第2話 青天の霹靂

   白狼隊と鴉隊が訓練を続けてしばらくが経った。そのころになると、白狼隊では武器が剣のアドルフ隊90人、槍のノア隊300人、弓のファルケ隊600人、偵察のナハト隊10人の編成が出来上がっていた。鴉隊は近接のリッター隊、ハルトリーゲル隊に各333人ずつで、衛生兵もできるレッフェルン隊333人の編成ができていた。この頃になると、初めのころは不満が多かった兵士も隊長の実力を認め連携が取れるようになっていた。


   ある日いつものようにそれぞれの隊が訓練をしていると、隊長たちが宮殿に集められた。そして、国王が軍の参謀や隊長たちの前で驚くべき発言をした。「本日明け方、都市チーシュ、カミレがサボジオによって占拠された。」この国王の話を聞いて宮殿がざわつく。するとブリッツが続けて「わがクリスタ軍はまだ詳細をつかめておらん。サボジオからの使者も来ておらん。今わが軍から偵察を送り現場の状況を探っておるからその情報が届くまでこれを戦争だと受け取ることはできん。」と言った。もしも戦争になった時に備えて準備をするようにというのが国王の命令だった。その話が終わり、自分の兵舎に戻っているときにノアがアドルフに「都市を奪ったのがサボジオだってわかってる時点でもう戦争じゃないの?」と聞くとアドルフは「んなこと考えてねえで武器の手入れしとくぞ」と答えた。その日、白狼隊の隊長四人は軍の鍛冶屋に行って武器の手入れや注文をし、その後はゆっくりと休んだ。翌日、白狼隊も鴉隊も3日間の休みを設けた。そして、3日後にまた参謀や隊長たちが宮殿に呼ばれた。全員が集まりブリッツが話し始める。「昨日帰ってくるはずだった偵察が帰ってこず、さらにわが国は都市ラメロを占領された。」その後に国王が「サボジオの我が国に対する侵略行為を宣戦布告と受け取った。」と言い放った。その言葉はほんの11年間の平和が崩れるという意味だった。すぐに軍で作戦会議が開かれた。


   サボジオによって占領された都市は、クリスタとサボジオの国境の近くにあるチーシュ、クリスタの最南端にある港湾都市のカミレ、チーシュの北西の都市ラメロである。今の状況で前線となる都市は西から、港湾都市スワロ、都市ロクスワ、レイドの3都市である。サボジオ軍は、奇襲とはいえこの三都市を4日ほどで落としたのだ。これは異常な速さである。初めに、チーシュとカミレが占領されてから偵察の帰りを待っていたことでクリスタは大きく出遅れた。そこでヴァイスハイト含む作戦本部は、スワロにキューンハイト率いる深緑隊、ロクスワに白狼隊、レイドに鴉隊を向かわせた。本部は、自分たちが指揮を執る首都であるクリスタ東側の港湾都市セレウスから一番遠いスワロに敵が攻めてくると読んで、精鋭の深緑隊を援軍として送ったのである。


   深緑隊は、首都セレウスを出てスワロまでの中継地点であるセビアで休憩していた。休憩と言ってもできるだけ早くスワロに行くために2時間ほどだった。深緑隊は5個の分隊に分かれていた。主力のキューンハイト隊2000、弓隊ゼンティメント2000、同じく弓隊アウゲ2000、槍隊ドルフ2000、剣隊ゼーンズフト2000でアンムートは深緑隊のいわば頭脳で、基本的にキューンハイト隊で指揮を執る。


   深緑隊が休憩を終えてセビアを出る。すると行軍中にゼンティメントが

「行軍中に襲われたらひとたまりもないなぁ。やっぱり戻ってセビアを守ってたほうが安全じゃないかなぁ。」とぶつぶつ言いだした。

するとアウゲは「大丈夫だよ。ここら辺は平原だから敵がいたら俺がすぐに見つけるから陣を張れるよ。」

というとゼンティメントが「平原で戦うより都市で戦ったほうが城壁もあるし安全じゃないかなぁ。」が返す。

「大丈夫っす!もしも野戦になっても自分が敵を近づけないですから!」とゼーンズフトが言ったがまだゼンティメントは不安そうにしていた。

するとキューンハイトが「ゼンティメントの臆病は今始まったわけじゃねえだろ?逆に言えば臆病なのがこいつの長所でもあるんだよ。」と笑いながら言った。そしてキューンハイトはアンムートに語り掛ける。

「なあアンムート、今回の本部の作戦どう思う?」

「さあね。私は戦術しかわかりませんからね。逆にあなたは何か引っかかるのですか?」

「なんか引っかかるっていうか、なんか気合が入らねえんだよなあ。」

「それはあなたの気分の問題でしょ」


    そんな会話をしながらセビアを出てから三日後、深緑隊はスワロについた。キューンハイトは、スワロがすでに包囲されていてもおかしくないと思っていたがサボジオ軍はまだ攻めてきていなかった。とりあえず都市の周りに偵察を出してその日はゆっくりと休んだ。次の日、本部からの使者により他の部隊も都市に到着したという報告を受けた。それから1週間が過ぎたが敵は現れなかった。本部の作戦では、スワロ、ロクスワ、レイドに精鋭を送り、それぞれの都市を防衛、敵に包囲されている場合はそこに攻撃をし敵主力を撃破という、籠城戦または奇襲によって敵主力を撃破するという作戦だった。この作戦は、安定した作戦だと言える。だが敵が攻めてこない以上効果を発揮できなかった。本部は各部隊が都市についた時点でアンファング率いる赤猪隊をロクスワに向かわせていた。セレウスからロクスワまでは2日ほどなので、5日前にロクスワについていた。そして本部からの命令で赤猪隊が都市チーシュ奪還のためにロクスワから出た。ここでチーシュを奪還することができたら、サボジオからラメロまでの連携を取りにくくできる。その勢いで港湾都市カミレも奪還出来たら、サボジオからラメロを孤立させることができ、クリスタ全土を奪還することができるのである。そのために赤猪隊を先遣隊とし、チーシュ奪還作戦を発動した。だがこの先、予想外の出来事が起こる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る