27




「カンケイ、あるんだよ…。」


切羽詰まったような掠れ声。



ギラリとした、

切れ長の鋭い眼差しで僕を捕らえ…


突然腕を引かれ、

耳元で吐き出された台詞。






「アイツは、お前の事が─────」



“好きなんだろう?”



芝崎とは異なる、野性的な重低音。

ヤケに色香を放つ、狼にも似た美貌。



芝崎が光なら、

上原はきっと、闇に住まう生き物。



その性質は対局ながらも。

人を虜にするような魅力と存在感は変わらないな、と…僕は思った。







「な、にを…?」


心臓が煩い。


芝崎が直接与えてくるような、

甘ったるい愛の告白ではなくて。



第三者が紡ぎ出した、突飛な証言。





…どうして?

僕にしか知らされて無いはずなのに。


どうして上原が、芝崎が僕に抱く感情の意味を、

知っているのだろうか…。



そしてそれが上原に、

なんの関係があるというのか…。







もしかすると…


『僕』というていのいい玩具を、

横取りされたから…


面白くないとか、そういう事なんだろうか?







…どんな理由にせよ、


上原に直接関わりが無い以上、

単なる逆恨みだと思うのだが…。







「何でだよ…俺だって────」



“ずっとお前を見てたのに…”



近付けられた距離が、更に縮められる。



後頭部を押さえられ、

僕の額が、上原の肩へとぶつかった。


そのままギュッと、乱暴に抱き締められる。






「ちょっ…上原…?」


名を呼べば、

一瞬身体を震わせるものの、腕の力が強まるだけ。



今までとは違う、酷くぎこちない上原の行動に、

さっきまでの出来事も相まって…


僕の頭はパンク寸前だった。








「…他の奴に、泣かされてんじゃねぇよ…。」


くしゃりと髪を梳いてくる上原。

背中に回されたもう片方の手が…宥めるよう、手探りにも動かされた。







上原の手は震えていて。


それは優しいとは程遠い、

ぎこちないものだったけれど…。





なんとなく上原が、

慰めてくれているのだとは理解出来たから…


少しだけ、張り詰めていた何かが、

緩んだ気がした。







もしかしたらコイツも、僕と同じ…

他人に対し、不器用な人種…なのかもしれない。




僕のお節介ながらの好意を、

冷たく振り払い、陥れたのは上原だったが…


それも今なら、

性格故に、素直になれなかった上原なりの、



誤った“好意”だったのかも…。






劇的に変貌を遂げた、上原の優しさに…

今の僕は縋りつくしかなくて。



煙草と香水の香るシャツを弱々しく握り締め、


つい先ほどの…芝崎との遣り取りを、

僕は無意識にも語り始めた。

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