第22話 軍の増強

   クリスタ国王ゲミュートとサボジオ国王カイザーの講和会議が終わり、第二次大陸戦争での功績による論功行賞が行われた。この戦争では、すべての部隊で戦闘を行ったため参加した隊長、分隊長、参謀全員に勲章が贈られた。その中でも一番注目を集めたのはアドルフの新しい称号であった。論功行賞の場でゲミュートが

「先の戦争において、軍神と恐れられたアルメヒティヒを打ち取った功績を称え、アドルフには新しく作った[兵長]の称号を与える。」と言うと周りの重臣たちがざわめきだす。どうやらゲミュートはこのことをほかの誰にも言っていなかったようだ。そしてゲミュートが

「この兵長という称号は全兵士の中で最強の者を指す新しい称号である。」と述べた。その決定に異議を唱える者はいなかった。これで論功行賞は終わり、続いて参謀部による今後の軍の方針についての会議が開かれた。


   この会議によって深緑隊と黒狼隊の2隊を1万人隊から2万人隊に、白金隊も5千人隊から2万人隊に増やし、新しく主力部隊を4つ新しく編成することになった。そして続けてトラオムが

「前回の戦争では、こちら側が二倍以上の兵力があったのにもかかわらず初戦では苦戦を強いられた。それは兵士たちを予備戦力として温存しすぎたからなんだ。だからクリスタ軍は新しく4部隊の編成をしようと思ってる。そのためにブリッツさんが教官になって、志願兵と現役の兵士から隊長を決めることにしたからみんなはとりあえず新しく入ってくる1万人の訓練に励んでね。そんな感じでよろしくー。」そういい自分の部屋に戻っていった。そしてほかの人たちも会議室を出ていくときにエーデルシュタインが

「ちょっと面貸せや。」とキューンハイトを部屋に呼んだ。そしてエーデルシュタインが

「てめえいつまで落ち込んでるつもりだ?」と聞いた。キューンハイトは前の戦いで分隊長4人を失ってからずっと落ち込んだままだった。エーデルシュタインの問いかけに無視するキューンハイトにエーデルシュタインが胸ぐらをつかんで

「いい加減にしろ!自分の隊員が死ぬたびにこうなるつもりか?」と言うとキューンハイトも

「お前に何がわかる!おれは大好きだったやつらを4人もなくしたんだぞ!」と怒鳴り返す。エーデルシュタインは

「隊員のことを大切に思うのは大事だが、立場を考えろ!おまえは隊長だ。隊長がしっかりと隊の士気を取らねえともっと多くの隊員が死ぬことになるんだぞ!隊長は全隊員の命を預かってんだ。そのことをよく考えろ!」というとキューンハイトは

「ほんとに大好きだったんだよあいつらのことが。」と言い泣き崩れた。そしてエーデルシュタインは

「それで泣くのは最後にしろよ。あと隊に戻ったらちゃんとアンムートに謝れよ。お前がなんもしねえ間あいつが隊の管理してたからな。」といい自分の部屋を出て行った。


   しばらくするとキューンハイトも心の整理がついたのかエーデルシュタインの部屋から出てきてすぐにアンムートのところへ向かった。そしてアンムートを訪ねて

「すまなかった。隊長なのにこんなに引きずっちまって。」というとアンムートは椅子で書類を書きながら

「大丈夫です。それより隊長が立ち直ってくれてよかったです。僕たちは強い隊です。だから親しい仲間を失う経験をしてこなかったので、やはり最初は堪えるものです。」と言った。そしてキューンハイトが

「明日から訓練始めれるか?新しい兵も見ておきたい。」というとアンムートは背中を向けたまま少し微笑んで

「準備はほとんどできています。」と答えた。そしてキューンハイトは

「よし!じゃあ明日からまた鍛えなおすぞ!」といい部屋に帰っていった。そしてアンムートは

「ほんとにあの人は。」と少し笑顔で独り言をこぼした。


   翌日各隊が訓練を開始した。その訓練の中でもっとも過酷だったのは白金隊だった。白金隊は新しく入って来た兵士たちを連れて、エーデルシュタインの故郷であるエーデルシュタイン向かった。すると一人の新米兵士が

「隊長、自分たちは隊長の故郷で訓練するのですか?」と聞くとエーデルシュタインは

「おまえらには俺の村の人間ぐらいまで強くなってもらう。」と言った。そして兵士は

「村の人たちってことは、まさか自分たちはいじめをさせられるのですか?」と不満そうに言うとエーデルシュタインは

「いや、もう村でいじめはやめたんだ。これじゃみんなの連携がとれねえと思ったからな。」と言うと兵士は少し安心していた。続けてエーデルシュタインが

「だから代わりに3か月間山で集団生活することにしたんだ。」と言うと兵士は凍り付いた。エーデルシュタインでは、やはり強い人間を育てる文化があり、12歳から3か月間極寒で猛獣も出る山の中で集団生活をする文化が新たに生まれていた。そしてエーデルシュタインは

「安心しろ。うちの村のガキどもも一緒だからよ。」と言った。

 そして村に到着すると食事をとってから兵士たちを集めて訓練の説明を始めた。

「これからお前らには山の中で3か月集団生活をしてもらう。自分だけだらけようとすると最悪死ぬからな。一応うちの村からガキどももいくから毒がある生き物とか教えてもらえ。まあ頑張って仲間たちと協力して猛獣とかと戦うこったな。そんじゃがんばれ。」といい山に連れて行ってエーデルシュタインは村に帰っていった。兵士たちはただでさえ標高が高くて息が苦しいのに、ここから猛獣との戦いや寒さとの戦いの3か月か始まった。

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