第7話 エーデルシュタイン

   アドルフたちがクリスタに帰ってきた。ラコール視察のことと海賊との戦闘を参謀部に報告終わった時、一緒に話を聞いていたブリッツから話があった。

「白狼隊、烏隊が視察に行っている間にエクリオはサボジオに敗北した。」

その話を聞いてアドルフたちに衝撃が走った。いくらエクリオが大陸戦争から弱くなっていたと言ってもそんなに早く負けるとは思っていなかった。するとトラオムが

「まさかこんなに早くエクリオが負けるのは僕も想定外だよ。今サボジオはフサイン、カリオンと戦争してるけど、いよいよ他人事じゃなくなってきた。」

「このままもしも1か月2か月ぐらいでサボジオが勝っちゃうと僕たちはかなり危ない状況になる。もちろんヴァイスハイトから話を聞いて水軍を増強するけどそれじゃあ陸が危ない。」

「今うちの軍の精鋭部隊は白狼隊、烏隊、深緑隊、赤猪隊の4つしかない。そこで手っ取り早く主力を増やす方法があるんだけどかなり厄介。」

その話を聞いてアドルフはなにが厄介か聞いた。するとブリッツが代わりに答えた。

「エーデルシュタインを味方につけることだ。」

続けてトラオムが話す。

「その交渉には白狼隊が一番適役じゃないかな。」

それを聞いてアドルフは断ると即答した。トラオムが不思議そうに理由を聞いたがアドルフは理由を話さずに部屋を出た。


   次の日、アドルフは国王に呼び出された。宮殿に行ってみると国王から、エーデルシュタインの交渉を白狼隊に頼みたいと言ってきた。続けて国王が

「アドルフよ、これは命令じゃなくてわしからの頼みじゃ。3日やるからそなたが決めよ。」

と国の王らしからぬこと言った。アドルフは国王に返事をせずに宮殿を出た。次の日、アドルフは訓練に顔を出さなかった。兵士たちが心配して部屋を訪ねたがアドルフはそこにいなかった。夜になりアドルフは自分の兵舎の屋根で寝転んでいた。するとノアが屋根に上ってきて一緒に寝転び話し始めた。

「ねえアドルフ、王様にお願いされたんだって?断ったのは僕のためでしょ。」

とノアが聞くとアドルフは寝返りを打ち

「違えよ。長旅で疲れてんだよ。」

と答えた。

「嘘ついても無駄だよ。アドルフは頭はいいのに嘘が下手だから。」

「この頼み受けようよ。確かに僕はあそこに行くのは嫌だけど、それでアドルフが苦しむのはもっと嫌だよ。それに今はアドルフやファルケ、ナハトもいるから平気だよ。いつもアドルフはみんなを助けてくれるけど、たまには僕たちにも頼ってよ。」

そういいノアは屋根を降りていった。


   次の日、アドルフは参謀部にいきトラオムに

「エーデルシュタインに行くこと決めたけど、この交渉について首突っ込んでくんなよ。」

と言った。それにトラオムは不思議そうに何かを言おうとしたがヴァイスハイトがそれを止めた。その足でアドルフは宮殿に行き王に頼みをうけることを伝えた。白狼隊は2日後にセレウスを出ることになった。次の日の訓練でアドルフは隊の全員を集め話した。

「明日からエーデルシュタインに行くことになったが、お前らはここに残って訓練してろ。サボらないように監督としてブリッツ師団長が来る。」

それを聞いて兵士たちは不満そうだったがしっかりとその命令を聞いてくれた。出発の日、白狼隊の兵士たちが見送りに来てアドルフはブリッツに留守を頼んだ。今回の交渉に行くのは、アドルフ、ノア、ファルケ、ナハトの隊長4人だ。


   アドルフがこの交渉に兵士たちを連れていかなかったのは、兵士たちの命の保証ができなかったからである。このエーデルシュタインはクリスタの最北端に住んでいる先住民の都市だ。エーデルシュタインというのは歴代頭領の名前であり今の頭領は8代目エーデルシュタインである。先住民と言っても生活は他の都市と変わらない。だがこのエーデルシュタインは、極寒の地であり標高もかなり高く酸素が薄い。そんなところでずっと生活している先住民たちは恐ろしく身体能力が高い。そこの兵士たちは都市に近づくものを撃退するように言われていて、だれもそこには近寄れない。そこの兵士たちを、クリスタ軍に加えられたら確かに一瞬で主力部隊になる。だからトラオムは厄介だが、エーデルシュタインを味方にしようと考えた。


   アドルフたちがセレウスを出ててから4つの都市によりながら10日ほど、ようやくエーデルシュタインに到着した。到着してすぐに城壁の上から兵士が弓を構えていた。だがすぐに兵士たちは門を開け、アドルフたちをエーデルシュタインのところへ連れて行った。アドルフたちが兵士たちに従って座るとエーデルシュタインが口を開いた。

「今更帰ってきて何の用だ」

とノアに問いかけた。するとアドルフが

「あんたにクリスタ軍に入ってもらうために来た。」

と話すとエーデルシュタインが投げたナイフが頬をかすめた。

「おめえには聞いてねえ黙ってろ。」

といい再びノアに話しかける。

「本来ならお前が跡継ぎになるはずだったのに、ここから逃げ出して俺の面子はつぶされた。なのに今更帰ってきて軍に入れだあ?なめてんのか」

ノアはエーデルシュタインにかなり怯えていた。実はノアはこのエーデルシュタインの息子だった。


   この都市には伝統として、新しく兵士になる人間を兵士たちがいじめてそれに反抗して強くなるという伝統があった。ノアがまだ12歳のころ、エーデルシュタインがノアを兵士にしようと兵舎に入れようとしたところ母親が嫌がり、こっそりノアを都市の外に逃がした。ただ都市の外に逃がしても、厳しい環境の中で生きれる保証はなかったが、ノアの母親はその可能性にかけた。そしてノアが都市の外を歩いているときに出会ったのがアドルフだった。アドルフがエーデルシュタインの交渉を断っていた理由がそれだった。

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