13





連れて来られたのは旧館1階の最奥、非常扉の前。

こんな辺鄙な所には、流石に誰の姿も見当たらない。


そのまま扉を開けてすぐのコンクリートの石段に、

並んで腰を下ろした。







「ここで良かったかな?先輩は、静かな所が好きだと思ってさ…。」


確かにここなら誰も来ないし、人目も気にならないから申し分ない。肯定の意を込めて僕はコクリと頷く。




ここまで来るのに、何度も芝崎の知り合いに捕まっては、そのつど好奇の眼差しに晒されたお陰もあり…。少々ウンザリしていた所だ。

馴れない体験をすると、精神的疲労感は否めないな…。




なんというか、芝崎は無駄に知り合いが多い。

人柄なのか、誰もが好意的にコイツへと接してくる。


同級生に先輩、後輩…果ては教師に至るまで。

浅く狭い僕の人間関係と比べると、それはとても信じられない光景だった。








食欲は著しく低下していたものの、此処まで来た目的を実行しなければ話にならない。


のそのそと弁当箱を取り出していると、隣では芝崎がコンビニ袋を漁り始めた。







「…それだけ、か…?」


この図体では、食事の量も凄そうだなと予想していたのに。芝崎の袋の中身は、惣菜パンがふたつにパックのコーヒー牛乳がひとつだけと、意外にも質素な量だった。





「ん~?あっ、ホントは全然足りないんスけど…。うち、昼飯代もこずかいに含まれるんで。節約してるんすよね~。先輩は弁当ッスか?」


「ああ…。」


紺色の包みを解き、パカッと蓋を開ける。


興味津々とばかりに中身を覗いていた芝崎は。

途端に目を輝かせ、感嘆の声を発した。







「すっげえ~…先輩のお弁当、メチャクチャ美味そう!」


中身は至ってシンプルな、和食中心のお弁当。

殆どが昨日の残りなんかで作った素朴な内容だったが…芝崎はまるで宝箱でもみてるみたいに、キラキラした目でお弁当を見つめている。






「へぇ~、先輩のお母さんて料理上手なんスね!」


「いや…コレは、僕が…自分で…」


「え……ええっ!?」


怖ず怖ずと告げれば、驚愕して弁当と僕を交互に見比べる芝崎。


やっぱりおかしいのだろうか?

男が自分で弁当を作っているとか…。






「先輩の、手料理…」


ボソッと呟いた芝崎の喉が、ゴクリと鳴るのが聞こえて。


芝崎はなんとも物欲しそうな表情で…

弁当へと、釘付けになっているものだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る