第5話 人狼探し

   サボジオとの戦争が休戦になりそれぞれの部隊が人員の補充や訓練を始めた。そのころ参謀部では、実質的に5つの都市を落とされたことについての会議が行われていた。その会議の中でヴァイスハイトが知らない男がいた。その男はトラオムという人物で、目の下にクマがあり明らかに不健康そうな見た目だ。話を聞くと、トラオムは大陸戦争終結の2年前、つまりキューンハイトとほぼ同時期に軍の参謀部に入り、戦争が終結したのはキューンハイトだけでなくこのトラオムの活躍も大きかったようだ。サボジオとの戦争中、この男は病気で寝込んでいて参謀部に顔を出せなかったという。


   とりあえず会議が始まるとトラオムが話し出す。

「ヴァイスハイトだっけ?君、割といい作戦考えるね」とヴァイスハイトに言うと参謀部は不満そうにする。

「それに対しておじさんたちはなにをしてたんだ?都市5つも落とされて。」

この話を聞いてヴァイスハイトは何となく参謀部の人間が新入りを嫌う理由が分かった。続けてトラオムが話す。

「今回の戦いは全部聞かせてもらったけど。明らかにこの中に裏切り者がいるよね。」

その言葉に参謀部はざわつく。確かに作戦本部のなかに情報を漏らす者がいたとしたら、敵の動きに説明がつく。ヴァイスハイトもなんとなく気づいていたがそれを口には出さなかった。トラオムの発言により参謀部の人間達が疑心暗鬼になり、お前が裏切り者だという声であふれた。するとトラオムが

「いっそのこと僕とヴァイスハイト以外、一回参謀部解散しよっか。」

その話にはヴァイスハイト以外の参謀部の人間が反対した。するとトラオムは、解散ではなく自分が考えた問題に答えられたもの以外を参謀部からやめさせると言った。それでも参謀部は反対意見が多かったが、トラオムはすでに国王にその試験を行う許可をもらていた。これには参謀部も文句を言えなかった。


   試験を行うとまさかのヴァイスハイト以外の参謀部の人間全員が答えられなかった。この選別で落ちた元参謀部の者たちは、軍から追放されて一般市民に戻った。これはあまりにも極端だが、裏切り者を探すために軍の中に亀裂が入ることを防ぐことと、偉そうにしている参謀部の人間を間引く狙いもあった。こんなことをするとトラオムは、軍法会議にかけられそうだが国王もこれには納得してくれた。だが参謀部を新しくしたのはいいが新たな問題が出てきた。それは参謀部が減りすぎたことだ。それを解決するためにブリッツは、もう一度参謀部を募集しようとしたがトラオムがそれでは一人も入ってこないと反対した。トラオムが作った試験は難しすぎて合格者が極端にすくなってしまう、なのでこの試験に合格した者には都市での暮らしを保証するという条件を付けた。さらに試験の受験料も無料にした。国王は取り合えずトラオムに任せるとその試験を許可した。試験は早速翌日から募集が始められ、締め切りの1週間後には応募者が1000人も集まった。


   早速、順番に応募者全員に試験を受けさせていったが今回は応募者が多すぎて合格者の発表に3日かかった。結果今回の試験に受かったのは、1000人中4人だけであった。この結果を見てわかると思うがトラオムの試験は極端に難しい。だがそんな試験に合格した4人は天才だと言える。早速その4人を参謀部に迎え入れた。その4人の名は、オルドヌング、ツァイト、フェルネ、クライネだ。全員20歳以下の若者たちだ。これによりまだ人数は少ないが参謀部が完成した。


   参謀部が試験などを行っているうちに世界の情勢に大きな変化が起きていた。大陸の一番東にある国、フサインとカリオンが軍事同盟を結び。大陸の南と北東にある島国、南のジコールと北東のラコールが軍事同盟を結んだ。これを聞きわがクリスタもエクリオと同盟を結ぶべきだという意見が出ていた。エクリオは、大陸五カ国のうちのすべての国と隣しているため軍がかなり強い。大陸戦争では、初めのころ怒涛の勢いで領土を広げていたがクリスタがそこから巻き返して今の国の形になった。よって今ではエクリオは弱くなっているがそれでも十分な強さを持っている。エクリオと同盟を結ぶのに参謀部の試験が終わるまで、国王はこの意見を保留していた。そしてちょうど参謀部の試験が終わったころに軍に報告が入った。その内容はサボジオがエクリオに宣戦布告したという知らせだった。クリスタは完全に遅れてしまった。だがその話を聞いてトラオムは何も問題ないと話した。トラオムはエクリオと同盟を結んでいたらこの戦争に巻き込まれるところだったと言う。それより、この戦争が起こっているうちに軍をもっと強くするべきだとトラオムは意見する。軍を強くするためにまずは、クリスタの水軍を強くするべきだということで、白狼隊と烏隊にラコールへ視察に行くように命令を出した。白狼隊、烏隊と言っても実際に行くのは隊長の、アドルフ、ノア、ファルケ、ナハト、ヴァイスハイト、リッター、ハルトリーゲル、レッフェルンの8人だ。


―――1週間後

   アドルフたちはセレウスからラコールへと出発した。しばらくするとアドルフが7人を集めてこう言った。

「ラコールにつくまで暇だからみんなで模擬戦しようぜ。」

これを聞いて意外と全員乗り気だった。ファルケは弓兵なので、ヴァイスハイトは戦闘員ではなく参謀なので参加しないが、船の上での模擬戦が始まった。最初はナハト対レッフェルンだ。ナハトは白狼隊の密偵で主に短剣を使っている。対するレッフェルンは烏隊の衛生兵もこなす人物で武器は150cmの自分と同じくらいの長さの棒を使っていた。この二人は10分ぐらい戦った。この模擬戦は制限時間を10分と決めて勝敗はつけないようにしていた。次は、ノア対ハルトリーゲルだ。ノアは白狼隊の槍使いだ。ハルトリーゲルの武器は剣だ。この二人の戦いも見ごたえがあった。最後はアドルフ対リッターだ。この戦いはどちらも武器が剣だった。この戦いも他と同じで見ごたえがあった。


  戦いが終わり白狼隊と烏隊は模擬戦の復習をした。そのときにリッターがアドルフに「これからまた模擬戦をするときは手を抜かないでいただきたい。」と不満げにいった。それにアドルフは「あんた強いな」とだけ返した。その後にハルトリーゲルがノアに対して「隊で一つの部屋だと女のあんたは寝にくいだろ。俺たちと寝るか?」と聞いた。するとノア以外の白狼隊が爆笑した。「なにがおかしい!」とハルトリーゲルが聞くとノアは「ごめん。ぼく男なんだ」と言った。その言葉にハルトリーゲルは赤面しながら謝った。たしかにノアの見た目は中性的であった。ハルトリーゲルは笑われた悔しさからか「うちのヴァイスハイトも白狼隊で寝たほうがいいんじゃねえの?」と言ったがアドルフが「いやヴァイスハイトは女じゃねえか」と即答するとハルトリーゲルは顔を真っ赤にしながら部屋に帰った。ヴァイスハイトもまた中性的な見た目だった。

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