第9話 サボジオ

   クリスタがエーデルシュタインを迎えて約1年後。意外にもサボジオの戦争はまだ終わってなかった。サボジオは、初めこそ順調に都市を攻略していきフサインを占領し、後はフサインの南にある同盟国のカリオンを攻略するだけのところまで来ていた。だが以外にカリオンの最北端の都市、トント攻略に時間がかかった。その間にカリオンは反撃体制を整え、トント陥落直後に奇襲をかけ、それによりサボジオ軍は勝ちはしたがかなりの兵を失い、時間を浪費した。そこからもカリオンの抵抗は激しく、トントの南の都市シメラ、首都ヨムトを落とすのに約5か月を費やした。サボジオ軍は、首都を落としたことによりカリオンが降伏すると読んでいたが、カリオンは首都を失っても最後の港湾都市であるキロイに立てこもった。そして開戦から約一年経った現在、キロイを陥落させた1週間後である。


   サボジオの国王カイザーの前で国家戦略について議論していた。サボジオは、戦争を続けてきたにしては軍の損耗が少なかった。議論では、すぐにクリスタに攻め込むか、準備をしっかりと整えてから攻めるかを話し合っていた。そこでサボジオ軍総帥のアルメヒティヒが話し出す。

「みなさんサボジオ軍は今すぐにでもクリスタに攻め込むべきです。しかし今回はしっかりと宣戦布告をしてからね。今我々の軍の兵力はクリスタに比べて半分ほどです。なので普通にやっても勝てません。そこで我々は少数精鋭の軍の機動力で一気に攻め入るべきです。」

そういうと参謀部の人間が

「前のクリスタとの戦争で活躍したからって調子に乗るな若造が!」

とアルメヒティヒに怒鳴った。実はこのアルメヒティヒという男は、前のクリスタとの戦争の3年ほど前に軍に入ってきて短期間で総帥にまで上がってきた天才軍人である。アルメヒティヒが続けて話す。

「今回攻めるときに前回と違うことは、こちら側の密偵がもうクリスタにいない

ことですね。ですが今回は参謀部も新しく増えたようなので勝てる見込みは十分あります。どうするかは国王陛下が決めてください。」

それを聞いて国王が

「アルメヒティヒの意見を採用し、1週間後我々はクリスタに対し宣戦布告する。」

と宣言した。そこから1週間の間、軍はそれぞれの都市に入って訓練し始めた。参謀部の会議には、アルメヒティヒ、トイフェル、ユーバメンシュ、ルフトの軍の隊長達も加わった。


   アルメヒティヒは先ほど説明したが、他の三人は大陸戦争で活躍した古参である。サボジオはもともとこの三人でもっていたが、アルメヒティヒが来てからはあまり活躍しなくなった。トイフェルは、剣の達人で戦術にもたけているため大陸戦争中は悪魔と呼ばれ恐れられた。ユーバメンシュは、クリスタのキューンハイトと似ており、やり使いの猛者である。その戦いは豪快であり、戦術もしっかりとしている。ルフトは、一見あまり強そうな感じはしないがサボジオ軍一の智将である。彼の立てる戦術はどれも見事なものであり。どこまで先を見通しているかわからない恐ろしい人物である。こんな3人が前回のクリスタとの戦争で出てこなかった理由は、このアルメヒティヒがあまりにも優秀だったからだ。彼は一人で作戦を立て自ら軍を率いて都市を5つ落とした。クリスタ軍はいかにしてこの男を早く倒せるかがカギになってくる。今回、クリスタと戦う時にアルメヒティヒが考えている作戦は、クリスタの防衛の要のスワロ、ロクスワ、レイドのうち3都市中央のロクスワを落とし、その後にこの3都市を支えているセビアを落としてからレイド、スワロを孤立させ確実に落としていくという作戦だった。そのためアルメヒティヒは、宣戦布告の前にチーシュで待機していた。アルメヒティヒは前回の戦争同様、ロクスワにいるでクリスタ主力部隊のひとつを都市の外へおびき出しその間にロクスワを落とす戦略を立てている。これこそが前の戦争で、赤猪隊に奇襲をかけ、白狼隊をおびき出しクリスタ軍を混乱させた戦い方である。


   会議で宣戦布告が決定した1週間後、ついに宣戦布告するときが来た。サボジオの国民は王宮のまえにあつまり国王の演説を聞いた。

「私が最も愛している国民たち、我々サボジオはクリスタに宣戦布告することになった。この戦争は我々から仕掛けるが侵略戦争ではない。大陸戦争で我々は散々な目にあい都市の多くも占領された。だが今我々はクリスタを残し、大陸すべての都市を手に入れた。今回の戦争でクリスタに勝利することで大陸の国は我々サボジオだけになる。これは何を意味するか。永遠の平和である。悔しいがサボジオ軍の兵力はクリスタの半分程度である。だが我々は3つの国に勝利した。これは神が我々についているからだ。今の我々は負けることがない。今回の戦争で見事勝利し、永遠の平和を実現しようではないか。」

その言葉を聞き国民は歓声を上げる。サボジオ国王のカイザーは、このように国民の心をつかむ演説が上手かった。この演説によりサボジオの士気は頂点にまで登った。


   カイザーが演説し終わったころ、クリスタに宣戦布告の報が入った。それと同時にアルメヒティヒがチーシュから出撃した。ここからクリスタとサボジオの戦争の幕が開ける。

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