第26話 隊長の意志

   セレウスでの戦闘が始まって約1時間後、ブリッツはまだ橋の上で戦っていた。ブリッツの勢いがまだ収まらず、ラコール軍はもう1万ほどの被害が出ていた。プファイフェンは一旦兵を下がらせ、ブリッツもどうどうと城門から下がった。その日の夜、オルドヌングたちがブリッツのもとを訪れるとブリッツは

「明日敵は他の攻め方をするかもしれん。トラオムを連れてくるからみんなで策を練ってくれ。」と話しトラオムのもとへ向かった。オルドヌングたちが城門の上に行くと橋の上を見て震えあがった。橋の上には大量の死体が転がっていた。オルドヌングたちは才能はあるが、まだ経験が浅く人の死を見たのは初めてでありクライネは我慢できずその場で吐いてしまった。3人は初めて見る大量の死体にも驚いたが、その後に近衛師団の隊員に戦いの様子を聞くと信じがたい話だったが実際に橋の手前の方の兵士には剣で切られた跡が多かったため信じるしかなかった。その後ブリッツに呼ばれて3人は指揮所に上がり、トラオムを入れて明日からの作戦について話し合いを始めた。トラオムは先に城壁を一周して敵陣の様子を見てきていてオルドヌングたちに

「明日からは敵も単純な攻め方じゃなくなると思う。君たち3人には正直言ってきついと思うから僕が作戦考えとくよ。」といいまた自分の部屋に戻っていった。オルドヌングがブリッツに

「私たちは何の指示もありませんでしたが、どうすればいいのでしょう?」と聞くとブリッツは

「なにも言われなかったから何もせんでいいんだろう。みな明日に向けてしっかり休め。」といい指揮所を降りて行った。


―――ラコール軍陣営

   翌朝、プファイフェンが橋の前に騎兵を並ばせて待機していると、突然セレウスの城門が開いた。プファイフェンは動揺し、突撃すべきなのか敵の罠なのか迷っていると、城門の奥に黒い液体が見えた。それを見て

「包囲してるやつらを城壁に上らせろ!こんな簡単な罠にはまるかよ。」と指示を出した。プファイフェンは味方の報告で城門以外の城壁に敵兵が見当たらないということを聞いていた。そしてプファイフェンは騎兵に下馬させて半数ずつ城壁に向かわせ、自分自身も城壁へと向かった。すると城壁へ移動しているとき地鳴りが聞こえてきた。地鳴りのほうを見るとブリッツを先頭に敵軍が城壁のほうへ突撃していった。これにより城壁のそばで待機していた兵士が蹴散らされた。するとプファイフェンは「騎兵、乗馬してついて来い!」といい乗馬した騎兵を連れて城門をくぐって黒い液体に火をつけようとしたがうまくつかなかった。するとクリスタ軍の盾を持った兵士がプファイフェンたちが町に入っていけないように壁になり、その後ろから

「残念、ただの黒い水でしたー。」と目にクマのある男が言った。すると後ろからブリッツたちが突撃してきて、プファイフェン率いる騎兵は包囲され次々に数を減らされていった。プファイフェンは他の兵士がそろそろ城壁を登ってくるはずだと思い城壁の上を見ると、そこは激しく燃え上がっていた。するとまたクマの男が

「あっちは本物ー。降伏したほうがいいんじゃない?君、隊長さんでしょ?」と言うと城門が閉まった。そしてブリッツが

「さてどうする?降伏するか?」と聞くとプファイフェンは

「降伏なんてしてたまるか。お前ブリッツだろ?おれは一騎討を望む。」と言った。それにブリッツは

「よかろう。外でお互いの部下の前でやろう。」といい城門を開けさせた。城門を開けるとラコール軍が突撃してきたが、プファイフェンが

「止まれ!今から一騎討だ、だれも手ぇ出すな!」というとラコール軍はピタッと止まり下がっていった。橋の上でプファイフェンとブリッツが武器を構え、それをお互いの兵士が見守っている。するとプファイフェンがブリッツに紙を投げ

「もし俺が負けたらそれを見てくれ。」というとブリッツはそれを了承した。そしてプファイフェンが

「まさかあの稲妻隊のブリッツと一騎討ができるとはな、光栄なことだ。じゃあいくぜ?」といい薙刀で突いてきた。ブリッツがそれを避けて懐に入ろうとするとプファイフェンが薙刀を振りながら距離を取った。そして凄まじい連撃を繰り出した。一振りしては持ち替えて一振りし、ブリッツの間合いに近づけなくした。するとブリッツは剣を正面に構え少し目をつむった。プファイフェンは薙刀を振り続けており、それはとても早く実質死角がなかった。だがブリッツが目を開けて前に出た瞬間、もうプファイフェンの懐に入っていた。プファイフェンは首を切られないように上体を反らしたが、それも間に合わすブリッツはプファイフェンの首を切り落とした。そしてブリッツは剣を納めてプファイフェンから渡されていた紙を広げ内容を読んだ。ラコール軍は泣き崩れている者が多かったが、兵士の一人が

「プファイフェン様の仇を取るぞー!」と叫ぶと全員ブリッツのほうへ走り出した。するとブリッツが

「止まれ!」と叫ぶとラコール軍はピタッと立ち止まり、ブリッツが

「今お前たちの隊長から受け取った紙を読んだ。これによると隊長が死んでもお前たちには捕虜にして、殺しも拷問もするなと書いてある。隊長の願いを無駄にするな。」というと、兵士の一人が武器を捨てて歩み寄ってきてブリッツから紙を読ませてもらって、それが本当だということを確認した。そしてラコール軍は、全員武装解除してセレウスの収容所に入っていった。その捕虜は約2万にも及んだ。そしてその後、ブリッツはラコール軍の兵士の一人を連れて港に向かい水軍にラコール軍の敗北を告げさせた。それとともに自分隊は捕虜になることも伝えると、水軍の隊長は自分たちは捕虜にはならないと告げ、船に乗り込んでいった。そして船がセレウスを離れていくと、船の方からその兵士目掛けて10数本の矢が飛んできた。だがブリッツがそれをすべて切り落とした。すると兵士が

「なぜ敵の俺を守ったんだ?」と聞くとブリッツは

「捕虜を殺したら陛下に怒られるんでな。」といい街に戻った。

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