14
「……食う、か…?」
なんだか急に恥ずかしくなり。
居心地の悪さから、おずおず弁当箱を差し出すと…。
芝崎の顔がにわかにパッと花開く。
「いっ、いいんスか!?…あ、でもそれじゃ先輩足りなくなるよね…?パンひとつあげようか?」
「いや、あまり食欲が無いから…どれが欲しいんだ?」
問えばお菓子を選ぶ子どもみたいに、吟味する芝崎。
散々悩んだ結果、こちらを向いて「卵焼き!」と告げた姿が、なんだか微笑ましくなり。
つい笑みが、零れてしまった。
僕は卵焼きを箸でひとつ取り出して、
芝崎の口元に掲げてやる。
ところが芝崎は口を開かず…それどころか、ピシリと人形みたいに固まって、動かなくなってしまったので。
「…どうした?食わないのか?」
「えっ、あっ…そのっ。」
何故かオロオロと卵焼きを見つめたまま、
一向に食べようとしない芝崎。
「食べたく無いか…?」
やはり男が作った弁当なんて、抵抗があるのだろうか…
少しだけ気まずくなり、箸を引っ込めようとしたら。我に返った芝崎にガシリと腕を掴まれてしまい。
驚いたが、遠慮がちにも口を開けてきたので。
僕もゆっくりとそれを口へと運んでやった。
「…どうだ?美味いか?」
モゴモゴしながら首がもげそうな位、何度も縦に振る芝崎。動きが虎の玩具みたいで面白い。
若干顔が赤い気がするが、気の所為だろうか?
気にせず、今度は竹輪の磯部揚げを差し出してみた。コレにはもう、躊躇う様子はなく。すんなり食べてくれた。
「…コレも、手作り?」
めちゃめちゃ美味いと誉め倒す芝崎。
思えば母親意外に、手料理を食べて貰うという機会があまりなかったので。
その賞賛は、素直に嬉しいと感じた。
「ああ…うちは母子家庭だから、な…。」
同情とか、面倒だからあまり家庭事情を話したことなんて殆ど無かったのだけど。
気を良くしてしまった僕は、ついつい饒舌になる。
「へぇ~…そっか。だからこんな料理上手なんスね!スッゲ~、先輩カッコイイ!!」
…コイツはこういう奴だから、遠慮なんて無用なんだろうけど。
それからは昼休みギリギリまで、互いの事を話ながら過ごした。まあ、大半は芝崎が勝手に喋っていたのだけど…。
久しぶりにも他人と接する事が、こんなにも楽しいだなんて。
柄にもなく、そんな事を思ったのことは…
芝崎には秘密にしておこう。
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