鴉と狼

防人

第1話 大規模徴兵


   この世界には10年前に終わった戦争があった。「大陸戦争」である。この戦争は約10年間続いた戦争で、大陸の国すべてで争い多くのものが命を落とした史上最悪の戦争である。そして今は大陸戦争が終わり平和な時代である。だが、永久の平和などはありえないことをこの世界の人間は知らない。   


    時代は大陸戦争終結から元号が変わり今は「和10年」である。大陸戦争から10年がたち町も前の状態に戻る兆しが見えていた時、クリスタの軍から徴兵令が出された。軍の話によると、最近隣の国のサボジオが軍を拡張しているという噂が流れてきたので我々の国クリスタも軍を拡張し、戦争が起きないようにけん制する必要が出てきたという話だ。この徴兵令では16歳から30歳までの人間が対象になり、この年齢の人は軍に行って2年間の訓練を終える義務を課せられた。最初この話を聞いたとき、市民はまた戦争が始まるんじゃないかと不安がる人が多くいた。しかし軍が、戦争を起こさないための軍備拡張だと言い張り市民は納得せざるを得なった。


    軍では、徴兵令で訓練を受けさせる人とは別に、いつものように国王の護衛や、国境警備隊などの常備軍と言われる人間も募集していた。だが今回は異例で、募集した人間に試験を受けさせてその試験の成績が良かったものはそのまま軍の上層部に入れるという仕組みができた。その試験は二つ種類があり、身体能力試験と知能試験の二つである。この試験は単純であり、身体能力試験では軍に所属する現役兵士と模擬戦闘を行いその現役兵士が認めた人間が上層部に行ける仕組みである。知能試験も、現役参謀と戦場を模した紙の上で駒を使って勝負しその参謀が認めたものが軍の参謀になれるというものであった。この二つの試験は単純だがそれゆえにその判定は厳しかった。今回身体能力試験に申し込んだのが約100人ほどで、知能試験は200人ほどであった。


   いざ試験が始まると、どんどんと人が落ちていった。もともと身体能力試験には300人ほどの受験者がいたが試験官がキューンハイトとアンファングだと聞いて200人が棄権したのである。そのキューンハイトは、16歳という若さで大陸戦争終盤に参戦し、すさまじい強さで名をとどろかせ大陸戦争終結を早めた英雄である。アンファングは大陸戦争九年目に17歳になり入隊し、戦争に投入される前から、この男が戦えば戦争を終わらせられると噂されていた猛者であったが、参戦する前に戦争が終わったのでほんとうの実力は未知数である。そんな二人が試験官だと知ったうえで、試験に挑んだのがこの100人である。だがそんな勇気ある100人も今どんどんと数が減っている。この様子だと何人が残れるかわからない。知能試験では棄権する人間はいなかったが、試験当日に試験方法が変更された。その内容は軍から紙が配られ、参謀が文を読み上げその答えが分かったら紙に書いて提出する方法に変わった。一日かけて試験が終わり、試験の合格者は翌日に王宮に来るように言われた。


   翌日、王宮に試験に合格したものが集まった。身体能力試験の合格者はなんと、アドルフ、ノア、ファルケ、ナハト、リッター、ハルトリ―ゲル、レッフェルンの7人だけであり、さらに驚くことにそのうちリッター、ハルトリ―ゲル、レッフェルン三人は女性であった。この時、軍に女性は一人もいなかった。これには国王もとても驚いたという。そして知能試験に合格したのはなんとヴァイスハイトただ一人だけであった。ここで国王ゲミュートがこの試験に合格した8人を軍の幹部にすることを認めた。その後、国王の近衛師団長のブリッツから軍の配属について話があった。この8人の配属は、ヴァイスハイトは参謀本部になり、リッター、ハルトリーゲル、レッフェルンの三人はヴァイスハイト直属の鴉隊の隊長になった。アドルフ、ノア、ファルケ、ナハトはアドルフが隊長の白狼隊に任命された。本来このように優秀な人材が出たときには1人1部隊で配属するのだが、今回は戦力を集中させるような配属になった。この配属は白狼隊の4人はもともと知り合いであり、鴉隊ももともと4人は幼馴染であったためそれぞれの希望も取り入れたものであった。


   早速試験に受かった2部隊は兵士を与えられ訓練を始めた。鴉隊は1000人隊で、白狼隊も1000人隊を任された。白狼隊の兵士は国の常備軍の兵士であったため、いきなり隊長になった4人に不満を抱いていた兵士がほとんどだった。そこでアドルフは「いきなり軍に入ったやつが隊長っていうのに不満があるやつがほとんどだと思う。だから不満のあるものは決闘を受け付ける。」と言った。すると兵士たちのほとんどが決闘を申し込んできた。それをアドルフは5人ずつ相手していって全員負かした。兵士たちはまだ不満があるようだがとりあえず指示に従うようになった。その日は、訓練を終わりにして明日から訓練を開始すると言った。一方鴉隊も、兵士は常備軍の兵士だったので不満のあるものがほとんどだった。兵士のうちの一人が、女の色仕掛けで隊長になったんだと発言した。するとハルトリーゲルは、その兵士を前に呼び出し顔を殴った。すると兵士は逆上し襲ってきたが、ハルトリーゲルはそれを圧倒的な強さでねじ伏せた。そしてその兵士を部隊から追放した。それを見て他の兵士は震え上がった。鴉隊も今日はここまでで明日から本格的な訓練を開始すると言った。

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