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side. A






3日振りに水島が学校にやって来た。


久し振りに見たアイツは病欠の所為で幾分やつれ、

元気が無いように思えた。





昼休憩のチャイムが鳴り、教師が部屋を出て行く。


同時に水島も席を立つと、何故か弁当も持たず。

慌てて教室を出て行ったんだが─────…その時。








入り口付近で固まり、立ち尽くす水島。


視線は斜め上、

苦痛に顔を歪ませたまま…動けないでいた。




ざわつき出した胸を押さえつけ、

まじまじとその先を確かめれば────…



そこには、俺の知らないヤツがいた。









『は……が……んだ…』


『しっ………』



途切れ途切れに聞こえてくるのは、緊迫したもので。



長身のソイツを見上げる度、見せる水島の…

今にも泣き出しそうな顔に、


目を奪われる。







初めて見た…

アイツが他人に翻弄されているだなんて…。






授業中に盗み見た姿は、どこか上の空で…


まるで何かに怯えているような、

その背中に俺は。



言い知れぬ不安を抱いた。







水島は見た目からして軟弱だから、

風邪で休むのも珍しく無かったが…。


ここまで切羽詰まった状態を見るのは…

本当に初めてだった。







やはりその不安は、目の前で現実のものとなる。


俺が手を振り払った時でさえ、

あんなにひどく冷静だったのに。


俺の知らないヤツに、

あれほど感情的になっている姿が、



無惨にも俺に、刃を突き立てる。







暫く口論したのち、

半ば強引に手を取り、水島を連れ去る男。




3年にあんな目立つ野郎はいねぇ…。



だったら水島の後輩────…

いや…そんなもんで括るには、違う気がする。




たぶんそれは、俺にしか解らねぇ事。

何故なら水島を見る、あの男の眼は…


まさに“同類”の、眼だったからだ。





最初から隠そうともしない、水島へ向ける感情が、


俺にはムカツクほど、理解出来た。







先を越された。



“男”であること、

アイツの性格、自分のエゴだとか。


狭い考えに捕らわれて。





アイツが俺に心開く事は無いんだと決めつけ、

クラスメイトにそれとなく揺さぶりを掛けてまで、

水島から他者を切り離したのに…。



情けなくて、反吐が出る。





挙げ句、名も知らねぇ後輩に、

あっさりアイツの隣を陣取られちまうなんざ───…






「チッ……!」


教室内の生徒が、

あからさまビクリと肩を揺らし俺の様子を伺う。





密かに燃え始めた闘争心。

誰も知らない、水島へ抱く感情。



このままだと俺はただの虐めっこ止まり。



そんなの、ありえねぇだろが…よ?





ギリギリと拳を握る手が、どす黒く染まる。


まるですがり付くように、

さっきまでアイツがいた場所を。



俺はじっと睨みつけていた…。

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