第10話 誤算

 クリスタに宣戦布告した直後、アルメヒティヒは宣言通りロクスワを3万の兵で包囲、それに対しクリスタの守備隊5000、圧倒的兵力差をもって1日で陥落させ、ロクスワに1万の兵を残してその勢いのままセビアに向かい、ロクスワ陥落から3日後セビアの包囲にも成功した。アルメヒティヒがセビアを包囲し、攻撃命令を出そうとしているとき急報が入った。その報告によると、ロクスワに残した1万の兵が全滅しロクスワが奪還されたという。アルメヒティヒはチーシュまで撤退するために、慌てて軍の包囲を解くように命令を出した。すると西の方から砂煙が見えた。なんとそこにはクリスタ主力部隊の一つである深緑隊が突撃してきていた。これにはアルメヒティヒもどうすることもできなかった。


   クリスタ軍がロクスワをこんなにも早く奪還し、タイミングよく深緑隊が突撃したのも白狼隊のナハトの活躍が大きかった。ナハトは天才的な密偵で、あるときは小柄な商人、あるときは若い新兵などまるで別人のように変装できる。この戦争が始まる前、サボジオは参謀部に新入りを数人採用していた。その中の一人がナハトだった。つまり、アルメヒティヒが会議の時に話した内容すべてがクリスタ軍に筒抜けだったのだ。その情報をもとに、港湾都市スワロに深緑隊を配置し、あえてロクスワには5000人の守備隊しか置かなかった。だがロクスワを見捨てたわけではなく、都市のいたるところに伏兵を忍ばせておいた。その数約5000人である。ロクスワに1万の兵士を置かれていても、その兵士たちは都市の外側を警戒し内側への警戒は弱くなる。そこで伏兵は半分の兵力でも連携して一気にロクスワを奪還したのだ。深緑隊の突撃も、サボジオ軍主力を確実に倒すために、奇襲という形で深緑隊を向かわせた。


   深緑隊はただ突撃するのではなく、アルメヒティヒが兵士としても恐ろしい腕を持っていることを知っていたので突撃するときに、アンムートに士気をとらせて彼以外の隊長でアルメヒティヒの相手をした。さすがのアルメヒティヒも、クリスタ指折りのキューンハイト、ゼーンズフト、ゼンティメント、ドルフ、アウゲ5人には勝てずに打ち取られた。アルメヒティヒ軍も深緑隊の突撃により壊滅した。クリスタ軍は、戦争のはじめに敵の最も厄介な主力を叩くことによって戦争を有利に運んだ。


   深緑隊がアルメヒティヒと戦っていた時、白狼・烏連合隊がチーシュの西の都市ラメロを包囲していた。この隊には、前回の戦争では作戦本部に所属していたヴァイスハイトも参加していた。連合隊が配置に着くと、アドルフが突撃命令を出した。まず、アドルフは自分の隊450人を率いて城門に向かい、そこで破城槌を使って門を攻撃した。本来、破城槌は屋根と車輪がついており数人で押して移動するものだったが、アドルフはその槌の部分だけを使ったことで、走って門の前まで距離を詰めることができた。走ってる間に死傷者が出なかったのは、ファルケの弓隊3000が門の上の弓兵に向かって矢を放っていたのが大きい。だが隊長のファルケはアドルフとともに正面の門を攻めていた。ノアとハルトリーゲルは、ノア隊1500人とハルトリーゲル隊1600人(ノア隊)で攻城塔を使って敵の右翼を攻め、リッター、レッフェルン、ナハトはリッター隊レッフェルン隊それぞれ1600人とナハト隊50人(リッター隊)でこちらも攻城塔を使って敵の左翼を攻めていた。この両翼の隊は攻城塔を押す兵士以外は縦で防御陣形をとっており敵の弓兵の攻撃は効かなかった。ラメロの城門は2枚になっていた。アドルフ隊は一枚目の城門を突き破ると2枚目に向かった。だがこの城門と城門の間には矢間が左右に2ずつと、上の一部が開いておりそこから弓兵が矢を撃ったり岩を落とせるようになっていた。そこでアドルフは、壁をけって上の空いているところに入り中の弓兵たちを蹴散らした。下では4つの矢間を兵士が縦で塞ぎ、安全に城門を突き破ることができた。ファルケもアドルフと一緒に城門の上にあがり、城門を破って攻める味方を援護した。右翼のノア隊も攻城塔を城壁に付けて、ノアが上がったところで槍を横に振って敵兵を蹴散らし、隊が上がれる場所を確保して次々と敵兵を倒していった。左翼のリッター隊も攻城塔を城壁に付けて、リッター、レッフェルン、ナハトが先に上がって敵を蹴散らして隊が上がってくる場所を確保し、敵兵を倒していった。両翼の隊に兵士を集中させたおかげで城壁両翼はすぐに確保し、2つの隊はすぐに城壁から降りアドルフ隊と戦っているラメロ守備隊を包囲し壊滅させた。この戦いでは、城壁を攻めるアドルフ隊は兵が少なく一番危険だったが、城門を破ってもアドルフ隊は城壁の通路から出ずに防御陣形をとっていて、アドルフの隊はもともと隊の中でも精鋭を編成していたので耐えることができていた。


   そしてこの戦いは、ヴァイスハイトの見事な戦術と、隊長達の桁外れな強さで、白狼・烏連合隊1万対ラメロ守備隊7000だったのが、被害はラメロ守備隊壊滅に対して連合隊は被害なしであった。攻城戦において攻守三倍の法則というものが存在する。これは、城を攻める側が城を落とすのに防衛側の三倍の兵力が必要というものである。だが今回の戦いにおいて連合隊は三倍どころか二倍の兵力もなかった。そのうえ被害なしというのはありえないことだった。これはヴァイスハイトの戦術と隊長達の強さがなせる奇跡であった。ちなみにこの戦いでの各隊長の撃破数は、烏隊リッター456人、ハルトリーゲル387人、レッフェルン364人、白狼隊ノア466人、ファルケ189人、ナハト403人、アドルフ600人だった。7人合わせて隊長達だけで2865人撃破で、敵守備隊の半分弱を撃破したことになる。白狼隊と烏隊は、前回の戦争ではほとんど出番がなかったので、実質これが二つの隊の初陣となった。

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