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彼女が明かしてくれた過去。

それはほぼ芝崎が語ったものと、同様のもので。



唯一違ったのは芝崎も知らない、彼女自身の想いが…そこにあった。







町田さんの想いが通じ、芝崎との交際が始まった。


当時まだ中学3年生。

お互い恋愛には疎く、積極的な性格でも無かったから。


何をするにも手探りな関係だったそうだ。




告白したものの卒業間際であり、

不安も多少あったけれど…。


別々の高校に進学後も自然消滅することなく、

会う頻度が減っても、関係が断たれる事無く続いていた。


しかし…




夏目前という所で、芝崎が足を故障。

大事な時期とあって無理をした芝崎は、怪我を悪化させてしまい───…


入院を余儀なくされた。




手術も無事終え…1ヵ月ほどで退院したものの、

先の見えないリハビリや治療に絶望し。


そんな中、

医師から甲子園を目指すのは無理だと…宣告される。





完治させれば、野球だけは続けられた。

けど、その頃には夢は夢で終わってしまう。



叶わないと解っていて、

野球部に戻れるほど強くなんてあるわけがなく。


野球だけが…誰もか憧れる甲子園だけが、彼の全てだったのに。




何もかも、自分の所為で失ってしまった芝崎は、

殻に閉じこもってしまうのだった…。






明るく元気で眩しくて。

誰にでも優しかった彼が好きだった。


なのに芝崎は心乱し、

家族、友人、そして恋人の町田さんにさえも。



冷たく接するようになってしまった。





その時の彼女は、

彼の変化や態度にただ耐え切れなくて。




彼女は限界を感じ、

苦しんでる芝崎を見捨てて、



別れを…切り出したというのだ。







「…ずっと後悔してました。もっと芝崎君を支えてあげるべきだったって。結局彼に何もしてあげられず、私は逃げ出してしまいましたから…。」


ポタポタと机を濡らす涙はとても綺麗で。

彼女の純粋な心を、物語る。





多分町田さんは、

今でもアイツの事が、好きなんだ…。



だから今も尚、心を痛め…

罪の意識に囚われているのかもしれない。





「偶然会った時、正直どうしていいか解りませんでした。芝崎君も困ってたみたいだから…もう、戻れないんだなって。それが悔しくて…。」



このまま逃げてしまったら、きっと友達ですらなくなる。




「それであの日、芝崎君に会ってちゃんと話をしようって思って。…正門の前で待ってたんです。」


そこで偶然にも、僕と上原が鉢合わせたわけだ…。





「突然水島さんが走り出して…芝崎君もすぐに追い掛けようとしたんです。でも…水島さんのお友達の方が、来るなって怒ってて…。」



僕らの背を見つめながら追い掛ける事も出来ず…

泣きそうな顔して立ち尽くす芝崎を見て。


町田さんは全てを悟ったらしく。



今なんだ、と…想い至った。






芝崎の手を引き、追い掛けるよう説得したのだそうだが…。





『オレには無いんだ、そんな資格…。』


手を力無く振り払い、

地を見つめ全てを諦めようとする芝崎に、


何故だか無性に憤りを覚えて。




町田さんは堪らず、


芝崎の頬を思い切り、平手打ちした。

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