39




僕がやっとのことで辿り着いた気持ち。

それを初めて言葉に紡いだ時。





「…知ってる…。」


意外にも上原は全てを見透かしていたように、

あっさりとそう返してきた。





「えっ…?」


僕の肩に手を乗せ、目を合わせれば。

上原は辛そうに苦笑いを作る。





「たくっ…今更なんだよ…。ホント鈍すぎだろ、お前。」


からかうような物言いは、きっと彼の優しさ。





「はぁ…クソッ…。こんな事なら下手な意地張らねえで、速攻告っとけば良かったな…。」



なぁ、と囁く上原。




「もし、」



(芝崎じゃなくて、俺が先に告白してたら───…)





「いや、何でもねぇ…。俺はもう振られてんだもんな…。」


言いかけた言葉を飲み込む上原は…。

何かを振り払うように首を振ると、傷だらけの手で僕の頭を優しく撫でてくる。


それはまるで、戻らない過去を惜しむような…

後悔する自分と決別するかのように。





「…すまな、い…。」


何度謝っても、償いきれないのに。




「いいって、もうあやまんなよ…。」


それすらお前にとっては、苦痛になるんだな…。







「アイツんとこ、行くのか…?」


寂しそうに尋ねる上原。

肩に乗せた手にぐっと力が籠もる。


少し視線を落とし、僕はゆっくりと首を横に振った。






「…行かない。」


…本音は、行けない。



今更こんな気持ちを掲げて求めても…

町田さんの事で悩んでいるアイツを、


余計、苦しめるだけだから。





ここまで誰かに愛され、まさか自分から他人を求めるだなんて…有り得ないと決め付けてきたけど。


誰かに依存するって事はとてつもなく苦しくて。


誰かを傷付ける上で成り立っているような、

残酷で…それでも欲しくなる、甘いお菓子みたいだなとも思うのだけれど…。






「決めたんだ、もう。」


「俺じゃダメなのか?…俺は構わない…例え芝崎の代わりでも何でも、お前の傍に居られるならっ…───」



嘘。

平気な訳が、ないだろう?




お前は強いから、

涙なんて一度も流さなかったけど。



いつだって、内では泣いてたんじゃないか…。






「そんな事、しない…。お前を傷付けるからとか、そんな綺麗事じゃなくてっ…」


単純に、僕が耐えられないだけなんだ…。




「それでも…俺は傍にいるからな。お前がアイツんとこ行かねえなら、例え手に入らなくても。傍に…いる。」


あわよくば、でも縋りつきたい。

隙あらば、弱ってるお前の一番になりたい。




惜しみない愛情で、罪深い僕を。


やっぱり上原も、芝崎も…

とことん僕を甘やかすんだ。








「バカだな、お前も…。」


素直じゃない僕は、

毒を吐いてでしか何も言えないけど。






「あ?仕方ねぇだろ?」



“惚れちまったんだから”



さらりと言ってのけるお前は、

実は相当な男前だったんだなとか…


だから。



僕は母だけでなく彼にも敵わないなと、悟るのだ。

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