第25話 稲妻

   本部から知らせを受けアドルフが黒狼隊の出撃の準備を急がせると、隊長たちがアドルフのもとに来て

「まさかもうラコール軍が見つかったの?」とノアが聞くとアドルフは落ち着かずに

「セレウスがラコール軍に包囲された。」と言った。それを聞いて全員が驚きの表情を浮かべた。するとヴァイスハイトが

「本部から出撃命令が来たのか?」と聞くとアドルフは

「いや、黒狼隊への指示はまだだ。」と答える。ヴァイスハイトは

「本部の指示を待たずに出るのは命令違反だ。」といいアドルフの出撃に反対した。するとアドルフは

「包囲されてて伝令が出せねえかもしれねえ。明らかにセレウスを手薄にして一気に占拠するのがラコール軍の狙いだろ。早く援軍としていかねえと手遅れになる。」と言った。するとヴァイスハイトは

「私はここに残るぞ。」と言った。だがアドルフは

「それでも俺は行くぞ。」といい部屋を出て行った。結局ヴァイスハイトだけがチーシュに残り、他の隊長たちはアドルフについていくことにした。


―――3日前

   セレウスで参謀本部で作戦を話し合っていると伝令が来て

「伝令。ラコール軍と思われる軍、約3万がセレウスを海上封鎖し、陸からも兵が上陸しセレウスを包囲しました。」と報告した。それを聞いてオルドヌングが

「俺はトラオムさんを連れてくる。クライネとツァイトは先に指揮所に行っておいてくれ。」と指示しトラオムの部屋に向かった。そしてトラオムの部屋を訪ねると

「大丈夫大丈夫、これ陛下に渡してきてー。」と言ってトラオムは部屋の扉を閉めてまた引き籠った。オルドヌングはトラオムの適当な態度を見てイライラしながら王宮に行き国王ゲミュートにトラオムから受け取った紙を渡した。そしてすぐにクライネとツァイトのいる指揮所に行った。するとクライネは

「どうだった?勝てるって言ってた?」と聞くとオルドヌングは

「大丈夫とだけ言って渡された紙を国王陛下に渡しただけだ。」と答えるとツァイトは笑いながら

「トラオムさんは適当だなー。」というとオルドヌングは

「お前もな。」と言った。そして

「ここを守るには壁を指揮する人が一人足りない。そこをどうするかが問題だ。」と言った。すると

「城門のほうは近衛師団が受けよう。」と近衛師団長のブリッツが言ってきた。オルドヌングは

「近衛師団は国王陛下を守る戦力でしょう。ここで出すのは危険だと思います。」を意見を言うとブリッツは

「大丈夫だ、わしらはこういう時のためにいるんだからな。それと陛下から出撃許可も出ている。」と答えた。オルドヌングは渋々受け入れ城門の守備を任せた。


   セレウスは正方形の城壁に囲まれた都市である。その城壁の外側には水が張ってあって、城門へとつながる橋だけが都市に入る方法である。このように攻撃側からしてみるとかなり攻めにくい形になっており、防衛能力はクリスタで一番である。そして今回は、一番敵が攻めてくる城門側をブリッツが担当することになった。他の城壁をオルドヌング、クライネ、ツァイトの3人で担当した。今回の戦争の最高司令であるフェルネは前線で指揮を執るとセレウスを留守にしていた。セレウスの守備隊が配置につき近衛師団も配置についたが、ラコール軍はすぐには攻めてこなかった。


   そして包囲開始から6日が経った頃、ようやくラコール軍の攻撃が始まった。ラコール軍は、クリスタに来て帰ったふりをしていた水軍1万2千人が海上封鎖、2万の兵士がセレウスを包囲していたが、この6日間で2万の兵が追加で上陸していた。対するクリスタ軍は、守備隊5000、近衛師団1万の計1万5千の兵力だった。オルドヌングはラコール軍の増援が来る前に打って出て撃破することも考えたが、海上封鎖している水軍を警戒してその判断はできなかった。


   ラコール軍の攻撃は単純なもので城門側に3万の兵士を集中的に配置し、破城槌を前進させてきた。近衛師団は全員が弓を装備して城壁の上で待機していた。そして破城槌が城門の直前まで来ると、ブリッツの合図で油の入った樽を破城槌に向けて投下し、樽が割れて破城槌が油まみれになったところに兵士が火矢を放った。破城槌は激しく燃え上がりラコール軍は後退した。そして破城槌が燃え尽き、煙が消えていくと城門の前にはブリッツ一人の姿があった。ラコール軍はすぐにブリッツに向けて全員突撃してきた。それをブリッツは剣で一人ずつ倒していった。橋の横幅は人間が8人ぐらい並べるぐらいで、どんなに大群であろうとも一度に攻撃できるのは前の8人だけである。それをブリッツが凄まじい速さで切っていき、城壁の兵士が後ろ側に矢の雨を降らせ、敵軍はみるみる数が減っていった。それを見た敵軍の隊長のプファイフェンが

「あのじじいの戦い、聞いたことがあるぞ。大陸戦争で数々の隊が壊滅させられ、その隊の兵士が稲妻が走ったように味方が倒れていったと言っていたらしいが、まさかあのブリッツか?」と言った。


   ブリッツは第一次大陸戦争の時に稲妻隊という隊を率いていた。この戦争では大陸の国々がお互いに戦争状態になっていたが、戦争の終盤に一度だけクリスタ以外の国が手を組んでクリスタを集中攻撃してきたことがあった。そのときに防衛線を守っていた隊の一つがキューンハイトの深緑隊であり、稲妻隊は遊撃部隊として敵軍を各個撃破する任務を担っていた。この戦争では各国の隊はほとんどが1隊1万の兵力で、合計で9隊がクリスタに侵攻していた。そして稲妻隊はそのうち4隊を敗走させ、残りの4隊も深緑隊と赤猪隊との戦闘で被害が出ていたため撤退していった。その稲妻隊の隊長をしていたのがブリッツである。プファイフェンが言っていたように、稲妻隊と戦った隊の兵士達は

「隊長が現れると稲妻が走ったように人が倒れていった。」と発言していたという。

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