第27話 空回り
ラコール軍の兵士たちを収容し終え、ブリッツが服を着替えてから5人は王宮へ向かい、ゲミュートに戦いの報告をした。そして5人は本部へ戻った。すると部屋のドアが勢いよく開き、そこにはアドルフの姿があった。そしてアドルフが
「し、ブリッツさん!無事だったか!怪我はねえか!?」と聞くとブリッツは思いっきりアドルフの頭を殴り、
「お前待機命令はどうした!」と怒鳴る。そしてノア達6人も部屋に入ってきて
「ごめんなさい!うちの隊長が。なんだかいつもより冷静じゃないみたいで。」とノアが謝る。するとトラオムが
「ヴァイスハイトはどうしたの?」と聞くとアドルフが
「自分だけはチーシュに残るって言うから残してきた。」と答えるとトラオムは
「急いで装備を整えてチーシュに戻るんだ。」と慌てて言った。アドルフはそれを不思議に思いながらも言うとおりに急いでチーシュに戻る準備をした。そして準備を終えて城門に整列するとブリッツが寄ってきてアドルフに小声で何かつぶやいた。そしてアドルフはセレウスを出てチーシュへと向かった。
ブリッツがそれを見送り本部に戻るとトラオムが
「割と頭もいいアドルフがなんであんなに感情的に動いたんだろね。」というとブリッツは
「これは陛下にしか言ってなかったが、実はアドルフはわしの弟子でな。わしの弟子と初めから言っていたら、出世したときにわしのおかげだと言われる可能性があったから黙ってたんだ。」と答えた。これには4人ともとても驚いた。そしてブリッツは
「それはそうと、なんでアドルフたちを急いで戻らせたんだ?」と聞くとトラオムは
「僕の予想が当たってるとかなりまずいことになるからね。」と答えた。
黒狼隊がセレウスを出て3日後、前から黒狼隊に向かって伝令兵が走って来て
「伝令!サボジオ軍と思われる約3万にチーシュが包囲されました!」と告げた。これを聞いてアドルフは
「サボジオだと、なぜだ!?」と驚き、急いでチーシュへと向かった。
黒狼隊に伝令が行った頃、チーシュ包囲の知らせはいち早くレイドに届いた。その時深緑、白金、蒼龍、薔薇隊の4隊はレイドに兵が収まり切れないため都市の周りで野営もしていたが、フェルネの指示で他の都市への準備をほとんど完成させていた。そして知らせを聞いてフェルネは
「4隊全部でチーシュに向かってください。でも向こうさんと戦うのはできるだけやめてほしいです。多分この大軍勢で行っただけで向こうさんは戦意失うと思います。」と指示を出した。4隊は準備がほとんどできていたのでフェルネを残してすぐにチーシュへと向かった。
ヴァイスハイトはチーシュを包囲された時、自ら城壁に向かうと自分たちを包囲していた兵がサボジオ軍の装備だと気づいた。そして狼煙を上げて外で待機していた伝令を走らせ、すぐ城壁に黒狼隊の旗を掲げさせた。
ヴァイスハイトは相手がサボジオ軍だとしたら、第二次大陸戦争で黒狼隊の活躍を知っているはずなので、黒狼隊がいると知れば大胆な攻撃をしてくることはないと考えた。それに現在のサボジオ軍には、前までの隊長たちのような存在はいないことを知っていたのでこの行動をした。この行動はヴァイスハイト思惑通り1日目は攻撃してくることはなかった。その翌日もサボジオ軍は攻撃してこなかった。サボジオ軍は兵糧攻めを狙っていたのだ。だが3日目になり、日が昇り始めて明るくなってくると、そこにはレイドから駆け付けた4隊が3方向から陣を張っていた。サボジオ軍はこれを見てすぐさま陣が張られていない方向へと撤退していった。サボジオ軍が撤退した後、ヴァイスハイトは駆け付けた4隊の隊長たちにお礼を言って、チーシュに迎え入れた。そして翌日、黒狼隊もチーシュに到着した。
アドルフはチーシュに着くとすぐにヴァイスハイトのもとへ行き、
「すまん!お前の意見を無視してこんなことになっちまった。これからはちゃんとお前を信じて意見を聞くよ。」と言うとヴァイスハイトは
「大丈夫だ。それより、これは私の予想だが、もしかしてブリッツさんはアドルフの師匠ではないか?」と聞いた。この質問にアドルフはとても驚いてから
「ここに来る途中一応隊員たちには話したが、ノア達も呼んでしっかりと話そうか。」と夜に黒狼隊の隊長たちに集まるように話した。
そして夜、黒狼隊の隊長たちがアドルフのもとへ集まりアドルフが
「さっきも言ったが、ブリッツさんは俺の師匠なんだ。」と話し始める。
第一次大陸戦争が終わったのは、アドルフは8歳の時だった。この戦争は一応クリスタの勝利だったが、戦争孤児と言われる、戦争で親を亡くした子供が多くいた。アドルフもその中の一人だった。
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