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けれども、今の僕には…

上原の暇つぶしに付き合っている余裕はない。



それどころじゃないんだから、

放って置いてくれればいいのに────…







「…あのデケェ後輩と、なんかあったのか…?」


「─────え…!?」


予想だにしなかった台詞に、

つい反応して泣き顔を晒してしまう。




見れば相変わらず上原は、明後日の方を向いていて。


全く意図が読めない…。








学校についてすぐ、

携帯電話にメッセージが届いた。


勿論、芝崎からで…




内容は、


『昼休み話したいから迎えにいく』



…という、簡素なものだった。






それからは何をしてても落ち着かなくて。

授業も何も、全く頭に入らなかった…。




どうしようかと悩むうち、

あっという間に4限目が終わってしまい。


追い詰められた僕は、

とりあえず逃げる道を選択したのだけれど…




教室前であっさりと、芝崎に捕まってしまった。







無理に逃れようとしても、

いつもと違う雰囲気の芝崎には、逆らいようがなくて…。



一緒に昼休みを過ごしてきたあの場所まで、


ズルズルと半ば強引に引き摺られ、

連れてこられてしまったのだ。





そして、芝崎に、


死刑宣告を突き付けられる…







きっと上原は、あの時教室にいたから…。

僕と芝崎のやりとりを、目の当たりにしたのだろう。


こうなると判ってたから。

芝崎が教室に来るのを、ずっと拒んでたというのに…。



その時は周りなんて気にしてる余裕も無かったから。

なんともバツの悪い話だ…。





こんな時、一番質の悪い人物に絡まれてしまう僕は。


どん底の心境から、

つくづく、運の悪い人間なのだなと…


思い知らされるのだ。








短くなった煙草を、

乱雑に地面で押し潰す上原に。


…灰皿使えよと心中で突っ込むものの、涙は未だ枯れることなく。



ただ静かに流れては、

ポタポタと雨に混じって足元を濡らした。






それは乾く事叶わず。

まるで梅雨の天気と鏡写しの如く…


空も僕と同じ様に、黒く醜く…重い。








「誰だ、アイツ?2年か?」


「……別に、関係ないだろう…。」


問われた所で、第三者の上原に説明する義理は無い。


その行動も意図も全く読めないのだから…尚更だ。




僕のそんな反抗的な態度で、

一瞬切れるのではと危惧したが…


今日の上原はいつもの荒々しさも無く、珍しいくらいに穏やかで。



それどころか、

泣いてる僕に遠慮しているかのような…そんな気遣いまでもが感じられた。



一体、どういう風の吹き回しだろうか…?

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