第24話 情報操作

   ラコールの兵士たちがクリスタを離れて3日後、サボジオから使者がやってきて宮殿の国王ゲミュートの前で伝言を伝えた。それを聞いてゲミュートの顔色が変わったが、すぐにその顔は何かを決意した顔になった。その使者の伝言とはサボジオ国王であるカイザーが討たれたという内容だった。


―――3日前

   サボジオもクリスタと同じくラコールの兵士たちを見送る日だった。最後にカイザーが感謝とラコール国王への伝言を伝えるために宮殿に軍事顧問を呼んでいた。そして軍事顧問たちが宮殿に入って来ると、突如カイザーに切りかかった。これによりカイザーは死亡。すぐに衛兵が捕えようとするが、全員その場で殺され、宮殿内の兵士も全員一瞬にして殺された。そのあとラコールの兵士が宮殿の前に集まっており、軍事顧問たちが出てくると用意していた馬で首都ザボギアから逃れた。この行動は明らかにラコールの奇襲戦争の始まりを意味していた。


   そしてゲミュートはすぐに宮殿に参謀部の5人と各隊の隊長、副隊長を呼んで話し始める。

「先ほどサボジオからの使者の伝言によりラコールがサボジオに奇襲戦争を仕掛けたことが明らかになった。これを受けて我が国はラコールに宣戦布告をすることになった。貴君らにはすぐに作戦会議を開いて戦ってもらいたい。頼む。」というと全員すぐに作戦会議を作戦会議を開いた。


   初めにトラオムが状況を整理する。

「さっきブリッツさんから聞いた話をまとめると、ラコール軍がクリスタを出た日にサボジオ国王を殺害してすぐにザボギアをでた。そして想定されるのはクリスタを出た3万2千人の兵士がサボジオで合流してどこかの都市に立てこもってラコールからの援軍を待つことだね。んで多分今からサボジオに向かってもラコール軍の上陸には間に合わないね。」というとフェルネが

「トラオムさん、今回おらが指揮とってもええですか?」と聞いた。するとトラオムは

「あー、いいよ。ほかの人たちに経験も積んでもらいたいからね。一応報告はしてね、じゃあよろしくー。」といい自分の部屋に戻ていった。その場にいた全員が

(絶対、楽したいだけだ)と思っていた。そしてフェルネが

「ほんだらとりあえず黒狼隊はザボギアに入ってもろうて、蒼龍隊でカルレオからシーク、薔薇隊でシークからパーラを哨戒してください。んで深緑隊はカルレオの南のシトル、白金隊はパーラの南のメトルに入って各隊の援護を頼んます。」と指示を出した。この指示は、各隊がそれぞれ援護をしやすい配置であり、これはフェルネの用心深い性格からくるものだった。クリスタ国各隊はこの指示に従ってそれぞれ3日以内に首都セレウスを発った。


   黒狼隊がセレウスを出る準備をしているとき、鍛冶屋のクラングファルベがアドルフを訪ねてきた。このクラングファルベはセレウスの街中で15歳にして鍛冶屋を営んでいる職人である。アドルフが街中を散歩しているときに、立ち寄った鍛冶屋で彼の武器を見たときにアドルフは自分の武器を作ってくれと頼んでいた。

「おおクラングかー、ついに頼んでた武器ができたのか?」とアドルフは彼を部屋に入れた。そしてクラングファルベは

「ほらどうだい?かなり腕によりをかけて作ったうちで一番出来の良い槍だ。」というとアドルフがその槍を持って眺めると

「うん、かなり良い槍だ。報酬は2倍出すぜ。」というとクラングファルベは

「報酬2倍もいいけどよアドルフさん、あんたの刀とかいうの見せてくれよ。」と目をキラキラとさせて頼んだ。アドルフは

「そうだったな。」といってクラングファルベに刀を見せた。彼はそれを見てとても感動してから

「またいいの出来たら買ってくれよ。」といい刀を返してすぐに部屋を出て行った。


   そして翌日、他の隊に遅れながらも黒狼隊もセレウスを出た。そしてザボギアに到着し、衛兵も黒狼隊に気づいた様子だったが城門を開けなかった。アドルフは隊を停止させ一人で近づいて門を開けるように頼むと

「俺たちは騙されないぞ!立ち去れ!」と衛兵が怒鳴る。アドルフは

「俺たちはラコールからこの都市を守るために来た黒狼隊だ。開けてくれー。」と返すも衛兵はずっと怒鳴っていて、ついには弓をアドルフに向かって構えた。

「なんの真似だ?」とアドルフが聞くと衛兵は

「国王陛下を殺したのはお前らの仕業だろ!だまし討ちなんてしやがって!」と怒鳴りすぐに足し去らないと攻撃すると言ってきた。アドルフは話し合いが通じないと判断し、一度ザボギアに近いクリスタの都市であるチーシュに向かうことにした。


   チーシュに到着して翌日、本部から伝令が来て他の4隊もレイドに入ったと知らせがあった。するとアドルフは黒狼隊の隊長たちを呼んで

「何が起こってると思う?」と全員に問いかけるとヴァイスハイトは

「おそらくラコール側が何かしらの情報操作をしたと考えるのが妥当だろう。」と答えた。そしてヴァイスハイトは話を続けた。

「サボジオの国民たちがクリスタ軍を国に入れないようにして、ラコールは一気に港湾都市を占領してサボジオに戦力を投入するだろう。当然フェルネもこのことには気付いているだろうからすぐに港湾都市に行ける準備をしているはずだ。私たちは港湾都市をすり抜けてくる敵を見つけて撃破するべきだ。」アドルフはそれを聞いて

「よし、じゃあその意見をフェルネに伝えるか。」と言い伝令を出した。4日後、本部から伝令が到着し、フェルネも同じことを考えていたようでヴァイスハイトの意見が採用され、サボジオに軍を入れるために外交官が動いていると知らせが来た。あとはどれだけ早く外交が成功するかにかかっていた。


   だがその3日後、伝令からの報告を聞いてアドルフは血相を変えて黒狼隊の出撃準備を急がせた。

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