22




僕の存在を気にしながら、芝崎は重たげに口を開く。




「ああ…一応完治はしてるよ…。町田、悪いけどオレ先輩を待たせてるから…。」


これ以上、会話を聞かれたくないのか。

芝崎は僕を言い訳に話を中断させる。





「あっ…ごめんなさい、気がつかなくて…。芝崎君、制服…」


彼女には何の罪も無いのに。

解っていても、落ち着かない。





芝崎は気にするなと素っ気なくも返し。

無理やりに別れを切り出した。


町田さんは、まだ何か言いたそうにしてるのに。

相手の反応も無視して、立ち去ろうとするなんて…

有り得ない。






名残惜しそうに芝崎の背を見つめている町田さん。


戸惑う僕の腕を掴み、

そんな町田さんから逃げるように急かす芝崎。





居心地の悪さと申し訳なさに、町田さんを振り返れば…切なそうな瞳とぶつかって、深々と頭を下げられた。





その後の芝崎は、明らかに異常だった。



いつもなら別れ際ギリギリまで甘えてくる癖に…。

今日は荷物を玄関に置いたら、あっさりと帰ってしまった。


いきなりこんな態度をとられたら、

正直どうしていいのかが解らない…。








『先輩、あのっ…─────』


殆ど無言だった帰り道。

何かを言いかけて口を噤んだアイツの。



初めて見せた、偽りの笑顔。






僕らは知り合って、まだ間もないけれど。

それでも芝崎は分かり易いから。


いくら鈍感な僕にでも、気付いてしまえるくらい…



本当に不自然な笑顔だった。







『サヨナラ』と、目も合わさず背を向ける芝崎。



後ろ姿が何故か滲んで見えて、

無性に胸が締め付けられた。





頭を掠めるのは、

“町田さん”と言う女の子の姿。


今時珍しい位に、物腰の柔らかそうなだった。




例えば芝崎の隣に並んで歩けば、

しっくりくるような…


むしろお似合いの、恋人同士みたいな────…






「ッ………!」


確証のない推測でヘコむなんて、らしくない。



けど苦しくて。

胸を押さえ、玄関にしゃがみ込む。






(もしかして…)


恋人…─────だったんじゃないだろうか?



ふたりで行動するようになってからは、

芝崎の同級生の女の子にも何度か遭遇した事があった。


けれどアイツは、いつでも気さくに対応していたんだ。






町田さんだけが、特別…?

仲が良い、と言う雰囲気では…無かったけど。



過去に2人の間で何かあったのは、明確だから…。





苛々と、霞ゆく僕の心。



芝崎ひとりの為に、

何故ここまで心乱されてしまうのか。






何かを言いかけた癖に、


僕が好きだと言う癖に、




ズルいじゃないか…こんなやり逃げみたいな仕打ち。







「何なんだっ…クソッ…!」


テストの問題なら、

勉強さえしてれば何てことないのに。


コレばかりは、手の打ちようが無い。




お前が“応え”をくれないと、

僕は本当に、おかしくなってしまいそうだ…。






そうして、

いつまでも解放されない真っ暗闇な感情に。


僕は少しずつ、蝕まれていくんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る