第8話 沈黙の愛情

   白狼隊のノアが中性的な見た目なのはたまたまだが、ノアの目がきれいな青色をしているのはエーデルシュタインの人間の大きな特徴である。そのため、城壁の兵士はノアを見てアドルフたちを都市に入れたのだ。エーデルシュタインは、ノアを睨んだままクリスタ軍に加わる条件を出した。

「もしお前がこの都市で俺の後を継ぐために、訓練を受けなおすなら味方についてやってもいい。」

そう言いエーデルシュタインは、答えは明日まで待つと部屋を出ていった。その日アドルフたちは都市にある宿に泊めてもらった。そこでもノアは暗い顔をしていた。


   次の日、エーデルシュタインのもとに兵士がアドルフを連れてきた。するとエーデルシュタインは兵士に、

「まだ連れて来いと命令していねえが?」

と聞くと兵士は

「今朝この男が頭領の御子を崖から突き落とすのを見かけて連行してきました。」

それを聞くとエーデルシュタインは兵士を下がらせアドルフに問いかけた。

「一応なぜそんなことをしたか聞かせてもらおうか。」

「軍から、もしも交渉中に裏切り者が出たときはそいつを殺すように命令されてたんだよ。」

そう答えた瞬間アドルフは、エーデルシュタインに蹴り飛ばされて壁を突き破って外に倒れた。アドルフが起き上がろうとすると、エーデルシュタインはアドルフを空中に蹴り上げ、顔から地面に殴りつけ、また壁を突き破って家の中まで蹴り飛ばした。エーデルシュタインがアドルフに近づき剣を抜いて、アドルフの顔めがけて突いた。それをアドルフはぎりぎりよけていた。そしてアドルフがエーデルシュタインに話しかける。

「なんだよ、お前みたいなやつでも息子のことでキレれんじゃねえかよ。」

「なに?」

「お前は今自分が何にキレてるかわかってねえのか?なら教えてやるよ。お前は息子のために殴ったら戦争になりかねない人間を殴ったんだ。」

その言葉を聞いてエーデルシュタインは膝から崩れ落ち呆然とした。そこにノアが来てアドルフに駆け寄る。

「大丈夫かい?だから無茶はしないでって言ったじゃん。」

「ノア、俺はなんともねえから親父の方に言ってやれ。」

そう言われ、ノアはエーデルシュタインの方に近づくと、エーデルシュタインはノアを抱きしめ泣き出した。

「よかった!生きててよかった!」

エーデルシュタインがそう言いながら泣いているとアドルフが立ち上がりながら、

「おっさんわかるか?それが愛情っていうもんだ。」

というと倒れた。


―――数時間後

   アドルフが目覚めるとエーデルシュタインの頭領の屋敷にいて、そこにはエーデルシュタインとノア、ファルケ、ナハトがいた。アドルフが起き上がるとエーデルシュタインが謝罪してきた。

「すまん。つい頭に血が上って手を出しちまった。」

「いや、こちらこそ悪かった。」

とアドルフも謝り返した。

「俺に父親として当然のことを気づかせてくれて感謝する。軍のことも俺たちはクリスタに加わることにした。」

エーデルシュタインは父親としての愛情がなかったわけではないが、幼いころから兵士として鍛えられたことで自分の中の愛情という感情が分からなくなっていた。だが、アドルフの言葉によって自分の愛情に気づくことができた。そして、これでエーデルシュタインがクリスタ軍に加わることになった。

「お前たちは傷のこともあるしゆっくり休んでいってもらって構わない。」

エーデルシュタインがそういうと、アドルフは今日は休ませてもらい明日セレウスに帰ると言った。


   翌日アドルフたちが荷物をまとめエーデルシュタインに挨拶をしに行った。エーデルシュタインはまた近いうちにセレウスに顔を出すとアドルフに伝えた。アドルフたちが城壁に向かおうとするとエーデルシュタインがノアに話しかける。

「お前今はなんて名前なんだ?」

この都市では、子供は兵士になるまで名前が与えられない文化があったからエーデルシュタインはノアの名前を知らなかった。

「ノアだよ。」

そうノアは笑顔で答えると

「そうか。いい名前だな。」

とエーデルシュタインも笑顔で答えた。そしてアドルフたちは城門に着き、兵士に門を開けてもらうと女性が寄ってきた。その女性を見てノアは抱き着いた。

「お母さん!」

その女性はノアの母親だった。ノアは母親に抱き着き思いっきり泣いた。アドルフたちは、ノアが泣き止むまで黙って待っていた。しばらくするとノアが泣き止み、母親にお別れを言った。

「お母さん、また来るから元気にしててね。」

「ノアも元気でね。無理しすぎないようにするんだよ。」

そういいノアはアドルフたちと門を出ようとすると、母親がノアの名前を呼んだ

「ノア!」

「何?」

「生きててくれてありがとう!」

それを聞いたアドルフはノアに自分の来てたコートを頭に被せた。


―――10日後

   アドルフたちがセレウスに帰ってきて、参謀部に報告をした。その時にトラオムから今の状況について話を聞いた。アドルフたちがエーデルシュタインに行っているとき、意外にも戦争は特に変化がなかったという。そしてトラオムは今回のアドルフたちの交渉が成功したこともあり、ここからクリスタ軍を陸軍水軍ともに強くしていくと言った。

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