつもいて全滅だった。」と状況を整理した。そしてヴァイスハイトが
「正直船がやられたのはかなりまずい。できるだけ早く敵を倒して脅威を無くしたいところだが、まだ我々はサボジオでの行動が制限されている。」と少し焦った表情をしていた。アドルフは
「とりあえず陣地の中で見張りと休憩に分けて各自休もう。」といいそれぞれテントに戻ていった。船での長旅のせいか緊張状態の中でも兵士たちはしっかりと休むことができた。翌日、隊長たちが話し合った結果とりあえず敵軍の斥候に注意しつつこちらも斥候を出し、陣地で待機することにした。アドルフはクリスタからの補給物資も期待できない状況で、兵士を危険にさらすことはできないと考え斥候にはアドルフとナハト、陣地の監視をファルケとファルケ隊のなかでも優秀な20人を交代で担当した。陣地内ではヴァイスハイト達の残りの隊長たちで今後どうするかを話し合っていた。ヴァイスハイトが
「とりあえずこのあたりの地形がどうなっているのかわかるまではここで待機しようと思う。」と話すとハルトリーゲルが
「でもよ、敵の狙いは多分補給が尽きてふらふらんなったあたしらを叩くつもりだろ?ならまだ元気があるうちにこっちから仕掛けたほうがよくねえか?」と聞くとヴァイスハイトは
「私もそうしたいが、敵の場所がわからず何がサボジオとの関係を悪化させるかわからないこの状況の今は、少し様子を見る必要がある。」と言うとハルトリーゲルは少し不機嫌になった。それを見てヴァイスハイトは
「だが、私も状況把握ができればこちらから仕掛けるつもりだ。」と言った。するとハルトリーゲルが
「そういえばノア、お前の持ってる槍アドルフのやつだろ?あいつもってかなかったのか?」と聞くとノアが
「僕の槍、船に置いたままで燃えちゃったんだよね。それを言ったらくれたよ。」と答えた。そしてヴァイスハイトがレッフェルンに
「負傷者は?」と聞くとレッフェルンは
「うれしいことにけが人はいなかったよ。」と答えた。確かに黒狼隊は敵の襲撃を受けたが、実際に騎兵に突撃されはしなかったし矢も船を狙ったもののため隊員には当たっていなかった。
翌日、アドルフとナハトが有力な情報をもって帰ってきた。その情報とは、襲撃してきた隊はパーラの南に位置する都市メトルにいるという情報と、先に取っておくと有利な地形を見つけたというものだった。そのことをヴァイスハイトに報告し、相談後陣地の場所を移動することにした。準備の最中、ファルケが見張りをしているときに森の中で何か動いているものが見え、そこに矢を射るとその何かが逃げていった。ファルケは弓を背負い、見張りを続けた。黒狼隊が準備を終えてアドルフを先頭に出発した。
先ほどファルケが矢を射ったのは、襲撃をかけたラコール軍の斥候だった。斥候は黒狼隊が出発準備をしている様子を見て、ファルケの矢が斥候の頬をかすめて飛んできたのもあり本隊に合流しに行った。半日後本隊に戻り、アドルフとナハトが陣地に戻った方向とどこかに向かった様子を報告した。このラコール軍の隊長はベルントと言う人物で、前にセレウスを包囲したプファイフェンのような若手ではなく34歳で、文武両道で優秀な人物でいわばベテランである。斥候からの報告を聞くとベルントは
「おそらくやつらの移動先はここだな。てことは...」
と独り言をこぼしながら兵士たちに出撃命令を出した。ベルントは報告から黒狼隊が目指しているであろう場所に目星をつけ奇襲をかけようと考えた。やはりこの男は頭が切れる人物で、すでに周辺の地形を把握しており、報告であったアドルフとナハトが戻ってきた方向と斥候がばれたという情報から黒狼隊の向かう場所に目星をつけたのだ。そしてそれは見事に的中していたことが後でわかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます