17





洗面所で重たい靴下を脱ぎ、バスタオルを二枚引っ張り出してから急いでリビングに戻る。


扉を開け中に入ると、芝崎はどこか緊張した面持ちでいて。棒立ちのまま、キョロキョロとしながら佇んでいた。






「何してる、早く脱げ。」


タオルを渡し告げれば、芝崎は上擦った返事を寄越し。のそのそと学ランに手を掛ける。


あれだけ雨に晒された芝崎の制服は、下に着たTシャツにまで染み込んでいて。ポタポタと床に水が滴り落ちていった。


それを勢い良く脱げば…

想像以上に逞しい上半身が露わになる。






髪から顎を伝い、鍛えられた胸板に筋を成していく水滴に…程良く色づいた、健康的な肌質。

自分の身体とは根本的に造りから違う、彫刻のような肉体美を目の当たりにして…。


僕は不覚にも、つい魅入ってしまった。




伴って、激しさを増す心音に耐えきれず…。

僕は慌てて芝崎から、視線を逸らした。







「…先輩も脱いだら?」


タオルで豪快に頭を拭きながら、声を掛けてきた芝崎にハッと我に返る。


なんだか居たたまれなくなって。

僕は誤魔化すよう、いそいそと制服のボタンに手を掛けた。



コイツの身体を目の当たりにした後で、見せられるような身体じゃなかったが。

ここで躊躇うのも、なんだか自分だけが意識しているみたいで悔しいから…。仕方無く上半身だけ裸になる。


男にしては白すぎる肌。

体毛も薄くて、筋肉も殆ど無いから…男にしてはなんとも貧相な体つきだ。



それを気にした事は無かったけど。

今となってはこんな情けない自分が、ひどく恥ずかしく思えた。







と…やけに静かになった室内に、ゴクリと唾を飲む音が響く。


同時に、痛いほど感じる視線に気付いてしまったものだから…。戸惑いつつもタオルでさり気なく隠し、背中を向けた。




お願いだから、そんな眼で見ないで欲しい…のに。







「ッ…!!」


気が付いた時には、既に芝崎の腕の中。

ギュッとその逞しい腕に縛られ、動けない。



肌と肌。遮るモノが何も無いからか…

アイツの忙しない心音や熱が、嫌というほど鮮明に伝わってきた。







「……………」


辺りはしんとしてる筈なのに。

共鳴するみたく互いの鼓動が高鳴って、聴覚を麻痺させる。


耳に掛かる吐息に、

理性を搔き乱されるから…怖い。








「先輩…あやと、先輩…?」


「っ…………」


声なんて出せるわけがないし。

どうする事も出来ない僕は、ただ項垂れるしかない。

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